前田顕蔵

「誰が責任を取るんですか? とシンプルに思います」

Bリーグは無観客でのシーズン再開となったが、2試合が開催できず、選手が出場を望まなかった試合もあり、騒動続きの週末となってしまった。準備期間も限られている上に状況も刻一刻と変わる中、すべてが完璧にできるものではない。ただ、そのしわ寄せが行ったのは、実際にコート上でプレーする選手たちだった。

受け止め方は人それぞれで、無観客でも試合ができることを歓迎する者もいれば、本心ではプレーしたくない者もいる。彼らを束ねる『現場責任者』のヘッドコーチも、複雑な思いを抱えながら選手をコートに送り出していた。

昨日、秋田ノーザンハピネッツの前田顕蔵ヘッドコーチは、まずは勇気を持ってプレーした選手たちへの感謝を語った後、この状況に怒りをぶちまけた。まず彼が指摘したのは、中止の翌日に開催されたレバンガ北海道の試合実施の判断だ。

「昨日出られなかった北海道の3選手が、どういう状況か分からないままプレーしているのはすごく残念です。これが秋田だったら僕はやらない、できないと思います。単純にこれでもし陽性だったらどうするんですか? というのを聞きたい。川崎の選手、北海道の選手に感染したら、すごく無責任です。僕たちがファンのために、というのは安全が保障された次の話だと思うので、正直やりたくないです。だって、責任が取れません。選手が感染して、どのクラブで感染しましたと名前を晒されて、バイキンみたいな扱いを喰らって、でも家族もいる。そこで責任を取れない中でヘッドコーチをやらされて、申し訳ない気持ちしかないです」

「リーグがあって、クラブがあって、僕たちがいてその周りにブースターがいる。そのバランスが保てる状況じゃないと成り立ちません。だからリーグも本当に難しい状況だと思うんですけど、朝に検温して『はいOK』という話じゃない。滋賀の選手が出なかったのも絶対批判されるべきではない。誰が僕たちを守ってくれるのかは、リーグしかありません。そういうところも含めて、後手後手になってほしくないですし、何かあってからでは遅いです。非常にストレスがかかる状況の中、今日プレーしている選手たち全員、誰が責任取るんですか? とシンプルに思います」

激しすぎる自分の言葉を止めて「これ以上はやめましょうね」と前田ヘッドコーチは笑顔を見せた。だが、笑顔は作れても思いが変わることはない。「現場を任される立場からしたらすごく難しいですし、選手も難しい。この状況で試合をして、これで残留とか降格とかチャンピオンシップが決まるとか、すごくフェアじゃない話です。そこに公平感がなくてはスポーツは成り立たないし、みんなが心配なくできるようにしてほしい。あとは全員が健康でいられればと思います」

内海知秀

「選手は精神的な首の皮一枚の状況で戦っています」

土曜日に3選手が熱を出したレバンガ北海道は、日曜には3人いずれも熱が下がったということで、3人抜きで川崎ブレイブサンダース戦に臨んだ。3人ともに危険とされる37.5℃より低い微熱で、一日で下がったために新型コロナウイルスに感染しているとは考えづらいが、それでも検査で陰性と認められたわけではない。渦中に置かれた北海道の選手たちには相当なストレスがかかったはずだ。

それはチームを率いる内海知秀ヘッドコーチも同じだった。日曜の試合後、彼は「しっかりとバスケットに向かい合ってコートで表現してくれた」と選手たちをねぎらい、川崎のバスケットへの取り組みも称えたが、そこから先の言葉は秋田の前田ヘッドコーチと同じく、安全が担保されていない状況で選手をコートに送り出す、『現場責任者』としての苦悩だった。

「このご時世の中で、我々現場は選手たちの安全を第一に考えていかないといけないところ。選手は本当に精神的な首の皮一枚の状況で戦っています。我々のチームだけでなく、このBリーグでそういう試合を行っている。本当に選手たちが不安なくコートの中でプレーをすることが、見ている人たちにとっても本当の意味で『バスケで日本を元気に』というスローガンになると思います」

内海ヘッドコーチはこみ上げる涙を抑えられず、なかなか言葉が続かない。どれだけのストレスの中で選手たちがコートに立ち、ヘッドコーチたちがプレーさせているのか、あらためて感じさせるシーンだった。

週末の試合に向け、リーグは試合開催の是非をあらためて議論することになる。しかし、思考停止状態のままリーグ中断という決断はすべきでない。どの選手も求めているのは『試合をしないこと』ではなく『安全の担保』と『プレーする意義』だ。

試合開催に伴うチケット、グッズと飲食の売上が立たない無観客での試合は、クラブの経営を助けるものではない。むしろ試合開催に伴う経費の発生で、直近の資金繰りを考えればむしろ苦しい。それでも試合をやるのは、プロスポーツクラブの価値をここで示すべきだとの大きな合意があるからだ。『バスケで日本を元気に』をお飾りの言葉にしておくのではなく、こういう時だからこそBリーグは実践したいと願っている。

ただ、ここで紹介した2人のヘッドコーチが言うように、選手がストレスを抱えながらプレーするのでは理念に反する。安易なリーグ中断ではなく、選手たちが不安なく、何のためにプレーするのかの意義を理解できる環境を整えるのが、Bリーグを中心として各クラブ、選手会がやるべきことだ。

何もかも自粛続きの今、土日の試合で元気をもらった人はたくさんいるに違いない。何とかすべての関係者が納得できる舞台を整えて、『バスケで日本を元気に』を実践し続けてもらいたい。