取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

8年ぶり2回目のウインターカップ出場。ここだけ切り取って見れば、精華女子はそれほどマークする必要のない学校に思えるかもしれない。だが、インターハイに続いて激戦の福岡県を勝ち抜き、ウインターカップの出場権も勝ち取った実力は軽視できない。大上晴司監督は「私も8年ぶりなんで、初めてみたいなものです」と笑うが、『全国ベスト8』という目標を果たせるだけのチームを作ってきたという自信がある。

1年生や2年生も試合に出て堂々とプレーするのがこのチームの特徴。インターハイでは1回戦負けを喫したが、その経験がチームを一回り成長させてもいる。福岡県の代表は大濠と福岡第一だけではない。精華女子も十分に注目に値するチームだ。

[INDEX]ウインターカップ2017プレビュー 出場校インタビュー

『全国ベスト8』の目標を達成するために

──インターハイに続き、激戦の福岡県を勝ち抜いてウインターカップの出場権を手に入れました。インターハイでは1回戦負けとなりましたが、あの大会で得たものはありますか?

インターハイで対戦した大阪桐蔭さんの力は想像していた以上で、すべての面でもう一段階成長しないと、ウインターカップに行ったとしても目標である全国ベスト8は無理だと感じました。もう一つは、1年生の2人が初めてのインターハイで、三浦(舞華)も樋口(鈴乃)も緊張で真っ白になったと言うので、日頃の練習からゲームに近い状況を作らなければならないと思いました。逆に、トランジションは通用したし、身体の部分でも春に比べると全国でもかなり戦えるようになっていて、やったことが確実に形に出てきていると感じられました。

──インターハイで敗れた大阪桐蔭ですが、今回のウインターカップでも1回戦で県立足羽に勝てば対戦することになります。

大阪桐蔭さんとはずっと練習試合を重ねています。10月に大阪桐蔭さんがウインターカップ出場を決めた後に行かせてもらって、何度か試合をして1回だけ勝ちました。まさかウインターカップでこんなに早く当たるとは思っていなかったんですけど(笑)。でもこれは、もう一回挑戦しなさいということでしょう。選手たちとは「バスケットの神様がちゃんといるんだなあ」と話しています。まずは初戦の県立足羽さんに勝つこと。それで全国ベスト8という目標をクリアするには、大阪桐蔭さんの壁を乗り越えないとダメだぞと。

──ウインターカップ出場を決めた後はどんな練習に重きを置いていますか?

試験もあって特に合宿をやったわけではないのですが、フィジカルをもう一度強化して、個々で目標を立ててボールハンドリングの練習をやっています。結局はパス1本のミスでオフェンスが1回減ってしまう。それは選手たちにもっと感じてほしいし、そのために個人スキルを上げてほしい。なので口うるさく言っています。

そしてメンバーには入っているけど試合にはあまり出ていない選手を中心にゲームをこなしました。練習だけでは自分を評価する機会がないので、ゲームをすることでうまくいったこと、足りないところを理解させています。ウインター予選の準決勝と決勝では、インサイドは1年生の木村(瑞希)が入り、3年生の石丸(雪乃)を控えに回しました。そのおかげでトラブルが起きてもうまく回せました。ガードとフォワードは不足しているので、1枚でも2枚でもこの中に入ってきてほしい。選手にとってはチャンスなので、生かしてほしい思いがあります。

「コートの中で起きた問題を自分たちで解決する」

──インターハイに続き全国の舞台に立ちます。予選を勝ち抜いて選手に変化はありましたか?

その前に、インターハイが終わって9月の最初のミーティングで、キャプテンの梶原(志保)が2年生に対してブチ切れたんです。チームとしては学年に関係なく思ったことを言い合おうという目標があったんですが、なかなか壁がなくならないという話で。机を叩いて怒鳴り上げて、泣きながら思いをぶつけました。それに対して、来年キャプテンになる予定の2年生の矢野(聖華)が自分の思いを梶原に初めてぶつけたんです。そこから雰囲気がガラリと変わり、学年関係なしにみんながガンガン意見を出すようになりました。こちらが仕向けてもなかなか乗り越えられない壁ですが、乗り越えてくれた。このチームは私が求める選手像やチーム像に近づいていると思います。

チームプレーが求められる競技なので、やはり規律については大事にしています。その次に選手に求めるのは自立です。自主的に考えて行動を起こすこと。そのためには目標が明確じゃないといけないし、いつまでにそれを達成するのか計画を立てて、それに沿って挑戦していく。それができる選手を作っていきたいです。

──規律を重視する上で、部のルールはどうしていますか?

「これはダメ」というルールは一つもありません。食べるものも自由だし、髪型や服装も校則さえ守っていれば大丈夫です。だから、試合でも髪にバンドを着けてプレーするのは福岡県でもウチだけですね。カッコつけてるとか、邪魔なら切ってこいとか、そんな雰囲気が高校のバスケ界にはまだ残っていますが、私はそんなもの取っ払いたいんです。日本の部活動はどうしても先生が監督をやるので、選手が先生を超えられない部分があります。でも僕が求めているのはコーチと選手なので、そこを超えてほしいです。

──選手の自主性を求めるという話でしたが、その点で成長は見られますか?

ありますね。特にキャプテンの梶原は、こういう練習がしたい、みたいなことを本当によく言ってくるようになりました。試合でもタイムアウトを取りたければ私に合図してきます。それは偉そうに見えるかもしれませんが、私が求めている選手像がそこで、梶原はそれに応えようとしてくれています。

私もある意味では任せています。このチームは新人戦で負けて、それからコートの中で起きた問題を自分たちで解決するというテーマに向き合ってきました。ポイントガードの樋口も1年生ですがオフェンスでは指揮を執っていますし、不足したところを梶原が支えてゲームをコントロールしています。そういう面でチームの一体感が出てきました。

「コートもベンチも応援席も一緒になって戦う」

──精華女子の特色は1年生で試合に出る選手が多いことです。この思いきった起用はどういう意図ですか?

ウインター予選で1年生の木村の調子が良かったので抜擢しました。ウインターカップ本番になれば、三浦と樋口が経験したあの緊張感を味わうことも当然考えられるので、その対策を頭に入れながら。三浦と樋口にその不安はもうありません。彼女たちらしく思い切りプレーできる準備をしていきたいです。3年生の梶原、清水、石丸が本当に上手にあの子たちをサポートしてバスケットをやってくれているので、1年生だからという不安は私にはあまりありません。

インターハイはもう何度も経験しているのですが、ウインターカップは8年ぶりで、私も初出場のようなものです。8年前は2回戦で聖カタリナ女子に勝って、勝てばベスト8の岐阜女子との試合で足がピタッと止まってしまいました。あの時は5人でやっていたんです。どのチームも冬をメインにチームを作るので、5人では戦えません。インターハイでは何とかできても、ウインターカップを5人で回すのは無理ですね。

私自身は大会を非常に楽しみにしています。とにかく選手たちが練習してきたことを、ウインターカップで思い切り発表させる環境をベンチで作ることになります。

──久々のウインターカップで、ファンに「ここを見てほしい」という部分を教えてください。

とにかくコートの中で声を掛け合い、協力し合ってゲームを乗り越えていくチームです。特にコートに入っている選手とベンチに入れない3年生が協力し合っています。三浦が自主練する時に球拾いをするのは3年生だし、樋口の球を拾っているのが2年生です。それがあるから予選でも、自分が得点を決めたら応援席にいる自主練を手伝ってくれる先輩に向かって「やったよ」とアピールします。1年生でも全く迷うことなく、自然にそういう仕草が出ます。

そういうアピールを嫌う監督もたくさんいると思いますが、僕は練習中からそういった目配せとか、良いパスをもらった時の「サンキュー」という一言を大事にしたい。Wリーグのチームでは当たり前にやっていることですよね。それが自然なことであれば、練習中からやりなさいと僕は言います。それが試合でも、ああやって自然に出てくる。コートもベンチも応援席も一緒になって戦うのが精華らしさなので、その点を是非見ていただきたいです。