取材=鈴木健一郎 写真=Getty Images 協力=WOWOW

田臥勇太がフェニックス・サンズで日本人として初めてNBAでプレーしたのは2004年秋のこと。あれから14年、田臥に続く日本人NBAプレーヤー誕生の気運が高まっている。その対象はジョージ・ワシントン大4年でこの春に卒業を迎える渡邊雄太と、ゴンザガ大2年の八村塁だ。彼らを取り巻く環境と、この先どんな道を歩んでいくのか、WOWOWのNBA中継でお馴染みNBAアナリストの佐々木クリスに聞いた。

「何が彼にとってベストかを見極める必要がある」

──今年のNBAドラフトは現地6月21日に行われます。日本のファンからすると、渡邊雄太選手と八村塁選手がドラフト指名を受け、秋に開幕する2018-19シーズンにNBAデビューすることを期待したいのですが、実際のところ2人にNBAで契約を勝ち取るチャンスはどれぐらいあるのでしょうか。

少なくともこの2018年だと、渡邊選手のほうがチャンスがあると思います。八村選手はU-19ワールドカップで評価されて、海外スカウトでその名前を知らない人がいないぐらいですが、今のゴンザガでの役割はシックスマンで、評価が確立されているわけではありません。ドラフトエントリーは今年よりも来年のほうがチャンスがあると思います。

──海外サイトのドラフト予想では八村選手の上位指名も予想されているようです。最終的に目指すのがNBAのプレーである以上、指名の可能性があるのであれば、このタイミングでドラフトエントリーしたほうが良いのでは?

いわゆるモックドラフトで1巡目の18位とか20位で指名されていることがありますが、僕はそれが実現するとはあまり考えていません。最近のNBAは本当に青田買いなので、『one-and-done』(大学を1年だけで切り上げてNBA入りを目指すこと)が当たり前です。でも、それでも大学に4年通って、そこからNBAに入る選手はまだいます。全員が爆発的な成長をしているわけではないと思いますが、マルコム・ブログドン(バックス)は大学に4年行ってあれだけ精神的に成熟したから昨シーズンの新人王になれた。バディ・ヒールド(キングス)もそうです。

八村選手が英語を話せるようになったのは最近だと思うんです。そういう意味で彼の成長スピードはこれからさらに上がるんじゃないかと。何が彼にとってベストかを冷静に見極める必要があります。今年エントリーしたけどドラフトに引っかからなくてDリーグに行くとすると、Dリーグは下部組織とはいえ、NBAへ上がるための競争の場です。しっかりと育成に重きを置くチームは僕の知る限り多くはありません。それでしたらゴンザガで育ててもらったほうが良いと思います。

「サマーリーグには絶対に呼ばれる、そこが勝負」

──なるほど。では「よりチャンスがある」と見ている渡邊選手はどうでしょう。

渡邊選手は1番から4番を守ることができる、ただ付くだけじゃなくて本当に相手のエースをシャットダウンできます。これはものすごい能力で、2巡目であればドラフト指名を受けられるチャンスがあると思います。そうでなくてもサマーリーグには絶対に呼ばれるので、そこからが勝負です。ドラフト外だとか2巡目だとかに、あまりファンも一喜一憂しないでほしいですね。彼の今の目標はNBAに行くことであって、その形は何でも構わないと僕は思います。

──1巡目指名を受ければ確実に契約となりますが、2巡目だと指名されても契約に至らないケースもあります。渡邊選手にとっては何がベストなんでしょうか。

1巡目指名を受ければベストですが、それは高望みしすぎだと思います。過去にはドラフトされても球団が権利を保持したまま契約に至らないどころか、稀にトレーニングキャンプにも呼ばれない選手もいました。だから、NBAのポジションを勝ち取るという意味においては実はそんなに変わらない。一喜一憂すべきでない、というのはそういう意味でもあります。どんな道のりだろうと達成すれば『歴史的快挙』です。

──では、ここから夏までに渡邊選手がNBAチームの目に留まり、契約しようと思わせるまで評価を高めるには、何をするのが良いでしょうか。ディフェンスに加えて3ポイントシュートを武器とする、いわゆる『3&D』という意見もありますが、ジョージ・ワシントン大では3ポイントシュートに特化したプレーをしているわけではありません。

そこは不安視する必要はないと思います。NBAのチームへのアピールという意味では、いろんなことをやっていたほうがプラスです。各チームのワークアウトに呼ばれれば、3ポイントなど特定のスキルを見定められます。そこでそのチームが求めているスキルを証明できます。

とにかくリバウンドに飛び込むだとか、インサイドに持ち込むことは、アメリカの文化の中で身に着けていっているプレーです。今年が勝負だというのは本人も分かっているので、小綺麗なプレーをする必要はなくて、今は多様性を見せ、どのような伸びしろがあって何が課題かを見せていいと思います。そこで評価されるのが一番です。

「日本代表の強化をタレント頼みにしないのも大事」

──6月29日と7月2日にはワールドカップ1次予選の最後の2試合があります。日本代表に渡邊選手や八村選手を招集したいところですが、NBA行きを考えるとバッティングしますね。

おっしゃるとおりですね。協会としてもその方向で検討はしていると思います。ただ、選手それぞれの人生を尊重することも必要です。日本バスケット界のすべてを若い彼らに背負わせて良いのでしょうか。例えばドラフト指名されてもワークアウトがあります。ドラフト外でもそういう場でのアピールから契約につながるかもしれない。逆に、その時に代表活動で万が一ケガでもしていたらもうアウトです。

僕も日本のバスケットを何とか良くしたいと思う一人として、日本代表については崖を素手でよじ登るような気持ちで「日本にいるこっちはこっちで解決する」から、彼らについては同じ気持ちでNBA入りを目指してくれと。今、日本代表に選ばれて戦っている選手がいるわけじゃないですか。そうしたほうが日本バスケット界への貢献は大きいと思います。

──確かに、2試合のためだけに2人が合流して、準備期間がないまま試合をやってまたアメリカに戻っていく。これでは日本代表の強化にとってどれだけプラスになるのか怪しい部分もありますね。

そうですよね。その2試合に勝ったとして、それで何が生まれてどう継承されていくのか。それに日本代表の強化をタレント頼みにしないのも大事です。何かにつけて「雄太と塁がいれば」と言うのは神頼み的なところがあります。

これから日本がやらなければいけないのは、彼らのようなタレントの輩出を偶然にしないこと。2人とも多くのサポートを受けているのでしょうが、やはり彼らはサポートを受けるだけの意志を見せて日本を出る選択をし、自ら進む道を切り開いていきました。彼らのような才能豊かな選手をこれからもっともっと出していく、そのためのプログラム作りが必要です。

2020年は明確な目標としてあります。ただし万が一出られなかったとしても2023年、2024年があります。2020年に目を向けるのはもちろんですが、東京オリンピックだけではなくてそれ以降、10年後20年後に大きく飛び立てるような代表活動にしてほしいと思います。

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