文・写真=鈴木栄一

決勝フリースローを前に指揮官がかけた言葉

11月25日の天皇杯3次ラウンド、秋田ノーザンハピネッツは富山グラウジーズと対戦した。同点で迎えた残り0.3秒に小野寺祥太が勝ち越しのフリースローを決め、文字通り最後までもつれた熱戦を85-83で秋田が制した。

試合は前半を終えて秋田の32-30と全くの互角。第3クォーターに入ると、秋田は持ち前のガード陣による激しい当たりからターンオーバーを奪取しての速攻などで一時はリードを2桁にまで広げ、59-53とリードして最終クォーターへ。富山はこの試合で25得点を挙げた岡田やドリュー・ヴァイニーの活躍で追い上げるが、秋田リードのまま時計は進む。

だが、試合終了間際にゲームは大きく動いた。残り1秒、秋田3点リードの場面。富山はサム・ウィラードがフリースローを得て1本目を決める。2本目を決めても追いつかないため、これをわざと外し、上江田勇樹がオフェンスリバウンドから押し込んで、残り0秒3という土壇場で83-83と追い付いた。

これで試合は延長戦に突入すると多くの人が思っただろう。だが、直後のプレーで秋田はタップシュート狙いでゴール下に飛び込んだ小野寺にパスを送る。これに富山が痛恨のファウルを喫してしまう。

絶対的なチャンスではあるが、それだけにプレッシャーのかかる場面。ペップ・クラロスヘッドコーチは小野寺に「まだ延長の5分がある、たとえ2本外しても大丈夫だ」と伝えた。これでリラックスできたと言う小野寺が2本とも確実に決め、劇的な結末の末に秋田がジャイアントキリングを成し遂げている。

ゲームプランを徹底し、B1の富山に勝ち切る

秋田のクラロスヘッドコーチは、「今日はベンチ入り11名全員がプレーし、全員が自分たちのやることを追求してやってくれた」とチーム一丸で戦ったことを強調。「相手がB1の富山とはいえ、相手の出方を見て、それに対して動くというのではない。相手に関係なく自分たちの戦いをする。自分たちで試合をコントロールするためのゲームプランを立てた」と、いつも通りのスタイルで挑んだと語った。

実際、秋田はいつものB2と変わらず前から激しくディフェンスを仕掛け、中山拓哉の6スティールを筆頭にチーム全体で計15スティールを奪取。富山は司令塔の宇都直輝が日本代表に帯同して不在だったが、それでも秋田が自分たちのバスケットをしっかり遂行できたことが最大の勝因になった。

また、宇都がいない一方で、この試合の富山は3ポイントシュートがチーム全体で計17本中12本と驚異的な成功率を誇っていた。それでも「相手のインサイドを第一に防ぐというゲームプランを徹底し、最後まで我慢できました」と田口成浩が言うように、劣勢でもブレずに自分たちの戦いを実行できたのが大きかった。

いつものスタイルを変えない。奇襲ではなく真っ向勝負を挑んでのB1撃破に田口は、「やってやったという気持ちはあります。カテゴリーが違う中、向こうがプライドを持って戦った中で勝ち切ったのは自信を持っていい」と語る。確固たる手応えを得たこの勝利を弾みに、明日はB1屈指の強豪、川崎ブレイブサンダーズ相手にどんな戦いを見せるのかが楽しみだ。