取材・写真=古後登志夫 構成=鈴木健一郎

大会名称がまだ『ウインターカップ』ではなく一般的に『選抜』と呼ばれていた時代の1975年、第5回大会で洛南がベスト4に入った時、吉田裕司は当時1年生選手としてこの躍進を体験していた。卒業後に指導者として洛南バスケ部に戻って来ると、アシスタントコーチを経て監督となり、常にレベルの高いチームを作り続けている。

公輔と譲次の竹内兄弟、湊谷安玲久司朱、辻直人と比江島慎、谷口大智に笹山貴哉、伊藤達哉……。日本のトップ選手をコンスタントに輩出しつつ、今回でウインターカップは18年連続41回目の出場。ただし優勝は比江島を要した2008年の3連覇以降は遠ざかっている。ウインターカップ開幕を控えた吉田裕司監督に、大会へ向けた思いと育成のポリシーについて聞いた。

[INDEX]ウインターカップ2017プレビュー 出場校インタビュー

「何が良くて何が悪いのか、その判断をした基準は何か」

──ウインターカップ開幕が近づいてきました。まず今年の洛南のスタイルを教えてください。

予選を突破するのが第一目標だったので、まずはそこでした。ウインターカップについてはこれからじっくり考えます。インターハイ予選で東山に敗れたことから、やはり留学生対策を一番に考えました。そこに2人、3人とシフトを敷いてヘルプをすることで、点数は随分抑えられたと思います。あとはやはり得点を争うゲームで、そこからのファストブレイクがよく出たのが勝因になりました。外のシュートも当たり、苦しい時をつないでくれました。

──それほど大きい選手のいるチームではありませんよね。

大きい留学生が軸になるようなチームではないので、毎年のことですけど全員がどこからでも点数を取れるようなチーム作りをしています。全員がオールラウンドにいろんなことができるように、そうやって日々練習しています。

──オールラウンドな能力を身に着けることで、将来的な伸びしろも保証できますね。

そうですね。まだまだ伸び盛りの年代ですから。ガードがセンターをやるとか極端なことはないですが、バスケットはポジションにかかわらずみんな同じなので、全員が同じようなプレーを練習しています。心掛けているのは全員が良いシュートセレクションをすること、そしてそのシュートをできるだけ高確率で決めることです。

──高校生は伸び盛りである反面、精神的にまだ成熟していなくて弱い部分もあるのではないかと思います。高校生を指導する上で気を付けていることはありますか?

良い習慣を付けることが大切だと思います。何が良くて何が悪いのか、その判断をした基準は何か。これをできるだけ練習で取り上げます。そういうところは練習を止めて時間をかけてでも全員に徹底するように心掛けています。これは毎日の繰り返しでしかないし、そのために練習があるので。それでも同じことばかり繰り返していたのでは成長がないので、いろんなシチュエーションを与えながらやるようにしています。

選手たちが自分で考える場面も必要ですし、私の言葉で通じないところは若いコーチが伝えたり。チームメート同士で対話する中で気付く場面もあるでしょう。私よりも先輩から言われたほうが効果的なことも、高校生にはよくあることなんです。

──単に優れたバスケットボール選手を育てるのではなく、人間性も育てる必要があると思います。大変ではありますが、そこが高校バスケの指導者の醍醐味かなとも思います。

プロコーチと違って教員なので、バスケ部の指導でも教員的な考えがやはり先に立ちます。プロコーチであれば選手の見極めがやりやすくなるとは思いますが、私としてはバスケ部全員を3年間で良いものを身に着けさせてやりたい。これだけ人数がいたら、試合に出れる子と出れない子が必ず出てくるのですが、試合に出れない子も一緒に頑張る、そうやっていけるようにするのが洛南のスタイルですね。

「洛南のスタイルを崩すことなく戦いたい」

──洛南のスローガンは『集中、正確、粘り』です。この意味を教えてください。

集中、正確というのは誰でも必要な部分です。急ぐことと慌てることは違います。みんな慌てて失敗するので、やるべきことに集中して、できるだけ正確に。粘りはやはりメンタル、根性の部分です。勝負の最後にはやはり人間性のような、意地とか頑張りが必要になってきます。それを一言で表現すれば『粘り』かなと思います。

──この1年で一番成長した、変化があった選手は誰でしょうか?

全員が変わってきていますが、やはりキャプテンの大橋(大空)くんは小さいけど努力家だし、勝ち気だし、スキルも上がってきています。そしてセンターではありませんが一番身長のある津田(誠人)くんも頑張ってくれています。練習中はまだまだ気が抜けてしまう部分もありますが、試合では本当に集中して良くやってくれます。

──ウインターカップでカギになる選手を一人だけ挙げるとしたら?

やはり津田くんですね。スタートでも190cmを超えるのは彼しかいません。全国には留学生とか190cmを超える選手のいるチームが多いので、インサイドで彼がどこまで対抗してくれるのか。そこは一つのポイントになります。

──今年のウインターカップに懸ける思いを教えてください。

このところベスト8まで行って惜しい負け方をしています。やはりそこまでは行きたいと思います。そのためには初戦から手堅く勝って、市立船橋さんとか明成さん、優勝候補のチームと戦っていくことになりますけど、洛南のスタイルを崩さずにそこまでたどり着きたいです。

──上位に進出するには京都府予選で東山を破ったような全員バスケが求められてきますね。

強豪校の監督は百戦錬磨で、みんな手強い戦術なりチーム作りなりをしています。そこを意識するより、自分たちがどうあるべきかを考えたいです。どこからでも攻撃ができるということは、全員が同じように2桁の得点をするということ。それができればチャンスは出てきます。逆に、得点が偏るようだとウチは苦しいでしょうね。ただ、インターハイに出ていないチームですから、いわゆる「一からのスタート」のつもりで、一つひとつ戦って上位を目指したいです。