トム・シボドー

「勝つためのチャンスを提供できるのがシボドーだ」

今シーズンのニックスは21勝45敗、東カンファレンス12位という成績。新型コロナウイルスからのリーグ再開となる22チームには含まれず、シーズンを終えた。長いオフを有意義なものとするべく、チーム立て直しに向けた準備を早く進めたいところだが、ヘッドコーチ人事から進んでいないのが現状だ。デイビッド・フィズデイル解任後、アシスタントだったマイク・ミラーが暫定ヘッドコーチとなったが、『暫定』は長く続いている。ヘッドコーチ人事は噂にはなるものの、なかなか決まらない。

RJ・バレットを筆頭にチームには有望な若手が多いだけに、彼らを成長させ、勝たせて自信を付けるヘッドコーチの人選が重要なのは言うまでもない。有力候補とされるのがトム・シボドーで、2019年1月にティンバーウルブズのヘッドコーチと球団社長を解任されて以降、フリーの状態が続いている。

ブルズを再興に導き、選手を育てて勝たせてきた実績のあるシボドーがなぜ新しい職に就けないのか。ウルブズでの終わり方が悪く、悪評が出回ったからだと、彼に近い人たちは考えている。ウルブズでの最後はカール・アンソニー・タウンズなど主力選手たちとコミュニケーションが取れず、結果的に球団はシボドーよりも選手を選択した。

厳しすぎる指導スタイルと長時間の練習は時代遅れのシゴキで、若い選手とコミュニケーションが取れずに反発を招く。主力選手のプレータイムが長いにもかかわらず、ひたすら走らせてディフェンスを求める。試合でもサイドラインで怒鳴っているだけ……。そんな風評が、彼をずっとフリーにさせている。そう訴えるのはマジックのヘッドコーチ、スティーブ・クリフォードだ。

シボドーより3歳年下のクリフォードは、かつてニックスとロケッツでジェフ・ヴァン・ガンディのアシスタントを務めた仲。その誤解を解くために『NEW YORK POST』にシボドーの本当の姿を説明している。

「時代遅れのコーチなんて認識は間違っているよ。彼は教師であり、どんな性格の選手とも効果的なコミュニケーションが取れる。ディフェンス重視のコーチと見られているが、オフェンスでも素晴らしいコーチだ。誰とも快適に仕事ができるし、フロントと連携する能力も高い。彼のバスケットボールへの情熱が誤解がされている。彼が人格者であり、選手との結び付きがどれだけ強いか分かってほしいんだ」

アシスタント時代にヤオ・ミンのスキルを向上させたシボドーのコーチングを、クリフォードは見てきた。ルーキーイヤーからトッププレーヤーだったデリック・ローズを除くにしても、ルオル・デン、ジョアキム・ノアといったタレントを成功に導いている。デンはかつて「私が出会った中でも最高のコーチで、彼のおかげで僕のバスケットIQはすごく高くなった」と語る。

アンドリュー・ウィギンズはシボドーと衝突していた選手の一人だったはずだが、「素晴らしいコーチだし、人間としても尊敬している。試合への準備があれほど一貫しているコーチは他にいないよ」とシボドーの手腕と人間性を絶賛している。また、ザック・ラビーンは「20歳か21歳の僕に『さあ点を取って来い』と言ってボールを手渡す。僕の可能性を信じて37分プレーさせてくれる。最高のコーチだよ」と語る。

「選手は勝つためのチャンスを望んでいて、それを提供できるのがシボドーだ」とクリフォードは言う。つまり、対立など起こりようがないということだ。

もっとも、シボドー自身は焦らず次のチャンスを待っている。数カ月前に『CHICAGO SUN』の取材に応じた彼は「誤解なんて大したことじゃない」と言う。「数字を調べて、私を知る選手の何人かにヒアリングすれば、すぐに真実が見つかるからね。NBAにはヘッドコーチのポストが30あって、どこかが空くたびにみんな私のことを思い出すだろう」

盟友クリフォードや教え子たちの思いを理解しつつも、シボドーはその時を待っている。「私はコーチという仕事が大好きで、その競争から離れた場所にいるのは寂しいよ。だけど、今は充電して新しい学びを得て、友人や家族と過ごす絶好の時間だ」

ニックスが悩みに悩んだ末に正式なオファーを出すかもしれない。先んじて他のクラブが声を掛けるかもしれない。いずれにせよ、シボドーはまたNBAの舞台に戻って来るはずだ。