ベンドラメ礼生

今シーズン、サンロッカーズ渋谷は生まれ変わった。矢継ぎ早の選手交代でコート上の5人が常にフレッシュな状態を保ち、攻守の激しさで相手を上回るバスケットを展開。27勝14敗とBリーグになってから最高の勝率を残し、今年に入ってすぐの天皇杯でタイトルを獲得。どの選手も十分すぎるほどの手応えを得られたはずだ。しかし『チームの顔』であるベンドラメ礼生は、「10点満点の6点」と自身の出来に満足していない。そこには日本代表に対する強い思い、自身の成長へ向けた野心と焦燥感があった。

「一人でも反応してくれれば、それはプロの仕事」

──新型コロナウイルスの影響でシーズンが中止になり、長いオフもまだ序盤ですが、どのように過ごしていますか?

出掛けるのは食べ物の買い出しぐらいで、今はほとんど家にこもっています。一日おきにトレーニングとかドリブルをついて身体を動かすぐらいで、それ以外はテレビを見たり、Tシャツを作るデータをまとめたり。つまり何もやっていないですね(笑)。

──Twitterでドリブルを披露する『#ドラメの真似』を熱心にやっているようです。あれを始めたのはどういう思いからですか?

単純に身体を動かしたかったんです。ずっと家にいればウズウズして、バスケしたくなるじゃないですか(笑)。僕はゆっくりする時間が嫌いじゃなくて、別にストレスには感じないんですけど、「バスケしたい!」とは思います。家で一人でもやれるドリブルをSNSで発信するのは、(清水)太志郎さんのアドバイスがきっかけです。シーズン中断の時期にやり始めて、その後にシーズンが終わって外出自粛になったので本格的にやるようになりました。

もともとは動画とか、自分の映っている映像なんかはSNSに載せていなかったんです。面倒だとは思いませんが、叩かれたら嫌だとか恥ずかしいとか、ドリブルしても「下手じゃん」と思われたどうしよう、とか。それでも、実際に『#ドラメの真似』を見てドリブルをやってくれる人はいるし、「見てるよー」と返してくれる人がいたり、反響があるとうれしいです。メッセージをくれた人には、タイミングが合えば返信してコツを教えたり、片手を骨折しちゃった子に片手でできる練習を教えたり、そんなやり取りもしています。なかなか全部はできないかもしれませんが、今は時間があるので。

この新型コロナウイルスの影響がなくなるまでは続けたいと思っています。ネタがなくなるかもしれませんが、そうなったら誰かがSNSに上げているのを僕が真似します。僕にやってほしいドリブルを送ってください、って(笑)。一人でもやってくれる人がいれば、それは『プロの仕事』だと思うので続けます。誰かのためになっているのなら、そこは人数に関係なくうれしいです。

──SR渋谷での今シーズンを振り返りたいのですが、ベンドラメ選手の自己評価は何点ですか?

10点満点の6点ですね。自分ではもっとやれたという感じです。今シーズンはすごくシュートを外しているんですよ。レイアップまで行ってるのに落としたり。もっとペイントで得点を取りたいです。自分の強みはやっぱりドライブで、リングまでアタックしてシュートに行くのは、ガードとしては身長がある僕の強みです。アウトサイドのシュートを打つと他の選手に負けてしまうのですが、そこでは負けられないし、もっともっと脅威にならないといけないです。

ベンドラメ礼生

「今シーズンのみんなで最後まで試合がしたかった」

──自分への評価は辛口ですが、チームの評価はどうでしょうか。天皇杯で優勝し、バスケの印象もガラリと変わりました。

今シーズンはタイムシェアという戦い方をして、一人ひとりがリーダーシップを持って戦うことができました。オールコートで前から当たるのはキツいですけど、「ここでできなきゃ試合でもできない」と、試合の環境を練習から作ることをテーマに、練習中からあの強度でやっていました。みんなで真剣に取り組んだおかげで、すごくやり甲斐が感じられるシーズンでした。

僕もムーさん(伊佐勉ヘッドコーチ)のスタイルをチームで表現したいと思っていたので、今シーズンはディフェンスでとにかく積極的に、全部ファウルを取られても仕方ないぐらい激しく行きました。その激しさを全員が理解して実践してくれたのは良かったです。相手にケガをさせるのはダメだし、危ないプレーの時は判断して止まりますけど、コンタクトスポーツなのでケガを恐れていたら何もできない、という気持ちは持っていました。

──そんなシーズンが思わぬ形で中止になりました。どんな気持ちで受け止めましたか?

すごく寂しかったです。天皇杯で優勝して、今度はリーグ戦の優勝に向けてこれから、という時だったので、モヤモヤしましたね。この状況なので、仕方ないと切り替えることは案外すぐできたんですが、あのメンバーで来シーズンもできるわけではなく、絶対に選手は入れ替わるので。すごく良い選手、すごく良い人間が集まっていて、ムーさんが良い雰囲気を作ってくれていただけに、みんなで最後まで試合がしたかったです。今シーズンのメンバーは、みんなそう思っているはずです。

──良い雰囲気作りのキーマンとなったのは、選手では誰ですか?

みんなバランスが良かったです。石井(講祐)さんに(田渡)修人さん、野口(大介)さんと、チームの作り方を知っている選手が「みんな一人ひとりがリーダーだ」という雰囲気を作ってくれました。僕がキャプテンだったんですけど、やりやすかったし、悩むこともなくて。

僕はもともとプロの中でキャプテンの重要性を感じていません。プロならみんなリーダーシップを持つべきだと思うから「走れよ」と注意するわけでもないので。プロとしてちゃんとやれない選手は職を失うだけです。そんなのは考えるだけ無駄だし、いらないことは省いてバスケットボールだけに集中した方が絶対に良いと思っています。

──オリンピックが1年延期になりました。ベンドラメ選手にとってはアピールする時間が増えたことになります。日本代表のポイントガードの選手選考は、誰がライバルになってどのように進んでいくと思いますか?

(篠山)竜青さん、(富樫)勇樹がいて、安藤(誓哉)とテーブス(海)が絡んできます。そこを3枠で行くか2枠で行くかは分かりませんが、ガードは他にも若い選手がたくさん出てくると思います。実際、(渡邊)雄太と(八村)塁がいるなら、ガードはボールを運ぶだけでいいんです。そこで存在感を見せるには勇樹みたいな決定力か、竜青さんみたいなディフェンスなのか。

難しいですけど、僕はそこと戦っていかないといけない。まずディフェンスは一つありますね。身長を生かして相手のガードにプレッシャーを掛けること。あとはミスがあることが自分の中でずっと課題です。縦へのドライブを強めに行っているので、その分ミスは出やすくなるのですが、状況判断をもっと良くしないといけません。あの2人が入ってメインになればチャンスは多くはないので、そこでしっかり決めきることはすごく大事だと思います。

ベンドラメ礼生

「結果を出せないなら代表引退ぐらいの気持ちでやる」

──日本代表の話になると、言葉からもメラメラしたものが伝わってきます。

オリンピックの延期は、僕にとってはチャンスです。毎回13人目の選手として、遠征に行く前の日に12人の枠から落ちているので。僕はそもそもBリーグの時期でも日本代表のことばかり考えています。SR渋谷での一つひとつのプレーで、「これじゃ代表キツいぞ」とか「ここを決められないから代表に入れないんだ」と考えて自分を奮い立たせているので。日本代表を目指すだけで個人的に成長できるし、僕が成長することでSR渋谷に良い影響を与えられます。

──そこまで思いが強いと、モチベーションになるだけでなく苦しい時もあるのでは?

苦しくはないですけど、代表で落ち続けた時はかなりキツかったです。それこそ、「また落ちたか」と思うと自然と涙が出るようなことはありました。カザフスタンでの試合の前、韓国でメンバー落ちが決まって朝6時の飛行機で僕だけ戻ったことがあります。親善試合をやって明日からワールドカップというタイミングでも落ちました。その時は勇樹がケガでガードがいなくて、それでも落ちましたからね。

実際、シビアですよ。試合前の朝のシューティングには行くんですけど、午後の試合って時に僕一人だけいないですからね。午後もあると思っているのでシューズはロッカーに置いていくんですよ。他の選手が午後に来るとシューズだけを残して……です。ただ、大人になって泣くことって、なかなかないじゃないですか。すごく良い経験をさせてもらっています。

──そんな時のストレス発散はヤケ酒ですか?

お酒はほとんど飲まないです。それに、これは僕の勝手な考えですけど、ストレスを抱えてお酒を飲んだところで気分って晴れなくないですか? ただ苦しい思いを抱えて飲んで、みじめな気持ちになるだけじゃないかなって。だからヤケ酒は僕には分からないです。僕はストレスは発散せずに、もう考えますよね。ひたすら向き合って、どこをどうすれば良い方向に向かうのかを考えます。

お酒とかで忘れても、絶対どこかのタイミングで問題はまた出てきます。だから忘れるんじゃなく、ポジティブにとらえようとします。でも、もう良い経験で終わらせたくない、結果を出せないなら代表引退でもいい、それぐらいの気持ちでやります。

──そのメンタルで長いオフを過ごせたら、来シーズンはすごいことになりそうですね。そんなベンドラメ選手の姿に期待しつつ、来シーズンを待つファンの皆さんへのメッセージをお願いします。

新型コロナウイルスで皆さん大変だと思うんですけど、最前線で戦っている人もいます。その人たちのために、今は僕たちは家にいましょう。無観客試合は正直、テンションが上がりませんでした。次のホームゲームではアリーナを揺らすぐらいの声援をお願いします。僕も次に皆さんと会える日を楽しみにしながら、庭でドリブルの動画を撮ります。