今シーズンの千葉ジェッツにおいて、その存在感を増したのが田口成浩だ。秋田ノーザンハピネッツから加入した昨シーズンは、新しいチームのバスケット、環境への順応に手間取ったが、シーズン終盤にはチームのスタイルに合わせて自分らしいプレーも出せるように。闘志を前面に押し出すスタイルがチームバスケットと噛み合い、ジェッツの推進剤として攻守に活躍した。彼にとって新たなブレイクスルーとなったシーズンを振り返る。
「選手会はみんな一枚岩となって盛り上げていく」
──シーズンが終了となり、その後も外出自粛が続いていますが、この時期をどのように過ごしていますか?
朝起きてご飯を食べたら、もうあとはトレーニングとストレッチしかやることがないです。外を走ったりはしますが、ドリブルもしていません。楽しみにしているのがマイケル・ジョーダンの『The Last Dance』ですね。
──『The Last Dance』は、単純にエンタメとして楽しんでいますか、プロバスケ選手として勉強の意味で見ていますか?
一人ひとりに物語があって、いろいろあるけど結局はみんなチームのことを考えている。それが強いチームなんだ、と感じます。そこでチームメートに対してジョーダンがどのようにリーダーシップを取っていたのかは勉強になりますね。自分に重ねる部分もあって、秋田の時は後輩が多かったからガンガンしゃべって盛り立てて、それだけ言うからには自分にすごいプレッシャーが掛かってきます。「やってないヤツに言われたくない」と思われたら終わりですから、自分は絶対にやらなきゃいけないと思っていました。
──今オフはプロバスケットボール選手会の会長としての活動も多いようです。300人でZoom会議をしたそうですね。
取材でも選手会の会長として話すことが多いんですよ、もう7回か8回は取材を受けています(笑)。周りの皆さんにサポートしていただいて何とかやっています。自分が司会をする会議で、集まってみたら300人もいたのでびっくりしました。日本代表の選手だったりベテランの選手もみんな集まって意見交換をして、すごく良い会になったと自分では思っています。
──新型コロナウイルスの影響でどのクラブも経営的に楽ではなく、これから契約更改が本格化しますが、選手によっては非常に厳しい現実に直面することになりそうです。具体的にそんな話にもなったのですか?
そこまでではないですね。この時期はみんな予定がないから、この機会にオンラインで集まって、選手会のみんなで一枚岩になって頑張ろう、と一致団結する会でした。会議をした時点ではまだ交渉が始まっていないチームがほとんどでしたが、それでもアンケートを取ると契約について不安に思う選手がすごく多かったです。新型コロナウイルスの影響はどこまで続くか、それがクラブの経営や選手の契約に影響して厳しい状況になることは当然予想されるので、そこで壁が出てきた時に備えてみんなで話し合った感じです。
選手会の意味だったりこれまでの歴史は(竹内)譲次さんや岡田(優介)さんが話してくれて、僕からは無茶ぶりでしたが何人かを指名して、選手会の今後の足並みを揃えるためにも意見を言ってもらいました。僕が一つ気になっていたのは、選手会とそれぞれの選手の距離感で、選手会に何かをしてもらうというよりは、自分も選手会の一員になわけで、その意識があれば一人ひとりが良い環境を作っていけます。だから一枚岩となって盛り上げていきましょう、という話はしました。
走る中でもパスを回してシェアするバスケットを実践
──大変なタイミングで選手会会長という大役を引き受けましたね。
岡田さんや譲次さんに助けてもらいっぱなしです(笑)。とんでもない時に就任したな、自分で大丈夫かな、という思いはありました。譲次さんに任命された時点で、自分の年齢では荷が重いと最初は断ったんです。でも、世代交代しなきゃいけないし、譲次さんから「お前しかおらんねん」と言われて。僕はそれまで会議にもチャリティにも積極的に参加していたので、そういう部分を評価していただいたのだと思います。
「それなら頑張ろう」と「自分で本当にいいのかな」という2つの気持ちの葛藤はあって、そこで新型コロナウイルスのせいで急に「選手会、頼むぞ」という雰囲気になって、正直なところ「譲次さん、もうちょっと続けてくださいよ」と思ったんですけど(笑)。でも、やるからにはやるしかないです。選手会の代表としてBリーグのチェアマンと話をするのは自分で、責任のある役割ですし、こんな経験はみんなができるものではないので、やるからには全力で頑張ります。
──これまでよりもずっと、『選手の権利を守る』ことをリーグや各クラブに主張することが増えそうです。だからこそ選手会が一枚岩になることが大事ですが、選手も人それぞれ立場が違います。どうやって足並みを揃えていきますか。
みんないろんな意見があるのは当たり前です。自分はこれはダメ、あれはダメとはまだ言えないので、意見は全部取り入れようと思っています。選手のいろいろな意見を全部取り入れてリーグと話し合う。少なくとも、この人はこうした方がいい、あの人はああした方がいい、といろんな意見を言える選手会でありたいと思っています。意見は様々なので、それを強引にまとめるよりも、全部包み込むような感じですかね。ただ、最終的に何かを決断しなきゃいけない時は会長である僕がやらなくてはいけない。そういうシビアなことがないようにお願いしたいんですけど(笑)。
──それでは、千葉ジェッツの選手としては、今シーズンをどう振り返りますか?
みんなが思っているように、最初はダメダメでした。みんな勝ちたくて「俺がやる!」って感じで、それ自体は悪いことじゃないんですけど、上手く噛み合わずにスタートしてしまって。バスケットが繋がり、点が線になってようやくジェッツらしくなっていきました。
個々の能力はすごく高くて、良い選手が集まっていたんですけど、最初の時期って個々の点しかなかったんですよ。ただ、それでも勝てないと「このままではダメだ」とみんな分かるようになります。そこで自分が求められている役割に徹する、そこに立ち返ることができたのは良かったです。コーチ陣からも自分がやるんじゃなくてシェアをしようと話があって、たくさんボールを回してチームでシュートを作っていく練習を重ねていくうちに試合でもボールが回るようになって。その時にはみんな「自分の役割を全うしようぜ」という意識ができていました。
ジェッツのバスケはファストブレイクです。「その原点に戻って走ろうぜ」という考え方を後半戦は実践できるようになったし、序盤で苦労した分、走る中でもパスを回してシェアするバスケットができるようになっていたのは良かったです。
「たくさん学べたことが自分の成長になった」
──そんな『ジェッツらしいバスケ』が形になったと感じた試合はありましたか?
今年最初のアルバルク東京とのアウェーゲームですね。それを含めて10連勝まで行ったんですけど、そこでは「この感じだ!」という手応えがありました。その後はケガ人が増えて思い通りに行かない時期だったのですが、その前に良い雰囲気を作れていただけに、ケガ人さえ戻れば復活するし、優勝だって狙えると思っていました。
──千葉に来て2シーズン目を終えました。田口選手の内面での変化はありましたか?
慣れた、というのはありますね。移籍すること自体が初めてで、全然違うところに飛び込んでやるから、最初はヘッドコーチのスタイルにもチームのルールにも戸惑って、その中で自分の良さをどう出していくのかはすごく考えました。それでも1年目の最後、チャンピオンシップで上り調子になれたのが大きくて、それが自信に繋がりました。おかげで今シーズンはメンタル的に余裕が持てました。
技術的にはまだまだですけど、ディフェンスのシステム的なピック&ロールの抜け方であったり、コミュニケーションの使い方であったり、相手を知ることも味方を知ることも大事だし、たくさん学べたことが自分の成長になったと思います。
──シーズンが途中で終了になってしまい、ファンの皆さんに挨拶する場がありませんでした。メッセージをお願いします。
このシーズンをみんなで戦えたことには感謝しかありません。昨シーズンの悔しさは忘れていないので、皆さんと最後まで戦えなかったのは残念だし、楽しみにしてくれていた人たちの気持ちも分かっているつもりです。僕たちも試合ができないのは歯がゆくて、「今ごろはチャンピオンシップだったのにな」とか思います。でも、今は自粛して乗り越えて、また試合会場で会うために我慢するしかないので。僕は一人の選手としてじゃなく、試合会場でみんなと会いたい一人として、この新型コロナウイルスを乗り越えたいと思います。乗り越えた先には、またみんなで会場で会えますから、それを楽しみにしています。
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