デマー・デローザン

リーグ最高クラスのオフェンス力と上がらぬ成績

ヒートとの激しい試合を制したスパーズのデマー・デローザンは、20得点9アシスト9リバウンドと大活躍でしたが、およそ1カ月ぶりに「外れたシュートの方が多い」試合になりました。それまでフィールドゴール成功率50%以上、20点以上、3アシスト以上を13試合連続で記録し、マイケル・ジョーダンの12試合連続を超える歴史的な1カ月を過ごしていたのです。

そんなデローザンの好調の理由には、スパーズのオフェンスシステムの変更があります。

3ポイントシュートこそ打たないものの、ジャンプシュートの上手さとガードながら巧みなフェイクから粘り強いゴール下での得点力を持つデローザンにとって、最も効率的に得点できるのはペイント内へのドライブであり、1on1の勝負においては絶対的な自信を持っています。しかし、これらの強みはインサイドで待ち構えるリムプロテクターに対しては分が悪く、得意のペイント内は同時にディフェンスが密集する危険地帯でもあります。

スパーズが行ったシステム変更はデローザンよりも周囲の選手のポジション変更が主です。両コーナーにポジションを取らせてインサイドを空けるとともに、ビッグマンもアウトサイドで構えることを徹底しました。それまで1試合平均26.4本だったチームの3ポイントシュートは31.5本まで増え、特にセンターのラマーカス・オルドリッジは1.7本から4.6本と大幅に増やしてきました。デローザンと並ぶエースの役割を大きく変えてまで、オフェンス改革を実行してきたのです。

大きく広がったスペースに対してデローザンはハイポスト方向へのドライブを増やし、常にコートの真ん中をプレーエリアにしました。これはリングの正面から得意のジャンプシュートを正確に決めるだけでなく、ヘルプディフェンスに対して大きなキックアウトパスを有効に使う狙いもあり、デローザンのパスから10.2本もの3ポイントシュートが生まれています。これはリーグトップクラスのポイントガードにも劣らぬ数字であり、デローザンは単にシュートが好調なだけでなく、パサーとしての有能さも示すことになりました。チームのエースだけに得点に目が向きがちですが、今のデローザンはむしろフリーのチームメートを確実に見つけてパスを出す判断力の高さが光っています。

13試合で平均27.1点、フィールドゴール成功率63.8%、5.9アシスト、2.2ターンオーバーと選手として完璧と言いたくなるスタッツを残したデローザンを中心にしたシステムが機能したことで、スパーズは開幕から苦しんでいたのが嘘のように、平均117.5点、フィールドゴール成功率49.4%、3ポイントシュート成功率39.0%と一気にリーグ最高クラスのオフェンス力を持つチームになりました。

ヒート戦では警戒されたデローザンのシュートが落ちたものの、その分キックアウトパスから5本の3ポイントシュートが決まっており、チームとしては効果的なオフェンスができていました。今のスパーズは単なるデローザンの好調さに留まらないベストなシステムを構築できているのです。

デマー・デローザン

一方でリーグトップのオフェンス力を発揮しながら、その間の勝率は5割に留まっており、なかなかプレーオフ圏内に浮上できていません。完璧とも言えるシステムバランスで勝てないのであれば、チームの未来を考え直す必要もあります。問題となるのは、デローザンを含めてディフェンスを不得手としている選手はいるものの、個人としてのディフェンス能力に優れたデジョンテ・マレーや読みの鋭いデリック・ホワイトを抱えながら、一向にチームとして改善してこないのは現ロスターの限界なのかもしれません。

特に問題なのは「大きな問題」を感じさせないことで、個々の選手がしっかりとマークマンをチェイスすれば、ヘルプポジションをしっかりと取ってカバーするなど、誰もディフェンスを疎かにしていないにもかかわらず止めきれずに失点を重ねること。最近は頻繁に4ガードを組むなどガードが多いロスター構成は、サイズとフィジカルで劣るため、試合が進むにつれて押し込まれてしまいます。この結果、どうしても止めきれず相手に与えるフリースローが前半の8.8本に対して、後半は12.7本と大幅に増えてしまいます。開幕前から懸念されていたウイング不足が結果に示されています。

デローザンの歴史的な活躍を導き出したオフェンス改革は見事でしたが、それでも勝てない状況はチームの根本的な問題を浮き彫りにし、22シーズン続いているプレーオフ進出に黄色信号が灯ってきました。トレードデッドラインが迫る中で、ディフェンスに焦点を当てた補強をするのか、それともチームの限界と悟って再建の道を選ぶのか。後者であれば最も多くの対価を望めるのがデローザンでもあるだけに、自分自身の好調さがデローザンの未来を変えるのかもしれません。