コー・フリッピン

勝利に繋がったフリッピンの突破力

千葉ジェッツはサンロッカーズ渋谷との水曜ナイトゲームに勝利し、東地区3位に浮上した。

この試合、SR渋谷が誇る前線からの強烈なプレッシャーを打ち破ったことが勝因となったが、ここに大きく寄与したのがコー・フリッピンだった。

フリッピンは約22分の出場で13得点6リバウンド2アシスト2スティールを記録。ボールを運びながらディフェンスを抜き去り、そのままレイアップまで持っていく場面が見られるなど、SR渋谷のディフェンスを真っ向勝負でぶち破った。

試合後の取材対応では、指揮官の大野篤史が「コーがすごい良い働きをしてくれた」と、あえてフリッピンの名前を出し称賛した。「彼がしっかりバスケットにアタックしてパスを供給してくれたおかげでノーマークも作れましたし、クローズアップシチュエーションも作れました。良いパフォーマンスでした」

SR渋谷は今シーズンの開幕戦で連敗した相手であり、天皇杯を制した強敵だった。それでもフリッピンは「大きな試合だとは思うけど、数あるうちの1試合に過ぎない。(富樫)勇樹も自分のスポットを生かしてくれて、やれることをやっただけ」と、気負わず通常運転だったと主張した。

SR渋谷の伊佐勉ヘッドコーチも、試合を総括する際にフリッピンの名前を挙げた。「プレッシャーをかけているんですけど、富樫君とコー君のスピードが止まらなかった。ボールプレッシャーをかけていたんですが、コー君にはイージーレイアップまで持っていかれました」

コー・フリッピン

「君のプロキャリアはすぐに終わってしまう」

フリッピンはここまで26試合に出場し、平均13.9分のプレータイムで5.3得点を記録している。ここまで5試合で2桁得点超えを達成しているが、いずれもプレータイムが20分を超えた時だった。すなわち、ある程度のプレータイムが与えられれば得点できることを証明しているが、出場機会を得るようになったのは比較的最近と言える。

最初の11試合のうち5試合で出場機会を与えられず、出場した5試合のうち4試合が10分を下回っていた。

「もちろん大学の時はプレータイムをもらえない時期もありました。ベンチからの出場もありましたし、こういう状況は前にもあった」と話すフリッピンだが、最初はプロフェッショナリズムに戸惑いがあった。

大野ヘッドコーチは言う。「最初の頃は学生上がりでこれぐらいのワークアウトでいい、フィルムワークもほどほどに、というのが見えていたので、それだったら絶対にゲームで使わないと彼と話しました」

プロは結果を問われるもので、試合で活躍すればそれで良いとの考え方もある。だが、練習への取り組みやオフコートでの行動もプロフェッショナルでなければならない、というのが千葉ジェッツと大野ヘッドコーチの考え方だ。

フリッピンも「最初はいろいろ言われたことに対して、どうなんだろうって思うところはありました」と明かす。それでも、大野ヘッドコーチは藤永佳昭の話を持ち出して、フリッピンに向き合ったという。

「アキ(藤永)が去年やってきたことを話したんです。ゲームが出れない時期でも最後まで一人で残ってワークアウトをして次の準備をする。それがプロの姿勢だろう。ゲームに出れないからといって不貞腐れてたりしていたら、君のプロキャリアはすぐに終わってしまう、と話しました」

コー・フリッピン

徐々に表れた変化「自助努力を怠らなくなった」

こうしたコミュニケーションは、フリッピンの気持ちに変化を生んだ。「僕はこのチームにとって新たなピース。コーチや選手が僕にアジャストするのではなく、自分がチームにアジャストするんだと意識しました。自分が成長するために言ってくれていると受け止めてプレーすることができるようになりました」

大野ヘッドコーチも彼の内部で起きた変化を感じ取っている。「ワークアウト、フィルムワークを含め、バスケットに対する取り組み方が一番変わったかなと。チームの中の一つのピースとして自分に何ができるかというところを把握して、自助努力を怠らなくなった。だいぶ良くなりました」

奇しくもこの日は、フリッピンが変化するきっかけとなった藤永も持ち味を生かして勝利に大きく貢献し、相手指揮官が名前を挙げていた。まさに『練習は嘘をつかない』が形になったこの日の活躍だった。

「もちろん自分は完璧じゃないし、どこにもたどり着いていない。毎日練習して成長している段階だ」とフリッピンは言う。プロとしてあるべき姿勢を理解した若武者は、優勝のために必要な1ピースとして尽力する。