文=バスケット・カウント編集部 写真=Getty Images

空前の盛り上がりを見せたNBAファイナル、キャバリアーズとウォリアーズの死闘。7試合を通した各選手のパフォーマンスを『バスケット・カウント』編集部にて評価した。

キャバリアーズ

レブロン・ジェームズ
第4戦までは外角が決まらず、強引に中に持ち込んでは狙われて外すシーンが目立ったが、第5戦以降は完全に試合を支配。シリーズ累計のスタッツで、得点、リバウンド、アシスト、スティール、ブロックのすべてで両チームトップ、トリプル・ダブル2回という圧倒的な数字を残しただけでなく、ルーズボールに体を投げ出し、ボールを奪われたら誰よりも早く帰陣するなど、熱いプレーでチームメートを鼓舞し続けた。
彼が30得点以上を奪えばチームは勝つ。第7戦は27得点だったが、その分ディフェンスで鬼神のごとき働きを見せた。好守ともに、いかにキャブスにとって「キング」の存在が大きいか、改めてその事実を誇示するシリーズだった。
これまではヒール役として見られることが少なからずあったが、「クリーブランドに戻って初タイトルをもたらす」というストーリーも含め、イメージを一転させるほどのパフォーマンスをこのシリーズで見せた。いずれにしても、誰もが納得のファイナルMVPだ。

カイリー・アービング
シリーズ前半は積極性を欠き、彼がプレー選択に迷うことでチーム全体のオフェンスを停滞させるシーンが何度か見られた。第4戦は終盤の勝負どころで彼がシュートを落としたことが大きな敗因となり、いよいよ自信を失うかと思いきや、後がなくなった第5戦、第6戦で続けて41得点の荒稼ぎ。シリーズの流れを変えた第5戦ではアタックモードを貫き、トンプソンとのマッチアップに完勝。フィールドゴール率70.8%という驚異の数字を残した。
以後はファストブレイク決定率の高さ、勝負どころでのタフショットを幾度となく沈めて、ジェームズとともにオフェンスを牽引した。去年のファイナルは自身の故障欠場がチームの敗因となっただけに、気合が入っていた。

トリスタン・トンプソン
連敗して迎えた第3戦、闘志を前面に押し出してリズムを作り出すトンプソンのプレーが、レブロンとアービングに当たりを呼び込んだ。イッチディフェンスでガード陣にも付くフットワークを見せるなど、ゴール下に限らない働きを披露。また、実直に精力的にスクリーンを仕掛けて味方のチャンスを演出し、オフェンスリバウンドで何度もチームを救った。
ポゼッションを保持するプレーは、ハイペースな試合展開に持ち込みたいウォリアーズの狙いどおりにさせないという意味で非常に重要。影のMVPと呼んでもいいぐらいの貢献ぶりだった。また、シリーズ前半はハックを嫌ってベンチに下がる時間帯もあったが、それをやめたタイロン・ルーの判断も良かった。

JR・スミス
第7戦までもつれたシリーズのほとんどの時間をコートで過ごし、攻守に奮闘。得意の3ポイントシュートで流れを変え、不調のラブの代わりに3人目の得点源として活躍。勝負どころで流れを引き寄せる得点、アシストを多数記録した。不要なファウルが目立ったが、それも積極的なディフェンスと見ることもできる。ファストブレイクからレブロンへノールックのアリウープパスを決めるなど、重圧の掛かる試合でもビッグプレーを披露した。

リチャード・ジェファーソン
昨夏にキャブスに加入したベテランは、レギュラーシーズンと同様、地味ながら体を張った働きで主力をサポート。ラブが不調、そして欠場した際には代役としてコートに立ち、積極的なプレーでチームに勢いをもたらした。スタッツ以上に貢献度は高く、近年のベストパフォーマンス。ルーキーイヤーとその翌年にファイナルに進むも敗退。13年ぶりのチャンスで優勝を果たした直後に現役引退を表明した。

イマン・シャンパート
主にディフェンス面でチームに貢献。手も足もしつこく動かすディフェンスでカリーを苦しめた。オフェンス面でも果敢にプレーしたが、シュートセレクションに難があり得点が伸びなかった。それでも第7戦では第2クォーターにクイックモーションからの3ポイントシュートでバスケット・カウントももぎ取る4点プレーを決め、相手に傾きかけた流れを一気に引き戻した。

ケビン・ラブ
レギュラーシーズンからの不調を引きずってファイナルを迎えた。グリーンとのマッチアップで散々にやられて自信喪失。脳震盪の影響でラブが欠場した第3戦にチームの歯車が噛み合って1勝を挙げたこともあり、シリーズ中にもかかわらず「放出すべき」という意見がメディアから出るほど逆風は強かった。
しかし、第7戦はボーガットが抜けた相手のインサイドの弱さを徹底的に突くことでウォリアーズのスモールラインアップを機能不全に追い込み、14リバウンドで勝利に貢献している。

ダンテイ・ジョーンズ
ここ数年はDリーグを主体にプレーしていた35歳のベテランは、4月13日にキャブスと契約。激しいディフェンスを役割としてパートタイムで出場していたが、第6戦の第2クォーターにコートに立つと、ノーマークの隙を突いてわずか2分間で5得点を挙げ、ウォリアーズの追い上げムードを断ち切って勝利に貢献した。

マシュー・デラヴェドバ
持ち味のしつこいディフェンスが機能せず、オフェンスに転じても3ポイントシュートもアリウーププレーも決まらなかった。ディフェンスからリズムを作る選手だけに、その前提が崩れると厳しい。得点もアシストも伸び悩み、期待に応えることはできなかった。

ウォリアーズ

ドレイモンド・グリーン
得点、アシスト、リバウンド、ディフェンスと、常にチームが必要とする要素を提供し続け、ウォリアーズを引っ張った。それだけ攻守に不可欠な存在だっただけに、第5戦の欠場は痛かった。フレグラントファウルで出場停止が科された裁定に不満はあるだろうが、そもそも相手選手に対する暴力行為はジャッジ如何にかかわらずあってはならないものだ。
結果的にグリーンの出場停止がシリーズの流れを一変させた。彼が不在となると、レブロンのジャンプシュートの成功率が急上昇する。グリーンが常にコート中央にいれば、キャブスはノーチャンスのまま敗退していたはずだ。
第7戦でもスプラッシュブラザーズに引けを取らない精度で3ポイントシュートを立て続けに決める活躍を見せた。敗者には相応しくないパフォーマンスだった。仮に第7戦をウォリアーズが制していたら、グリーンがシリーズMVPということで異論はなかったはずだ。

ステファン・カリー
第1戦と第2戦では、カリーがチームメートの活躍を演出する側に回って連勝したが、エース自身が引っ張らなければチームは勢い付かない。相手がキャブスのような強敵ならばなおさらだ。
本人は言い訳を口にしないが、ケガの影響は確実にあった。レギュラーシーズンとは出来が明らかに違い、サンダーとのカンファレンス決勝から苦戦続き。3ポイントシュートだけでなくドライブして打つレイアップの成功率も低かった。もっとも、アービングとの1対1では常に後手に回り、シュートセレクションも悪かった。サンダーからキャブスへと続く相手の徹底マークに、少しずつ精度が狂っていった結果だろう。
思うように得点できないことでメンタルにも悪影響が。その結果が第6戦のファウルアウトだ。これは「普段のカリー」には見られない残念なパフォーマンス。プレーオフに入ってからコンディション不良で、本人にとってはもどかしかったはず。五輪出場回避で体のケアに専念し、来シーズンの巻き返しに期待したい。

クレイ・トンプソン
3ポイントシュートの当たりは良く、ディフェンスも堅実かつ安定していたが、強いて言えば爆発力不足。3ポイントシュート11本を決める神がかり的なパフォーマンスを見せたカンファレンス決勝第6戦の再現はならず。
スプラッシュブラザーズの相棒、カリーの不調を埋めるほどのインパクトは残せなかった。また、アービングとのマッチアップで後手に回り、勝負どころでやられた印象が強い。

アンドリュー・ボーガット
ブロックショットを連発していたボーガットは、第5戦途中にJR・スミスと交錯しながら着地した際にひざを壊し、残り試合を全休することに。
ラブやレブロンのドライブに体を張って対抗していたビッグマンが不在となったインサイドを徹底して狙われ続け、ウォリアーズは自分たちのバスケットができなくなってしまった。またオフェンス面でもボーガットが抜けた後はペイント内でのポストアップができなくなり、攻撃のバリエーションが減った。スモールラインアップが称賛される中、地味ながらペイントエリアを固めるボーガットがいかに重要だったのか、今回の負傷欠場により痛感することになった。

アンドレ・イグダーラ
シリーズ序盤は絶好調。レブロンのドライブにしっかりとフットワークで付いて対応するなど、エースキラーの本領を発揮。攻撃でも要所でタフショットをねじ込み、オフェンスリバウンドでもチームに貢献した。ところがシリーズ後半は腰の痛みを訴え、時間制限付きでコートに立つも、試合ごとに調子を上げるレブロンを止められず。昨年のファイナルMVPにとっては、もどかしい結末となった。

ショーン・リビングストン
ペリメーターのシュートを高確率で沈め、第1戦では勝利の立役者になった。第7戦でもグリーンへノールックのバックビハインドパスを通すなど卓越した技術を披露。カリーのバックアップとして常に安定したプレーでチームを助けた。結果論ではあるがカリーが本調子でなかっただけに、もっと出場機会を与えてもよかったのかもしれない。

アンダーソン・ヴァレジャオ
キャブス一筋で11年半を過ごした男が戦力外通告を受け、トレイルブレイザーズへの短期間の在籍を経てウォリアーズに移籍。結果的に2年連続で優勝を逃す皮肉な結末となった。プレータイムは短かったが、出場のたびにベテランらしからぬハッスルぶりでチームを盛り立て、第4戦ではオフェンスリバウンドで劣勢を跳ね返しての逆転勝ちを呼び込んだ。

フェスタス・エジール
ケガをしたボーガットの代役として起用され、少なからず存在感は見せたが、その穴を埋めるには至らず。高さはあるもののボーガットのようなフットワークや駆け引きの妙を期待できる選手ではなく、またオフェンスではほとんどノーインパクト。チームを救うことはできなかった。

ハリソン・バーンズ
派手さには欠けるが、基本に忠実にクオリティの高い仕事を重ねる実力者。しかしこのシリーズでは好不調の波が大きく、当たりが来ないと消極的になってしまう悪癖が出てしまった。第5戦ではフィールドゴール14本中2本しか決められず、第6戦ではことごとくシュートを外して無得点と大ブレーキに。戦犯となってしまった。