通算アシストNBA歴代2位の司令塔、ジェイソン・キッド『スローダウンのすゝめ』

2018/03/02
NBA&海外
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写真=Getty Images

『プレーに任せてみる』ことでコートが広がる

NBAキャリア19年で歴代2位の通算1万2091アシストを記録したジェイソン・キッドは、史上最高のポイントガードの一人に数えられている。『コート上での指揮官』は2013年に引退するとすぐさまネッツのヘッドコーチに就任し、2018年1月までバックスで指揮を執った。

今でこそバックスのエース、NBA新世代を代表するヤニス・アデトクンボがリーグトップクラスのオールラウンダーに成長したのは、キッドの手腕によるところが大きかった。211cmという恵まれた体格、長いリーチ、高いハンドリング力を持つアデトクンボの能力を生かすため、キッドは同選手をポイントガードとして起用。このアイデアが功を奏し、アデトクンボは昨シーズンを通じて最も成長した選手に贈られるMIP賞に輝き、今シーズンはシーズンMVP候補に挙げられるまでになった。

そのキッドが、現役時代から培った『虎の巻』を、『The Player's Tribune』に寄稿。シンプルな考えではあるが、ポイントガードに限らず、ポジションや年代、性別にかかわらず、バスケットボール選手にとって価値のある内容になっている。

キッドは、バスケットボールにおいて学んだ最も重要なレッスンに「スローダウンすること」を挙げている。キッドの言う「スローダウン」とは、テンポやプレー速度を落とした末に見えてくる本質を指す。21歳でNBA入りしたキッドも、2年目までコーチやベテラン選手から「スローダウンしろ」と言われても、その意味を理解できなかったと回想している。

キッドはNBA入り直後、大学レベルよりも大きな選手が揃っているNBAで生き残るため、長所であるスピードを生かそうと考えた。目の前に相手チームの3選手が立ちはだかっても、彼には突破できる自信があった。とにかくスピードを生かした速攻を繰り返したキッドだったが、1年目は本人も必死で、良いシュートと良くないシュートの見分けもつかなかったという。NBAキャリア2年半が経ち、マブスからサンズにトレードされたキッドは、『プレーに任せてみる』というバスケットボールの格言を理解し始めた。それからは、どこからともなくパスコースが現れ、選択可能なオプションが増えた。コートが広がり始め、試合のテンポがスローダウンし始めた。無理なシュートを打たない分別もつくようにもなった。

キッドは、この格言を体現しているチームとしてスパーズを挙げている。スペーシングやタイミングを無理に実行しようとしても機能しない。スパーズの流れるようなボールムーブ、チーム一丸となっての動きは、『プレーに任せてみる』を体現している。キッドは言う。「良いチームはスピードで相手を打ち負かす。偉大なチームは、スペーシングとタイミングで勝つ」

司令塔としてチームを任され続け、ある時キッドは悟った。「スローダウンしろ」とは、楽にやるという意味ではなく、焦らず、急かさずにプレーすることだ、と。若い選手であれば、勢い任せにやってしまう傾向が強い。しかし、その結果チームのプレーが台無しになってしまうことも多々ある。キッドいわく、仮にNBA最速の選手になれたとしても、マッチアップして勝つのは最速のスピードを持つ選手ではなく、間(タイミング)を理解している選手だという。

年齢を重ねスピードが全盛期から落ちてからも、「スローダウン」の意味を理解していたキッドは、どれだけ動きが速くても簡単に予想がつくプレーしかしない若手には負けなかった。スピードや体力で負けようとも、コートのどこに向かってくるのか、キッドは経験で分かっていたからだ。

キッドは若手時代を振り返り、「自分の過ちは、トップギアしか持っていなかったこと」と回想する。その上で、これからの選手に贈るアドバイスで寄稿文を締めくくった。

「まだ理解できないかもしれない。それでも、自分のギアを1つ落としてみるといい。そうすれば、『試合がこんなに楽になるなんて』と言うはずさ。もしかしたらいつか、ひょっとしたら数年先、君たちは私と同じ位置にたどり着くかもしれない。そして指導者になった時、新しい世代の若い選手たちに、同じアドバイスを送るようになる」

頭で理解できたとしても、コートで、しかも実戦で実行するのは簡単ではない。どの世界でも一流と呼ばれる人間は、シンプルな考えを突き詰めていく。キッドの金言はポジションに関係なく通ずるものだが、特に参考になるのは、彼と同じスピード&技術で勝負するタイプのポイントガードだろう。例えばデリック・ローズが、もしNBAキャリア序盤にキッドと出会い、緩急の付け方、スペーシングの妙に触れる機会を得ていたら、その後の選手生命に影響を与えた左ひざ前十字靭帯断裂は避けられていたかもしれない。2011年にシーズンMVPを受賞するまで、ローズは若手時代のキッドと同様にトップギアだけで勝負していた印象が強い。それでNBA選手として最高の栄誉を獲得したが、身体への負担は相当なものだったと推測できる。

若い時分から他を圧倒する武器を手に入れた選手にこそ、キッドの言う『スローダウンのすゝめ』を意識してもらいたい。