ロスターとスタイルの頻繁な変更が迷いを生む

長い低迷期の中で選手を育ててきたセブンティシクサーズは、ジョエル・エンビードとベン・シモンズが揃い52勝を挙げた2シーズン前を機に積極的な補強策へと方針を変え、トレードやフリーエージェントを駆使して実力者を集めてきました。今シーズンは中断期間までで39勝26敗。勝率は6割を超えていますが東カンファレンスの6位で、『優勝を狙えるチーム』と呼べるほどの力があるかどうかは疑問と言わざるを得ません。

最近ではエンビードやシモンズにもトレードの噂が上がるなど、上位にもかかわらずチームは揺れ動いています。

シーズン開幕前にジミー・バトラーが移籍したものの、アル・ホーフォードとジョシュ・リチャードソンという実力者を獲得し、より分厚い布陣になりました。特にシモンズとリチャードソンのガードコンビが強烈なプレッシャーを掛け、インサイドではエンビードとホーフォードがブロックに飛んでくるディフェンスはリーグ屈指で、これはディフェンスの戦いとなった昨シーズンのプレーオフで勝てなかった反省から来た補強でした。

一方でシーズン途中にはアレック・バークスとグレン・ロビンソン3世をトレードで獲得し、オフェンスのテコ入れと不足していたウイングプレイヤーも補強しています。ただこれは『弱点を補う的確な補強』と言えば聞こえが良いですが、そもそもガードとビッグマン、そしてディフェンス要員ばかりを集めた開幕前の補強が、バランスの悪いものだったと自ら証明してしまいました。

また、ヘッドコーチのブレッド・ブラウンが得意とするのは、多くのパス交換でディフェンスをずらしていき、全員が積極的にシュートに行くアップテンポなオフェンススタイルでしたが、ディフェンシブな選手を増やしたことで、1試合当たりのパス数が2シーズン前から42.4本も減りました。急激なスタイルチェンジは選手にも戸惑いを与え、役割が不明確であることへの不満も出てくるようになりました。

すべてはプレーオフのため、個々の持つ武器は充実

チームとしてのバランスの悪さを上げればキリがないのがシクサーズの悩みですが、チームとして未完成であるにもかかわらず高勝率をキープしています。シモンズは変わらず3ポイントシュートを全く打たないスタイルですが、ドライブとアシストでチームオフェンスを構築しており、トバイアス・ハリスはトランジションとハーフコートのどちらでも得点を稼いでいます。

また、足りなかったシューターには2年目のシェイク・ミルトンが3ポイントシュート成功率45%と高確率で穴を埋め、マティース・サイブルはルーキーとは思えない完成度の高いディフェンスで貢献するなど、今シーズンも若手が台頭してきました。チーム全体で相乗効果を生み出すのに苦労しながらも、選手個人はそれぞれ自分の良さを表現できています。

プレーオフではシリーズが長引くほど分析が進み、連携が遮断されロースコアの展開になりやすい傾向があり、そのため個人で違いを生み出す選手の存在が重要視されます。ディフェンスを強化したことも、個人技で輝く選手が増えたことも、すべてプレーオフを勝ち抜くために準備してきたことであり、チームとしての爆発力を感じさせない一方で、個人が持つ武器はこれまでになく充実している印象もあります。

最後に決めるべきなのは、やはりエースのエンビードになりますが、プレーオフになるとプレーを読まれフランストレーションを溜めるシーンが出てくる傾向があります。トレードの噂が出てくるのも、そんな不安定なメンタリティが『優勝を目指す選手』としての信用を得られていないことが原因と思われます。動きの早いフロントだけに、プレーオフの結果次第ではチームの再構築に動くかもしれません。エンビードにとっては自分の価値を証明すべきプレーオフになります。