『育成型クラブ』滋賀レイクスターズの矜持、躍進の立役者を失うも「引き抜かれる選手を育てられなかったら始まらない」

『育成型クラブ』滋賀レイクスターズの矜持、躍進の立役者を失うも「引き抜かれる選手を育てられなかったら始まらない」

2020/06/05

滋賀レイクスターズ

今シーズンの滋賀レイクスターズは大きな飛躍を遂げた。Bリーグ4年目にして初めて勝率が5割を超えてチャンピオンシップ進出が狙える位置につけ、天皇杯ではファイナルラウンドに進出。若いタレントたちがノビノビとその才能を発揮し、さらにチーム一丸となって戦う姿も印象的だった。しかし、新型コロナウイルスの影響でリーグが中止になると、その先は選手退団のニュースが続いた。日本人選手でプレータイムの長かった順に齋藤拓実、佐藤卓磨、狩野祐介、高橋耕陽が移籍。5番目の狩俣昌也は残留したものの、続くシェーファー・アヴィ幸樹選手まで、躍進の立役者たちが次々と移籍していった。シーズン中断前に『育成型クラブ』のスタンスについてインタビューをしていたが、実際に今オフは成⻑した選⼿たちが引き抜かれる形となった。現状をクラブはどう受け止め、次にどんな手を打つのか。西村大介代表に聞いた。

「選⼿たちはお⾦だけで移籍を決めたわけではない」

──2020-21シーズンの主力だった選手の移籍が次々と発表された際、『滋賀レイクスターズをご支援いただいている皆様へ』という声明を発表しました。ネガティブな時期なので黙っていることもできたはずですが、あえて声明を出した理由は何でしょう?

今シーズンに非常に良い方向にチームが進んで、スポンサーさんにしてもブースターさんにしても大きな期待をしていただけました。ですが、そこで大量に選手が移籍してしまい、皆さんショックを受けるであろう状況に対してただリリースを出すだけでなく、正直に説明すべきだと考え、坂井信介会長の提案でメッセージを出すことになりました。

──育成型クラブを自認していでもこれだけ出て行くのは想定外だったと思います。理想としては今シーズンのチームはできるだけ継続したかったですよね。

非常に良かったシーズンが途中で終わってしまったので、基本的には同じメンバーでもう一度戦いたかったです。ただ実際にこうなりましたが、⼀つ誤解をしてもらいたくないのは、選⼿たちはお⾦だけで移籍を決めたわけではないということです。彼らはみんな「昨シーズンは本当に良いシーズンだった」、「本当にやっていて楽しかったし、このメンバーでもう一回チャレンジしたい」と言ってくれました。この状況下でできる限り選手とは対話しましたが、みんな滋賀でもう一度チャンピオンシップを目指すことを頭に置きながら、環境であったり今の状況であったり、自分の今後のキャリアを考えて最後まで悩んでくれました。その上で移籍を決めています。

話し合いはしっかりやったので、交渉次第では残せたんじゃないか、みたいな思いは全くありません。仕方なかったことだし、あえて恨むなら新型コロナウイルスを恨みたいですね。

──そもそも、滋賀として育成型クラブを目指すという思いを教えてください。

Bリーグでは各クラブの決算が公表されます。チャンピオンシップに出ているチームと比較すると、我々の収入は半分程度です。Bリーグの36チームで言うと真ん中ぐらい。トップと争うのにお金が足りないのは明確ですが、目標はチャンピオンシップ進出です。私がBリーグの世界に来て最初に驚いたのは、選⼿獲得における⾦銭的なルールがほとんどないことでした。トレードで移籍金は発生しないし、サラリーキャップもなければドラフトもない。ほとんど⾃由競争ですので、お⾦を持っているチームが勝ちやすい構造になっています。

唯一あるのが新人の年俸の上限で、我々からしたら、そこしかないと考えました。とにかく目利きが大事で、将来的に日本代表になる若手を発掘します。高橋や佐藤、中村功平や前田怜緒もそのつもりで獲得しました。レンタルでやって来た齋藤とアヴィも含め、そんな若手を中心に置きます。それだけでは勝てないので、彼らのロールモデルとなる精神的にしっかりしているベテランを取る。それが(伊藤)大司や狩俣、岳ちゃん(荒尾岳)ですね。ヘンリー(ウォーカー)も見た目は荒っぽいですが、バスケットに対する思いや練習の態度は素晴らしいです。将来はコーチをやりたいと言っているし、若手に教えるのも上手いです。

基本的には「オフェンス力=年俸」ですが、我々は違う道を行きます。年俸に反映されづらいディフェンス力のある選手を取るのが方針です。ただ、ディフェンスにはみんなの理解が必要で時間がかかります。今シーズンのチームも前半戦で苦労した後に伸びてきました。ですが、これはヘッドコーチの(ショーン)デニスが考えていた通りで、予定通りの結果でした。

西村大介

「バスケットボール界の広島東洋カープになる」

──しかし、育成型クラブの宿命で、良い成績を残した後には成長した選手が狙い撃ちされて引き抜かれます。

この戦略を取る以上、引き抜かれるのは仕方ありません。私が就任した時に最初に明確に言ったのは、「バスケットボール界の広島東洋カープになる」でした。金本知憲が引き抜かれ新井貴浩が引き抜かれ、それでも次の選手が出てくる。引き抜かれる選手をどんどん育てていくんです。それでも広島はどんなに良い選手が抜けても3連覇しましたよね。

若い選手には「ウチに来ればプレータイムがある、成長できるよ」と声を掛けます。ただプレータイムがあるだけではダメで、環境面も重要です。ハードの整備には時間がかかりますが、まずソフト面で日本一の環境を揃えました。ウチではヘッドコーチのデニスを筆頭に、勝つために上下関係なく忖度なく、全員がリーダーシップを発揮して、言うべきことは全部言う文化があります。

また大谷翔平選手が使っていることで有名になった『オープンウィンドウ64』を作ったメンタルトレーナー、原田隆史さんに来てもらっていました。これを取り入れようとデニスに話した時、彼自身が選手と同じメンタルセッションを最初に受けてくれました。指導者というのは自分の支配力が崩れるのを恐れて、精神論で自分と違うものが入ってくるのを嫌がるものです。そこをすべて受け入れたデニスはすごいと思いました。またNBAで働いていた経験を持ち、現在は滋賀県を拠点に活動されている中山佑介さんにも『パフォーマンススーパーバイザー』としてオフシーズンの選手の身体作りを見てもらっています。そうやって選手が成長できる環境を整えた上で、将来有望な若手に「ウチに来れば成長できる」と説くんです。

優勝を狙える、資金力のあるチームと契約しても、プレータイムが平均2分しかないかもしれない。それで次の年俸はいくらになるのか。お金の面でも生涯年俸という意味では、若い時には滋賀にいたほうが良いんじゃないか。それで2年か3年活躍してくれて、選手としての価値を高めて出て行ってもいいんです。チームにはカルチャーが残るし、選手が成長する姿を見ていれば、次の有望な若手が滋賀を選んでくれるようにもなるでしょう。そういう意味では今回移籍した選手たちが、まさにその例を作っているかもしれません。

──このサイクルを回していけば、いずれカープのように育成型クラブでありながら優勝も狙えると?

今の滋賀はハード面が不足していますから、カープになれても『広島市民球場の頃のカープ』ですね。そこは新アリーナの完成、またクラブの組織としてもっと強くなる必要があります。本音を言えば、移籍金のルールは欲しいです。しかし、今はそういうものだと受け入れるしかない。滋賀が生きて行くにはこの選択しかないんです。選手の目利きを外さず、しっかりと育てれば今シーズンのようにチャンピオンシップ進出が狙えるチームを作ることができます。外したら残留争いで生き残りを目指さなきゃいけない。ただ逆に言えば、そのどちらにしても滋賀が引き抜かれるような選手を育てられないのだとしたら、それは明らかな失敗です。

滋賀レイクスターズ

「リスタートにはなりますが、全くあきらめてはいません」

──そういう意味では、佐藤選手は滋賀で3年かけて、齋藤選手はたった1年でも選手としての価値を大きく上げて、金額は分かりませんがプロ選手として非常に良い契約を勝ち取り、ステップアップできたと思います。育成型クラブとしては成功ですね。

そうですね。彼らが抜けるのは残念ですが、育成型クラブを掲げてやってきたことが成功した証でもあります。振り返れば彼らに目を付けた木村(弘志)アシスタントGMの目利きは抜群だったし、そのポテンシャルを引き出す育成の仕組みも誇れるものだと証明できたので、良い形でまた次のフェーズに入っていけると思います。

──次のフェーズを成功させるにはまた目利きからですね。

期待をしていただければと思います。我々はまだ編成の途中ですが、発表した際には皆さんが「どんな選手?」と思うかもしれません。ただ、よくよく見てみるとポテンシャルが確かにある、という感覚を持たれるはずです。その選手がシーズン後半戦になって、あるいは次のシーズンに大きく成長したと思っていただける、そんな選手を連れてきたいと思っています。佐藤卓磨や高橋耕陽のように、ポテンシャルのある大学生を連れてきて育てるのが一番のメインになりますが、それとは別に面白い若手も集めます。

──そんな選手たちが「ここでバスケをしたい」と選んでくれるクラブであるという自信はありますか?

そうですね。我々が取りたいような大学生プレーヤーの視点で「滋賀ならチャンスがある」とは思ってもらえるはずです。同じような世代のポテンシャルのあるメンバーが揃っていますから、そこの競争に勝てば試合に出られます。選手が育つ環境とプレータイムを得られるチャンスという、彼らにとっての宝がここにあることはアピールできますし、野心的な大学生が滋賀を選んでくれることを期待しています。

それと同時に、リスタートにはなりますが新シーズンも全くあきらめてはいません。我々は今、デニスと「ダークホースになろう」と話しています。我々が開幕からドーンと勝つのは皆さんも期待していないかもしれませんが、シーズンが進む中で対戦相手から「滋賀はやりにくい」と思われる、それとともに皆さんから「滋賀は面白い試合をするよね」と思ってもらえるチームを作ることは十分にできると思っています。若手がチームにフィットして、ショーンの考える「このメンバーであればこういう戦い方をする」というバスケットがハマってくれば伸びるはずです。今シーズンも後半に勝率が上がったのは、全員がショーンのバスケットを理解したからです。メンバーが違うので、また全然違うバスケットになるとは思いますが「滋賀のバスケットはホンマおもろい」と思ってもらえるようなチームを作りますので、期待していてください。

RECOMMEND