東芝傘下で最後のシーズン、愛着のある親会社へ恩返し
昨日、東芝からDeNAへのオーナー移管が発表されたことを受け、川崎ブレイブサンダースのキャプテン、篠山竜青が取材に応じた。篠山は日本大学を出て当時の東芝に『入社』し、東芝バスケットボール部の社員選手として5年間プレーした後に、Bリーグ発足に伴いプロ選手になっている。
今回の話は5日にチーム運営会社の荒木雅己社長から聞かされたが、以前にも売却の噂はあり、それは当然ながら選手たちの耳にも入っていたと篠山は言う。「荒木さんの緊急ミーティングがあると聞いて、みんなで何の話なのか予想していました。その中にはこの結果も入っていたので、全く予期せぬことではありませんでした」
「いろんな競技を見ても、プロスポーツでオーナーが変わるのはそんなに珍しいことではないし、いろんな面で変化を求められるビジネスなので、バスケでも十分あり得ることだと思っています。東芝のバスケ部として長い歴史があるし、僕も入団当初は東芝の社員として入ってきたので、愛着もあるし寂しい思いもあります」
篠山を始め選手のほとんどにとって、東芝は単なるオーナー会社ではなく、自分が所属していた会社だ。当然、その愛着は小さくはない。「長年支えてくれた東芝の存在が今シーズンで終わりになって、来シーズンからDeNAさんになります。川崎ブレイブサンダースが終わるわけではないんですけど、長年歴史を作ってきてくださった東芝バスケットボール部の人からすると一区切りになるので、そこは僕たちもその気持ちを汲んで、『有終の美』と言っていいか分からないですけど、恩返しの意味でも今シーズンに良い結果を出そうというのは、選手とスタッフの中で高まっています」
「これからもテレビ、家電は東芝で」とニヤリ
DeNAで思い浮かぶのは横浜ベイスターズの成功だ。「僕は地元が横浜で、ベイスターズはDeNAになる前から見ていますが、集客の面、実力の面でも今年は日本シリーズに行っていますし、プロチームとして成長を遂げているという感覚で見ていたので、ポジティブなイメージを持っています」と篠山は言う。ただ同時に「何かが変わっていく時には期待も不安もある」と、決してネガティブな意味ではないが、漠然とした不安があることも明かしている。
「具体的に何がどう変わるのかは見えていないので、漠然としかしていません。いろんな面で良くなってほしいとしかお答えできないです」
この言葉からも分かるとおり、発表はされたものの、何が、いつ、どのように変わるのかは彼らにも分からない。そこに不安があるのは無理もないことだ。それでも、川崎市を本拠地として、とどろきアリーナでホームゲームを行い、クラブハウスと練習場が引き続き使えることには「現場の変化は少ないので安心しました」と言う。
予想されたこととは言え、まだ未来図を描くことは難しい。そうなると当然、意識が向くのは愛着ある東芝との別れだ。ご存知のとおり、ここ数年の東芝は悪い話題ばかり取り上げられている。ただ篠山はこれに反論する。「ネガティブなニュースが多くて、外側の人から『大丈夫なのか』と心配する連絡をたくさんもらっていましたが、中の僕たちは『東芝なら立ち直れる』と思っていましたし、今も思っています」
「今回、運営が東芝からDeNAに変わりますけど、ずっと東芝を応援する気持ち、東芝への感謝は変わりません。これからもテレビ、家電は東芝でと思っています」とニヤリ。ずっと表情の硬かった篠山が、ここでようやく『らしさ』を見せた。
「愛を持って接してくれる人たちの集まりが東芝」
「スポーツだけをしている実業団の選手もいると思いますが、僕らは働きながら練習をして試合もする環境だったので、そういう意味でも会社への思いはあります」と篠山は言う。
「僕はスポーツしかしてこなくて、ディベートでとんちんかんなことを言って笑われたりしてましたけど、その中でもすごく優しく応援してもらいました。部署に配属されてからも、いろんなところにバスケ部OBの方がいて、手取り足取りで仕事を教えてくれたり、仕事以外にも食事に連れていってもらったりしました。キャプテンになって、役員の方と会う機会も増えましたが、そういう人たちも親しみやすくて、僕は酔っぱらった勢いで役員の方と肩を組んでカラオケしたりしてましたけど(笑)、そういうことが許されるというか、愛を持って接してくれる人たちの集まりが東芝でした」
こういう関係がDeNAとの間で築き上げられるかどうかは分からない。川崎ブレイブサンダースの将来を考えた場合、今回のオーナー変更は必ず良い変化をもたらすだろうが、変化には痛みも伴うもの。選手の立場としては厳しいこともあるだろう。篠山はキャプテンとして、そういった困難にも向き合わなければならない。
でもその前に、『有終の美』を。東芝傘下として最後のシーズン、彼らには『究極のモチベーション』が備わった。
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