複数のスーパースターを並び立たせる起用法
カワイ・レナードとポール・ジョージの2枚看板を武器に西カンファレンス2位と結果を残しているクリッパーズですが、この2人が同時にコートに立ったのは32試合、760分に留まっており、強力デュオが機能しているわけではありません。1試合平均のパス本数は271本で26位と少なく、個人技を中心に置いた戦い方ですが、レナードが13試合、ジョージが22試合を欠場しての好成績は、特定の個人に頼っているわけではないことを意味します。『個人技を中心しながらチーム全員で戦う』とらえどころのなさがクリッパーズの特徴になっています。
レナードは26.9得点、5.0アシストとともにキャリアハイを記録しており、『最後にボールをもらってシュートする』から『最初にボールを持ってプレーをクリエイトする』ことに役割を変えることで、多彩な能力を発揮し始めました。戦術の中で機能していたスパーズ時代やラプターズ時代とは違う顔をみせるレナードは、同時にキャリアハイのターンオーバーにもなっており、良い部分も悪い部分も含めて、クリッパーズ1年目の今シーズンはより自由にプレーしています。
この自由こそがドッグ・リバースのコーチングの特徴であり、戦術的な優位性には乏しいものの、複数のスーパースターを並び立たせることを得意としています。ポール・ピアース、ケビン・ガーネット、レイ・アレンを擁して優勝したセルティックス時代と同じような形を成立させていると言えます。
セルティックス時代の『ビッグ3』と違うのは、ジョージとルー・ウィリアムスも『ボールを持って個人で仕掛ける』ことを持ち味としているハンドラータイプであること。そのため、お互いの良さを潰しあう可能性がありましたた。ですが、この問題は一人ひとりのプレータイムを抑え、コートにいる時間はそれぞれが主役として自由を得ることで解決してきました。
プレータイムが最も長いレナードでも32分、他の選手は全員30分以下に抑えられており、しかも休養で試合に出ないことも挟むため、全員が主役として振る舞いながら不平不満が出ない不思議なチームバランスを維持しています。プレーオフになって主力のプレータイムが伸びるとお互いの良さを消し合うことも考えられますが、レジー・ジャクソンやマーカス・モリスといった個人で仕掛ける選手を追加補強しており、個人技中心にアタックしていく自分たちの戦い方とバランス感覚には絶対的な自信があります。
Revving up.
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— LA Clippers (@LAClippers) July 21, 2020
読みにくいオフェンス、読み切るディフェンス
即興的な要素が多くなる個人能力中心のオフェンスは相手からすればプレーが読みにくく、完全に止めきるのが難しい利点があります。それでも各チームが連携強化を重視しているのは、よりオフェンス力を高めて得点を増やすためですが、クリッパーズはディフェンス力に自信があるからこそ、この戦略を採用している面もあります。
レナード、ジョージだけでなく、エースキラーのパトリック・べバリー、動けて読みの良いモントレズ・ハレルと優れた個人ディフェンダーを揃えており、オフェンス同様に個人の特徴が組み合わされることで高いディフェンス力を誇っています。ただ、オフェンスと違うのは対戦相手のオフェンス戦術をスカウティングした上で、各選手には試合ごとに違う役割を与える柔軟な対応を持ち味としていることです。
これは100失点以下の試合で全勝しているだけでなく、3点差以内の試合が8勝1敗と、1ポゼッションを争う接戦での圧倒的な成績に繋がっています。多くの主役を揃えて個人に自由を与えながら、プレータイムをシェアして個々の負荷は抑えてきたクリッパーズの武器は、読ませないオフェンスと読み切るディフェンスです。お互いに相手の手の内を読みあうプレーオフの緊迫した試合でこそ、個人のひらめきを力とする特徴は際立ってくるはずです。対戦相手からすると最も戦いにくいチームになりそうです。