文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

攻守に会心のプレーを連発、劣勢を覆す

昨日、横浜国際プールで行われたワールドカップ1次予選のチャイニーズ・タイペイ戦。宇都直輝はベンチスタートではあったが、ポイントガードで先発した篠山竜青の15分半を大きく上回る25分半のプレータイムを得て、堂々のパフォーマンスを見せた。

日本代表デビューでガチガチに緊張していた昨年11月のWindow1とは違い、富山グラウジーズと同じ、あるいはそれ以上にノビノビとプレーした印象だ。第1クォーター終盤、5-13と劣勢の状況でコートに入り、最初に見せたのはディフェンスリバウンドを奪ってからのロングパスでアイラ・ブラウンのダンクにつながったアシスト。これが日本にとって反撃の狼煙となり、第2クォーター24得点という逆転劇を演出した。

自ら仕掛けて攻撃の起点となり、スキップパスや相手の足元を抜くものなど創造的なパスでクリエイト。宇都の作り出すリズムはチャイニーズ・タイペイを明らかに困惑させていた。守備でもオフェンスファウルを誘発するビッグプレーがあり、まさに会心の出来だった。

宇都は合宿中から「とにかく自分のプレーを見せること」をテーマにしてきた。「自分のやることを整理して、『これとこれ』という感じで挑みました。前回よりは貢献できたと思います」と、宇都はここに一定の手応えを感じている。

「身長がそれなりにあるので、それで相手のガードにプレッシャーをかけること。あとはリバウンドを取ってそのままプッシュして日本の流れにすることです。練習してきたのがかなり速い展開のバスケットボールだったので、そういう展開を作れるよう試合前から整理して挑みました」

課題は「チーム全員でペイントタッチに行く意識」

気持ちを整理して臨んだことで周囲が良く見え、状況判断も向上した。「最初はブロックされましたが、前回の試合ではブロックされるところまでも行かなかったので、まず行ってみることが大事です。クインシー・デイビスがブロックに来ましたが、それで空いているところが見えたので、次のプレーにつながります。そういった面でも自分の持ち味をしっかり出そうとアタックしました」

こうして宇都は日本代表に流れを呼び込み、攻守にハードワークを続けた。しかし試合は1点差の惜敗。「後半も同じような展開を作れれば間違いなく勝てた試合だと思うので、そこはすごく悔しいです」と宇都は言う。

どこで何をしていれば、この1点差を覆して勝てたのか──。議論を呼ぶところではあるが、宇都はオフェンスでの積極性が足りなかったことを挙げた。「コーチからはペイントタッチと言って、ペイントにアタックすることをすごく言われます。確かにもう少しチーム全員で行けたら、相手のチームファウルが溜まっている時にフリースローをもらったり、終盤も試合の展開を作りやすかったと思います」

ここはオフェンスを司るポイントガードとしての反省。それとは別に宇都自身の反省もある。「今日は当たりが辻(直人)さんにしか来なかったので、そこで僕がペイントタッチに行ってフリースローをもらうとか、もっと良いシュートを打たせてあげるとか、もっと作り出せたのかなあと。あとは自分でシュートを打ちに行く、得点面での貢献ももう少しあって良かったです。フリースローとレイアップ1本で4点。これが8点くらい取っていればまた違った展開になったと思います」

「自分のバスケットをしないと楽しくもない」

普段、富山グラウジーズの試合では35分以上のプレータイムが当たり前、時には40分フル出場することもある宇都にとって、代表戦ではあっても25分半のプレータイムはまだ余裕があるのかもしれない。悔しい負けを喫した直後に話していても、必要以上に落ち込んではいなかった。「何分出たとかはあまり。とにかく日本のため、勝利のために貢献することです。チームにいたらある程度はスタッツを見ますし、あとで確認しますけど、今は負けたことがすべてなので、スタッツについては何とも思っていません」

重い重い一敗を喫した後だけに、他の選手はうつむき加減で言葉少なに話していたが、宇都だけはすでに気持ちを切り替え、胸を張っていた。「負けたことがすべて」の言葉とは裏腹に、そこには「次は勝つ」の気迫に満ちていた。

「単純に日本代表としてバスケットをすること自体がうれしいし、バスケットが好きなので」と宇都は言う。「とにかく今日の試合を楽しみに、自分のバスケットをしないと楽しくもないので、そういった気持ちで挑みました。でもそれで負けてしまったので、そこはやっぱり反省しないといけないです」

日本代表キャリア3試合目の宇都が、誰よりも試合を楽しんでいた。他の選手がプレッシャーに押し潰されそうになる中、宇都はこうして「とにかく自分のプレーを見せること」という自分の課題をクリアした。

それを踏まえて、25日のアウェーのフィリピン戦に向けて宇都は決意を新たにする。「シュートは水物なので、流れが来たら入ります。ディフェンスから自分たちが練習してきたタイトなディフェンスをしっかり出して、リバウンドとルーズボールを頑張ってやっていきたい。そこを僕が引っ張っていけるように、先陣を切ってやっていきます」

アウェーのフィリピン戦で勝つには一筋縄ではいかない。ただ、悲壮感を持って挑めば何とかなるものでもない。宇都がWindow1で得た課題から発見した『バスケットを楽しむ』マインドは次の戦いにも必ず必要になってくる。