こんにちは、佐々木クリスです。ここではバスケをもっと楽しむための「観戦術」を一緒に学んでいきたいと思います。難しい戦術論をするつもりはありません。日本人なら大多数の人が、体育の授業でバスケをプレーした経験があるはずです。つまり、基本的なルールは誰でも知っているということ。ただ、その基本ルールに「観戦の知識」を少しだけ加えることで、バスケ観戦はずっと楽しくなるはずです。バスケをもっと楽しむための「観戦術」を、是非ここで覚えていってください。
佐々木クリスと学ぶ『バスケ観戦術UP講座』
vol.1 バスケはポゼッションゲームだ/ライブ・ターンオーバーに注目
vol.2 軽視できないフリースロー/ボックススコアはこう見る!
vol.3 クォーターの入り方に注目しよう/試合のテンポも駆け引きだ
vol.4 ディフェンスは見どころの宝庫/シュートを打たせない技術
vol.5 3ポイントシュートはどう防ぐ?/基本の連携プレー、スクリーン
vol.6 各ポジションの役割と見どころを解説
クォーターの入り方に注目しよう
僕が試合を見る時には、各クォーターの入り方に注目します。最初の攻撃では両チームともエース、あるいはその試合で優位に立てると想定しているマッチアップを突いて攻めようとするものです。その攻撃を抑えたとなれば、守備側の対策が当たっていたり、相手のエースを抑えるポイントをつかんでいると言えます。
攻撃側のシュートが悪かったのか、守備側の頑張りなのか、それはかなり目を見開いて観察しなければ分かりづらいのですが、まずは最初のシュートが入ったかどうか、そのためのチームプレーが機能していたかどうかを見るといいでしょう。
具体的には、スクリーンがいいタイミングや角度で掛かっていない、パスがいいタイミングで出ないとか。パスは通っても、受け手の想定よりも少し後ろにボールが来たので、シュートまでスムーズに持ち込めなかったとか。これを見極めるにはコツが必要ですが、意識して観察していれば見えてくるものがきっとあるはずです。
もう少し分かりやすい見方なら、エース級の選手がスピードやエナジーを持った状態で試合に入ることができているかどうか。一つひとつの動きにメリハリがあるかどうかを見ると分かりやすいです。どんな選手も常に動いているわけではなく、止まったところから一気にスピードに乗ったり、5人の連動の中で動いていたりとか。総合的に見るのが大変であれば、まずはエースに注目しましょう。最初の攻撃で良い形ができていれば、チーム全体を引っ張ってくれるはずです。
あとは最初のオフェンスで5人全員がボールを触ったかどうか。最初では無理でも、2回のオフェンスで全員が触っていれば、ボールの共有意識も高いし、チームとしての連動性があると感じます。単純ですが、選手ってボールに触れば触るほど安心できるものです。逆になるとボールを持ちすぎてしまってパス回しがうまく行かなくなりますから、意外と重要です。
試合のテンポも駆け引きだ
ちょっとマニアックな見方になりますが、試合のテンポも駆け引きの一つです。一般的には、サイズがあるチームはスローテンポ、いわゆるハーフコートバスケットが得意と言われます。それに比べてサイズには劣るけどアスリートの多いチームとか、アウトサイドが得意なチームはアップテンポなゲームを得意とします。
NBAではウォリアーズがアップテンポを得意とする、スパーズがスローテンポを得意とするチームの典型です。スパーズはリーグでも最も遅いペースで、ウォリアーズは最も速いペースで戦うチームの一つです。国内ではデータが出ていないので印象論になってしまいますが、シーホース三河はスローテンポ、アルバルク東京や栃木ブレックスはアップテンポを得意とするイメージです。
スローテンポを得意とするチームは、要するに意図的にポゼッション数を減らし、同時に相手にも少ないポゼッション数しか与えない試合運びを狙います。攻める時もゆっくりどっしり、24秒を使い切る。相手のオフェンスにはゾーンディフェンスで当たり、24秒を使い切らせるような対応をします。
ペースの速いNBAを例に挙げると、1試合平均90回のシュートを打つチームを、70回に抑える。そうやってテンポを落とすことで勝機が見えてくることもあるわけです。もちろん、アップテンポだろうがスローテンポだろうが、ルーズボールやリバウンドに対するハードワークは絶対に求められます。
ただ、テンポの話は考え方次第であって、一概に何が正解かは分かりません。日本代表でも、女子はハイテンポなバスケットを志向しています。たくさん走って、スピードで振り回して、3ポイントシュートに勝機を見いだす戦い方ですね。
でも男子はまた別のアプローチを模索しています。アメリカやヨーロッパの強豪、またアジアでも中国が相手となると、サイズもあるのに運動能力もあるんですよ。走り合いに持ち込んでプレッシャーを掛けたところで、全部レイアップを決められてしまいます。だったらチャンスを互いに減らす泥試合に持ち込んで、あとは難しいシュートをいかに決めるか、の勝負に持ち込む。
世界の強豪に勝つために、走るバスケットをしたら勝率は20%しかないけど、泥試合に持ち込めば勝率が30%になる、という話です。指揮官としては悩みどころだと思いますが、代表監督は育てることではなくて勝つことを第一に考えなければならないので。あとはその確率を何%まで高められるかの話ですね。
1980年12月24日ニューヨーク生まれ。青山学院大時代にインカレ優勝、ストリートバスケを経て千葉ジェッツの一員としてbjリーグでもプレー。現在はNBAアナリストとしてWOWOWのNBA中継に欠かせない存在となっている。