文・写真=小永吉陽子

短期決戦でいかに力を出せるか、それが世界最終予選

「世界最終予選は経験をしに行く大会ではない。オリンピックのチケットを取りに行く大会。いろんな局面を考え、誰がどんな場面で必要かパズルのように合わせて、この12人がベストの布陣だと選出しました」

6月23日、日本にとっては初となるオリンピック世界最終予選(OQT)に出場する12人が長谷川健志ヘッドコーチから発表された。サバイバルとなった選手選考と強化を兼ねて参加したのは、6月14日から19日まで中国・蘇州で開催された『Atlas Challenge』。強化時間は1カ月もない上に、リーグが終了したばかりで選手のコンディションはまちまち。未知の大会に向けて選考が難航したのは当然のことだった。

そんなサバイバルレースの決め手となったのは「勝負どころで自分のストロングポイントを出せるかどうか」(長谷川ヘッドコーチ)

日本代表とは、12選手それぞれが自分の仕事をやり切り、その力をいかにチームとして結集させるか、が問われる場所。ゆえに長谷川ヘッドコーチは「代表のチーム作りはオールスターチームを作るのとは違う」と断言する。

ましてや、最終予選は短期決戦。予選ラウンド2試合、準決勝、決勝の計4試合で決着がつく大会であり、予選ラウンドで負ければ大会はあっという間に終わってしまう。1次、2次ラウンドと修正しながら戦い、決勝トーナメントで一発勝負にかけるアジア選手権とは戦い方が異なるのだ。であればこそ、コートに立ったその時から自分の力をフルスロットルで出せる選手が求められる。

1勝4敗で終わった『Atlas Challenge』は結果もさることながら、内容的にも満足できるものではなかった。しかし、例年の強化を見れば分かるように、日本は活動初期には組織力のなさから力をなかなか出すことができない。そう考えれば、むしろ、連敗続きでもチームを作る速度は早くなっているといってよかった。それは長谷川体制となって3年目。核になる選手が約束事を理解しあって、ディフェンスの結束に現れているからだ。

しかし、オフェンスの核が作れない。2戦目のニュージーランド戦では3ポイントが50%(8/16本)と当たって接戦に持ち込めたが、3戦目以降、打開策を見いだせずに失速してしまうのはいつもの負けパターン。与えられた時間で特色を出せる選手は誰なのか――それを見極めながら、チーム作りとセレクションは進められた。

ようやく、ハードワークすることを思い出した日本

チーム作りの輪郭が見えてきたのは大会終盤だ。

3戦目のベラルーシ戦は延長に持ち込んだ試合だったが、やるべきことを疎かにして後手に回る内容に、長谷川ヘッドコーチは「ハードワークが足りない」と激昂した。その後、ゲームの入りの悪さを修正できたのが4戦目のアイダホ大との試合たった。この試合は終盤こそ失速したが、「ボールに絡む姿勢が見えて、やるべきことを選手が思い出した」(長谷川ヘッドコーチ)とようやく手応えをつかんでくる。

このアイダホ大との試合で浮上したのが、これまでプレイタイムが短かった広瀬健太と橋本竜馬、いわゆるファイターたちだ。広瀬は出足の悪さを修正するためにリバウンドに絡み、運動量でかき回して相手を嫌がらせた。橋本はベンチスタートとなった中盤にアグレッシブなディフェンスと球際の強さで流れを引き寄せた。役割を果たせる脇役が浮上し、チームが活気付いてきたのだ。

また、NBLファイナル以降、ぶっつけ本番となった辻直人もこの試合で気迫を見せた一人。辻はファイナル第5戦で右太ももの打撲を負って休養が必要だったため、3戦目からの出場となったが「練習ができない焦りはあったが、絶対にOQTに出たかったので思い切り打った」と、前半で4本の3ポイントシュートを決めてアピールした。

常にハードワークの姿勢を崩さない橋本竜馬が「役割を果たせる脇役」として日本代表に勢いを与えた。

「大型化かファイターか」――試行錯誤の末に原点へ

世界が舞台となれば、ポイントガードの大型化は必要となるだろう。今回、比江島慎(190㎝)と田中大貴(191㎝)というコンバート組が成す2ガードは高さから対抗できる場面もあったが、日本らしい特色が出にくかった。本職ではない彼らが作るゲームテンポは時折スローダウンの展開になってしまう。何よりゲームメイクに必死になることで、「リバウンドやこぼれ球への反応が悪い」(長谷川ヘッドコーチ)ことが目についた。

それでも比江島は最終戦に1対1でこじ開けて18得点を取ったように、シューティングガードとして得点面で起点になることができる。田中は司令塔として何度も試された結果、「ポイントガードとしては田臥、橋本の方が安定していた」という理由で選考から外れてしまった。

ところで、自チームで得点源となっている田中をポイントガードにコンバートさせた理由は何だろうか。世界との戦いを見据えて大型化を図った狙いもあるが、代表では持ち味を出せずに起用時間が減っていたことから、「大貴の能力を引き出すために、ボールを持ってから展開させる必要があった」(長谷川ヘッドコーチ)と新たな可能性を求めたからだった。

当の田中はこう意欲を見せていた。「自分の良さとしてオールラウンダー的なプレーに自信を持ってやっていたのですが、それがこの1、2年は器用貧乏になって、自分の良いところが出せなかった。今年は挽回したい思いで新しいポジションにチャレンジしています」

しかし、大型ポイントガードを務めるには時間が足りず、試練の結果になった。また、アキレス腱炎を抱えていたシューター金丸晃輔もエネルギーを出せず、12人に入ることはできなかった。サイズアップを考えればセルビアに連れていきたい2人だった。しかし、人選とパフォーマンスを見れば、試行錯誤した末に、昨年のアジア選手権で世界への扉を開けたスタイルにこだわった選考になったのだ。

チームスローガンの「超ハードワーク」とは球際を制すること

20年ぶりにベスト4入りした昨年のアジア選手権――。思えば、日本は初戦のイラン戦に38点差という大敗からのスタートだった。負けてはならないインド戦で、ルーズボールへの執念で士気を高めた田臥勇太が「日本は泥臭く戦ってこそ」と体で示してから、戦う核ができたのだ。2次ラウンド以降は、竹内譲次が海外遠征を重ねてつかんだタイミングのいい跳び込みリバウンドがチームを支えた。選手が球際に絡み始めたからこそ、平面で走る日本のカラーが出てきた。

今大会のスローガンは「超ハードワーク」。長谷川ヘッドコーチはきっぱりと「球際を制することが超ハードワーク」だと言い切る。やはり相手がアジアだろうと、世界だろうと、日本の持ち味を全面に出すことが勝機を開くという答えに行きついたのだ。

「3ポイントの試投数を増やすためスクリーンの精度を上げること、がっぷり四つに組ませないゲームテンポを見直すこと。そしてやはり、ファウルするくらいの気持ちで球際に跳びつくことがカギになる」と長谷川ヘッドコーチは短時間でやれるだけの課題を上げる。

中国でハードワークの原点に返り、あと10日足らずで「超」がつくほどのハードワークができるチームへと成長しなければならない。今までにない厳しい状況であることは誰もが分かっているが、「それだけにチャレンジしがいがある」(田臥)という意欲を持ち、セルビアでの決戦に挑む。

「球際を制することが超ハードワーク」という指揮官の信条をコートで表現できる12名がOQTの舞台に挑む。