文=泉誠一 写真=B.LEAGUE、泉誠一

東日本大震災の2年後、被災地である福島にプロクラブが誕生した。『絆』を意味する『ボンズ』と名付けられた福島ファイヤーボンズは、復興のシンボルとなるべく地域に根ざして戦いを続けている。あの日から7年が経った3月11日、同じく被災地の仙台89ERSをホームに迎え、満員となったアリーナで試合が行われた。

震災を機にできた福島ファイヤーボンズの意義

「今日という日に仙台と試合ができたことは、被災を経験した両県にとって非常に意義があり、良いゲームだった」。敗れた福島の森山知広ヘッドコーチはこう語り、この日、あらためて福島にあるクラブの意義を唱えた。

「震災を機にできたこのクラブが地域に何を残していけるのか。福島を背負っている以上は、それを選手たちにも問いたいですし、クラブとしてもその思いを持った選手とともに戦いたいという気持ちがあります。僕自身は2年目であり、震災を経験していないので当時のことを語ることはできませんが、僕らが県内の皆さんに対してファイヤーボンズのフィルターを通して伝えるべきことがあると思っています。そこをどう表現できるのか、クラブとしてどうつなげていくかが僕らの使命でもあります」

「今後、クラブが10年、20年、30年と続くように、福島の未来の子どもたちが将来はファイヤーボンズでプレーしたいと思ってもらえるように、その基礎を作るのが今いる選手やスタッフ、フロントの仕事です。このクラブが震災後にできた意義を考えると、僕らを通して福島が復興していることを知ってもらいたいです。また、全国各地のクラブと対戦することで「福島って良い街だね」、「食べ物が美味しいよね」と、スポーツを通して県外から見に来てくれた人たちが思ってくれることが一つの良い形でもあります」

「福島のホームゲームは面白いと周りのクラブにも思ってもらえるように魅力あるチームとなり、魅力あるゲームをすることが一番大事です。福島を背負っている以上は、みんなが常にそこを意識して取り組んでいくことこそが、このクラブの意義であると思っています。そのことを忘れないためにも、3.11のこの日に試合ができたことを良いきっかけとして、みんなで共有しながらこのクラブを引っ張っていきたいです」

仙台89ERSを通して、仙台の現状を知ってもらいたい

勝利した仙台の髙岡大輔ヘッドコーチは「3月11日という日に、僕がやりたいゲームプランである高いインテンシティで勝利をつかむことができ、たくさんの方と勝利を喜ぶことができてすごく良かったです」と満足気に勝利インタビューに応えていた。

7年前、選手として仙台にいたあの日を振り返れば、「自分でも何が起こっているのか戸惑っていた。この先、どうなるかも分からなかった。それに対して、表現は良くないけど、サバイバル生活が始まるという不安とワクワク感が交錯する変な感じ。でも、現実を知った瞬間、怒濤のように恐ろしいことだけが落ちてきて、生活をどうするか、みんなは生きているか、家族は大丈夫なんだろうかと考えていました」

髙岡ヘッドコーチも被災地にあるクラブを通して、震災や現状を伝えていかなければならない使命を感じている。

「復興と言われても、何が復興なのかその答えは難しい。今、東北の皆さんは未来に向かって進んでいるし、その歩みを止めていません。僕らもその指針となれるように、歩みを止めることなく成長し続けていきたいです。時間は経ちましたが、何もが全部元通りになったわけではありません。今も復興の最中であり、歩みを続けており、それに対して助けてくれている県外の方もたくさんいます。その現状を僕らを通して知ってもらいたい。ただ、それだけで良いです。遠くにいる方には、なかなかその情報が届かないと思いますので、バスケや仙台89ERSを通じて、そのことを知ってくれればうれしいです」

7年が経ち、福島と何事もなく試合ができたことこそが復興へ向かっている何よりもの証拠である。自身も被災したからこそ、髙岡ヘッドコーチは今この状況を感謝している。
「あの時はバスケのことを冷静に考えられる状況ではなかったです。でも、今は勝つためにみんなが協力してプレーすることを考えられていることにすごく幸せを感じています」

「男子日本代表戦をここ東北で実現したい」

試合会場には大河正明チェアマンも来場しており、2つの約束をした。「私たちは『けっして忘れない』を合言葉に、シーズン終了後に東日本大震災復興支援を選手会とともに行います。また、できれば男子日本代表戦をここ東北で実現したいと思っています」

実現すれば、2013年に東日本大震災復興支援として男女日本代表が揃ってゼビオアリーナ仙台で国際親善試合を行った以来となる。

震災から復興に向かって行く現状を、岩手ビッグブルズや熊本ヴォルターズも含めた被災地にあるクラブを通して知ることができるのはBリーグの利点でもある。今週末の福島はやはり同じく被災した岩手を迎え、仙台も山形ワイヴァンズとそれぞれ東北を熱くする試合が待っている。福島はB1昇格へ向けたB2プレーオフにまだまだ近い位置にいる。森山ヘッドコーチは、満員のファンに向かって「未来の子どもたちや未来の福島のためにも、あきらめずに戦っていきたい。そのためにも力を貸してください」とさらなる前進を誓った。