文=小永吉陽子 写真=小永吉陽子、Getty Images

20歳の八村塁インタビュー(前編)
「毎日の個人練習があるから成長できる」

モチベーションになった明成のウインターカップ優勝

――母校の明成高がウインターカップで八村選手たちの代以来の優勝をしましたが、後輩たちの活躍にはどんな思いがありますか。

明成の優勝はうれしくて仕方なかったです。自分たちの優勝より、自分たちがウインターカップで3連覇したことよりも、阿蓮(弟)たちの優勝がうれしかったです。

――自分が3連覇した以上とは相当な喜びですね。そんなにうれしかったのですか。

はい。うれしいです。その理由は、(佐藤)久夫先生から「3連覇の本当の価値は後輩たちが結果を残すことで決まる。後輩が頑張ることで、お前たちの優勝に価値が出てくる」と言われていたからです。阿蓮や後輩たちが優勝を達成してくれたので、自分たちがやってきたことを明成に残せたと思います。それに、弟が活躍したというのもあるし、同じハーフの阿蓮とアレックス(相原アレクサンダー学)のことが気になっていたので、2人が頑張ってくれたのも良かった。そういういろんなことを含めてうれしかったですね。

――明成がウインターカップで優勝した時、東京体育館で応援していた同期たちと喜びの連絡を取り合っていましたが(写真参照)、試合の結果はどこでどうやって知ったのですか?

決勝の日は僕らも試合があったので生で追うことはできなかったんですけど、ちょうどその時に中学のバスケ部の友達がゴンザガに見に来てくれて、その友達に速報してもらいました。僕らの試合が終わってすぐに「勝ったよ」と教えてもらって、それで東京と連絡を取り合いました。

ウインターカップ優勝直後、東京体育館で応援していた明成の仲間と『スマホ中継』で喜びを分かち合った

――弟である阿蓮選手のプレーを見てどう感じましたか?

卒業してから阿蓮の試合をあまり見たことなかったんですけど、他の選手をすごく圧倒しているなと思えてうれしかったですね。リバウンドも得点も何でもやっていたのが良かった。すごく伸びましたね。

――明成の優勝は自分のモチベーションになっていますか?

なっています。すごくモチベーションになっていますね。今まで阿蓮にモチベーションをもらうことなんかなかったのに、あいつらからモチベーションをいっぱいもらえました。

試合ではいつも『タイガー』になれ!

――目標であるNBAについて、最近は多くの専門家たちが成長を認めたり、ドラフト予想サイトでも好評価を出しています。そのことについて感じることは?

外の人から見て良く思われるのはうれしいですけど、ドラフトのことは誰が言っているかも、書いているかも分からないし、僕は本当に周りの声は気にしていません。コーチたちからも気にするなと言われるし、それより今は自分のやるべきことをやらなきゃいけないです。

――今の自分の課題は何ですか?

コーチからはもっと闘争心を出せ、一つひとつのプレーを全力でやれ、試合ではいつもタイガーになれと言われているので、そういうところが大事になってくると思います。

――以前から「アメリカと日本の一番の違いは闘争心」と言っていましたが、そんなに違うと感じますか?

やっぱり、こっちの人たちは試合で気持ちを出すこと、闘争心がものすごい。試合が終わるとそういう雰囲気は一切なくなるけど、試合になると闘争心がすごいんです。コーチからは闘争心が足りないと言われて自分でも変えたいと思っていて、徐々に変わってきていると思います。

NCAAトーナメントに全力、もう一度ファイナル4へ

――ワールドカップ予選が始まっていますが、日本代表でのプレーについてはどう考えますか。

シーズンが終わった後にゴンザガのコーチと日本のコーチと話をして決めたいですが、日本代表として戦いたい気持ちはあります。でも今は目の前の試合をしっかり頑張ることが一番大切だと思っています。それから先があります。

――日本代表のフリオ・ラマスヘッドコーチがゴンザガに出向きましたが、その時はどんな話をしたのですか?

日本代表に来てほしいと言われました。それから今後の予定をどうするかという話をして、今はゴンザガでの試合をしっかり頑張ってほしいと言われました。

――最後にNCAAトーナメントに向けての抱負を聞かせてください。

もう一度ファイナル4に行くことが目標だし、行けるチームだと思っています。トーナメントではもっとエナジーを出して、ハッスルプレーを出して、チームの流れを変えたり、盛り上げていけるようにしたい。今年はたくさん試合に出ると思うので、チームとして機能することを考えてやっていきたい。どんな使われ方でも自分のプレーを出せるようにしたい。すごく楽しみです。

目標の舞台NBAへ、一歩ずつ近づく

今シーズンの八村はインサイドで得点することでは確実性を増した。思えば、高校1年のウインターカップでセンセーショナルな活躍をした時、一番驚かされたのはポストアップやポジション取りのうまさとタイミングの良さだった。「ポストプレーやリバウンドに何度も跳ぶこと、ダンクに行くことは高校の時に練習して身に着いたけど、今もずっと個人練習でやっています」と本人も言う練習の賜物だ。

加えて、リバウンドを取ってから自らボールを運んでダンクまで決めてしまう『プッシュ力』にも目を見張るものがある。本来の持ち味である身体の使い方の巧みさが出せるようになったことで、自分らしさを発揮できているのだろう。

ヘッドコーチのマーク・フューも「ルイは毎試合良くなっていて、大事なゲームで力を出せるようになり、ゴンザガにとって大切な選手になった。特にディフェンスが伸びている」と言い、トミー・ロイドも「1年目は見て習って環境に慣れる年で、2年目の今年は経験したものを試合で出すことをテーマにしていたけど、試合ごとにいろんなことができるようになり、アメージングな成長を見せている。悪い日もあるけれど、それを含めて毎日学んでいるところだ」と言う。ここまでにコーチ陣の信頼を得ているからこそ、大事な場面で起用されているのだ。

ただし2人のコーチは同じことを課題に上げる。それは「集中力に欠けることが時々あるので、毎試合高いエナジーを出すこと」(フュー)、「エナジーを出すことを毎日やってほしい。そうすれば、ルイの高い身体能力はもっと生きる」(ロイド)、というものだ。これは高校時代から言われていた課題でもある。八村は大舞台に強く、燃えるタイプ。しかし、自身も自覚しているように相手によって気を抜くこともある。「試合ではいつもタイガーになれ」とコーチたちが言うのは、エナジーを出し続ける基準値を上げたいから。それこそが、この先の舞台で必要になることだからだ。

昨シーズンのNCAAトーナメント、ノースカロライナとのファイナル終盤の競った場面で八村はヘッドコーチから「出る準備をしろ」と言われた。結果的にコートに立つことはなかったが「大事な場面に出ていく気持ちの準備ができただけでも良い経験になった」と言う。しかし今年は準備だけでは終わらない。主力として迎える20歳のNCAAトーナメント。ここで全試合にエナジーを出してプレーすることで、目標の舞台NBAへ、一歩ずつ近づく。