昨年は周希と友希の重冨兄弟、蔡錦鈺といったタレントを擁してインターハイとウインターカップの『2冠』を成し遂げた福岡第一。しかし今年はチームの完成度が上がらず、ウインターカップの12月に入っても、井手口孝監督は「いやあ、もうちょっと」と苦笑を漏らす。それでもインターハイではベスト4に進出しており、去年の優勝を肌で知る選手が多いことは大舞台でプラスに働くはずだ。ウインターカップ開幕を前に井手口監督に話を聞いた。
[INDEX]ウインターカップ2017プレビュー 出場校インタビュー
「みんな真面目すぎてアドリブが効かない」
──インターハイでは準決勝で明成に敗れました。そこからチームに変化はありましたか?
スタートも含めてメンバー構成を変えています。下級生が随分成長したので、使ってみようかなと。ただ、完成度としてはもうちょっとですね。正直、去年と比べると随分差はあります。
まだまだ一人歩きしていない感じです。何と言ったらいいのか……自立していない。ワーワー言って頑張っていますが、最終的にプレー面に出てしまいます。去年と比べると、良い子ばかりなんです。だから難しいのかもしれない。みんな真面目すぎてアドリブが効かないかな。
──表現の仕方が難しいですが、「遊び心がない」ということですか?
やれと言われたことをやるのに一生懸命になってしまう。去年は「勝てばいいっちゃろ」、「シュート決めればいいっちゃろ」みたいなところがありました。今年は覇気も足りないかな。「なにくそ」の気持ちで向かってくるような。
──福岡第一OBでその代表格は並里成選手ではないでしょうか。高校生の頃から彼は「俺がやるぞ」という感じでヤンチャでしたよね。ああいう選手をどう育ててきたのですか?
ヤンチャと言っても何人かいますけど、竹野修平、早川ジミー、長島エマニエル、それぞれ違います。並里に関しては入学して来た時点からバスケットに対する意識はプロでした。しかし、高校生は宿題もやらなきゃいけないし、授業の先生から嫌われないほうがいい。そうやって人に嫌われずにやることは後々の生活で役に立ちます。それが今になって分かってきてるんじゃないかと思います。
──ヤンチャな子は「言うことを聞けよ!」みたいな感じで強く指導しなければいけないと思いますが、それは大変だしフラストレーションも溜まるのでは?
いやいや、ヤンチャくらいじゃないと僕たちの仕事は必要ないですよ。みんな良い子で、「右に行け」と言われたら右に、であれば学校の先生はいらないですよね。それが心の成長とともに少しずつ変わっていくのがちょうど高校の3年間で、そこに接していられるのは面白いですよ。フラストレーションが溜まるとは思いません。学校の先生ってお説教するのが好きだし、生徒とそうやっていくのが好きだから先生になるので。
それに、どうしようもなく悪い生徒はバスケ部にはいません。一般的に思われるような問題行動を起こすことはないんです。それをやったら終わりじゃないですか。去年の友希や周希、土居光にしてもそうです。ヤンチャですが、周りが思っているほど手が掛かったわけではありません。
「苦しい時、うまく行かない時が本当の勝負」
──では今の選手たちのように『お利口さん』のほうが困りますか?
今の3年生は優秀です。ただ、お利口さんが良いかどうかは分からなくて、例えば練習で怒られると、泣くかフテくされてしまうか。そうじゃなくて、僕としては「この野郎」って来てほしいんです。怒ってもフテくされてもいいんだけど、それで次のシュートは決めてほしい。素直に「ハイ」と言えなくてもいいんです。次のプレーにぶつければいい。そこで悲しくなったり、やる気のない態度になってしまうと困りますね。
──そこは向かって来るというか、一歩踏み込んで来てほしいわけですね。
そこからが僕との勝負であり、相手との勝負です。インターハイでもウインターカップでも同じですが、苦しい時、うまく行かない時が本当の勝負なんだけど、そこで力を出さないと。
──あと何週間かでウインターカップ本番です。どのようなアプローチで臨みますか?
できないことはできません。そうなると、よりサポートしないといけない。去年は「ダメかな、どうしようかな」と思ったところで、オールコートで当たってボールを奪って追い付いたりとか、予想外な良いことがありました。今年はちゃんとやれるけど、予想外の良いことは起こらないと思っています。そうなると、コーチの出番がより必要になってきます。試合前にものすごくきっちり仕込む必要があるのかもしれません。
──去年の優勝で福岡第一の名前が上がり、部員がすごく増えました。そいう意味でサポートするのが大変になったのでは?
部員は増えましたが、少なくて寂しいよりはずっと良いですよ(笑)。
──サポートするコーチも増えましたが、彼らの実力も上げていく必要がありますね。
そこはあまり多くは望まないというか、やるのは選手ですから。要は一緒にいてくれれば良いんです。コーチたちもまだ1年生です、本当にバスケットのコーチを目指すのか、学校の先生としての顧問なのか、自分の教師生活をどうするかは彼らが考えることでもあります。ただ、こうやってバスケ部の活動にかかわることは、バスケットが好きでやっていた人ばかりだから、絶対にマイナスにはなりません。
「ちょっと型にはめようとしすぎた部分はあった」
──チームの状況をあらためて教えてください。ウインターカップに向けて、今年の強みはどこにありますか?
下級生も使うようになったことで、去年より控えの層はちょっと厚くなったと思います。去年はほぼ6人、バム(アンゲイ・ジョナサン)まで入れて7人でした。今年は9人ぐらい行けるので、そこはスムーズです。ただ、友希や周希、蔡(錦鈺)という去年のスタートのレベルまでたどり着けるかどうかはまだ分かりませんね。
だからメンバーチェンジのタイミングや、タイムアウトのタイミングもしっかり考えて取っていかないといけない。良いタイミングで取って、ミスしないように支えてあげないと。僕らは2回戦からですが、最初からそういう試合が続くと思っています。
──インターハイで優勝を逃したからこそ得られた「こうやらないといけない」というものはありますか?
ちょっと型にはめようとしすぎた部分はあったかもしれません。インターハイに入って大事にしすぎました。「こうやれば勝てる」とか「これで点が取れる」みたいなことを僕が言いすぎて、選手たちが「決めてくればいいんだろ」じゃなくて「その通りにやろう」になってしまいました。それが明成とのゲームでした。