『高校バスケは頭脳が9割』は12月20日発売

本日、全国の書店で発売となった「高校バスケは頭脳が9割」(東邦出版)では、高校バスケ強豪校を率いる5人の監督に、強いチームを作り上げるための理念を聞いている。

体格差、身体能力が勝敗の理由に使われがちなバスケットボールだが、強くなるチームほど小さな事、細かい事にまで目を配り、日々研鑽を積み、『勝つために』必要なことを探し、取り組んでいる。それは身体的部分は関係なく、誰でも、どんなチームでも取り組めるものだ。

選手が毎年入れ替わる宿命にある高校バスケでは、タレント頼みでは勝ち続けることができない。なぜ高校生なのに「差」が生まれるのか、というシンプルな疑問が副題に冠されている。

どう考え、練習し、プレーすれば上達できるのか──。ズバリ、頭脳が変われば必ず勝てるようになる! 全国でも活躍する5人の現役監督たちの沁みる言葉で綴る、バスケIQが高まる強化書から、ウインターカップ出場を決めた船橋市立船橋高校の近藤義行監督のインタビューの一部を紹介する。

高校バスケは頭脳が9割
東邦出版/2017年12月20日発売
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忘れられないシーンがある。
しかしそれはスポーツそのものの、ここでいえばバスケットそのもののシーンではない。コートのすぐ外、しかも試合前に起こったワンシーンである。
2010年12月29日、ウインターカップの男子3位決定戦のことだ。対戦カードは東京・京北高校(現・東洋大学京北高校)対千葉・船橋市立船橋高校だった。
ウインターカップでは男女ともに、3位決定戦と決勝戦だけが試合前にコーチ(ウインターカップでは監督を「コーチ」と呼ぶ)、アシスタントコーチ、マネージャー、そしてスターティングメンバーの名前がアナウンスされる。
白のユニフォームを着た京北の紹介が終わり、「対します緑のユニフォーム、千葉県代表、船橋市立船橋高校のコーチ、近藤義行さん」、そうアナウンスされたときだ。
「はい!」
市立船橋の近藤監督は、館内に響き渡るくらい大きな声で返事をした。
会場が少しの笑いとともに和やかなムードになった――。

試合は残り10秒で京北が逆転し、銅メダルを獲得。市立船橋はメダルにこそ手が届かなかったが、最後まで死力を尽くして戦ったグッドルーザー、美しき敗者だった。
試合後、近藤監督に「なぜあんな大きな声で返事をしたのですか?」と尋ねてみた。
京北の監督も、女子を含めたそれ以外の監督も、決して大きな声で返事をすることはない。ただ手を挙げるか、お辞儀をして応えるかである。それが普通だと思っていただけに、近藤監督のあの行動に新鮮な驚きを覚えたのだ。
「選手たちの気持ちを盛り上げるためです」
近藤監督は、あたかも当然のことだと言わんばかりに、そう答えた。
ほかの監督さんはしないことですし、大きな声を出すことに恥かしさなどはないですか? もう一歩だけ踏み込んでみる。
「ありませんね。子供たちのことを思えば、恥かしいなんて思いはまったくありません」
胸を打たれるとは、こういうときの気持ちを言うのだろう。
ウインターカップは、下位回戦こそ東京体育館に4面のコートをつくって試合を並行させるが、5日目の男子・準々決勝、女子・準決勝からは中央にメインコートをつくって、1面での進行となる。誰もが注目するメインコート、しかもチーム紹介のアナウンスまである試合で、選手たちが緊張しないはずはない。そう思えばこそ、近藤監督は自らが大きな声を出し、選手たちの緊張をほぐし、勇気を与えたのだ。監督とはここまでするものなのか――。
そのときのことを思い出して、山形、宮城、香川、岐阜と続いた"旅"の締めくくりを千葉にしようと決めた。

市立船橋には3つの学科がある。普通科、商業科、そして体育科である。現在の男子バスケットボール部の割合は4:2:4である。腕に覚えのある運動自慢たち、つまりは体育科の生徒が多いのかと思ったが、そうでもないらしい。
「選手って練習メニューを覚えないことには早く動くことができませんよね。僕の練習メニューは無数にあるので、最近練習してなかったメニューをいきなりやらせると、『?』となってしまう子もいます。そうして考えたりする時間を極力短くさせるわけですけど、まずはやり方を覚える段階が初期ですよ」
バスケット部が使用する第一体育館――市立船橋には3つの体育館がある――の監督室で向き合った近藤監督は、そんなことを切り出してきた。
「でも、それを覚えたからOKじゃなくて、それをうまくやるためのコツはなんなのか。例えば、どのタイミングでパスを出すのが成功するタイミングなのかっていうコツ。やり方を覚えるというのは"知識"だと思うんですね。でもそれをゲームの中でうまく成功させるためには"知恵"が働くかどうかが大切になります。その次に"駆け引き"が生まれてくると思うんです。セオリーどおりにやったらうまくいくケースと、セオリーの逆をやることで相手との駆け引きがうまくいくケースも出てくる。それはもうコートに立ってプレーしている選手が瞬間的に判断することです。つまり『やり方を教える』、『コツを教える』、『使い方を教える』があっての『判断力』ですよね。これだけでも(ひとつのプレーが完成するまでには)4段階、もっと細かく見れば5段階くらいあるので、やっぱり脳まで筋肉バカじゃダメですよね」
中学時代から運動に自信のあった少年たちが集まってくるなかで、頭を使えないプレーヤーではいけないと近藤監督は言うわけだ。むろんそれは普通科、商業科の生徒であっても同じである。相手のいる競技で頭を使えないプレーヤーは、高校スポーツでは通用しない。逆に言えば、そこに高校スポーツのエッセンスはあるのかもしれない。