令和最初の天皇杯、川崎ブレイブサンダースは決勝に進むもサンロッカーズ渋谷に敗れた。結果だけを見れば、またしてもタイトルに届かなかったということになる。ただ、篠山竜青とマティアス・カルファニを故障で、鎌田裕也をインフルエンザで欠いてファイナルラウンドに突入。さらにベスト8でアルバルク東京を撃破した後で、藤井祐眞もインフルエンザで離脱する。そんな状況で準決勝では宇都宮ブレックスを圧倒し、決勝でも接戦を演じた。この戦いぶりを、当事者である指揮官はどのように振り返るのか。リーグがオールスターで盛り上がる1月18日、佐藤賢次ヘッドコーチに話を聞いた。
「優勝したかったですが、やるべきことはやれた」
──天皇杯から1週間が経ちましたが、準優勝という結果をどのように受け止めていますか。
夏にチームが始動した時から天皇杯を『前半戦のチャンピオンシップ』だと設定し、そこでどういうパフォーマンスを出せるのかを見据えてきました。3試合とも持てるものは全部出せたし、多くの方かから「勇気や感動をもらえた」という声をいただきました。それは我々の存在意義なので良かったです。反省点はいっぱいありますし、優勝したかったですが、やるべきことはやれたという感じです。
──反省点の中でも特に印象に残っているものはありますか。
大会中の戦いに関して完全燃焼に近い思いはあります。ただ、SR渋谷さんのあのプレッシャーに対して、ガードの枚数が少ない中でも対応策がちょっと足りなかった。前から当たられるのが分かっていて、実際にそれをやってこられてターンオーバーが出てしまったのは準備不足でした。とはいえ、前日18時スタートで決勝が14時開始だったので、回復させることも必要です。そこの塩梅が天皇杯は難しく、やってみないと分からなかったところです。
その一方で、やはり大会中に4人を欠いたことは組織としての問題です。特にインフルエンザが出たというのは現場の管理をしている自分の責任が大きい。戦力を揃えて戦えなかったのは大会に入る前のチーム作りにおいての後悔であり、やりきれない思いがあります。
前にも言いましたが、一つひとつの勝ちを目指す自分と、年間プログラムを遂行できているかを遠目から見て確認している自分がいます、目の前の試合の勝利を目指すところについてはやりきれた。ただ、年間プログラムを進めていく部分においては自分の力不足を痛感しています。
──これまでのアシスタントコーチからヘッドコーチへと立場が代わって、負けた悔しさも違うものですか。
全然違います。特に悔しかったのは、試合が終わった瞬間、表彰式を脇で眺めている時、全部が終わってロッカールームでみんなに話している時です。できることはやりきれた思いはある中で、それぞれの選手にあの一つのシュートを決めきれなかった、一つのディフェンスを守りきれなかった、一つのリバウンドを取りきれなかったという悔しさがありました。
自分も同点を狙った最後の3ポイントシュートでもっと良いプレーを指示できたのではないか、そもそも練習で違う準備ができたのではないか、終盤に二度三度と3ポイントシュートをオープンで打ったのに決められなかったですが、それは試合途中にあと少しでも休ませていたら変わったのではないか……。そういった思いがいろいろと湧き上がって、表彰式をまともに見られませんでした。
「逃げずに向き合って反省して前に進む」
──あの短期間でここまで主力が離脱するのはかなり異例です。率直にどういう気持ちでしたか。
選手には言わなかったですけど、アーリーカップの時もJ(ジョーダン・ヒース)がいなかったですし、自分は一発勝負に運がないんじゃないかと思うこともありました。厄年なので、2月になったら厄払いに行きます(笑)。
ただ、ケガ人やインフルエンザが続いたのをアクシデントととらえるか、何か自分たちに反省できる部分があったと受け止めるのでは全く違ってきます。僕は何かがあったかもしれないと思うし、コンディショニングチームにも何か要因があるかもしれないので探してくださいとオーダーを出してレポートを作ってもらいました。
アクシデントだから仕方がないよ、で終わらせては前に進めない。逃げずに向き合って反省する。このチームはそうやって前に進んできています。僕は自分の采配の反省も選手に普通に言いますし、そうやってなぜ負けたのかを共有し、課題を乗り越えてきました。今回のケガとインフルエンザにも向き合い組織として力をつけていかないといけません。
──天皇杯では選手の起用法を変えてきました。離脱した選手たちがいたにせよ、リーグ戦と比べるとプレータイムのシェアをしなかったのは、勝つために当然の選択なのか、悩んだ末の決定なのか、どちらでしたか。
大会中は勝つことだけを考えて采配をしていました。タイムシェアのことは頭になかったです。とにかくここは結果を出す場所と思っていました。優勝まで3試合という考えではなく、目の前の試合に集中する以外に手はありませんでした。A東京との試合で、青木(保憲)、林(翔太郎)、増田(啓介)を途中で出すことにならなかったのは、彼らの信頼と力がまだそこに至っていなかったからです。
ただ、A東京戦が終わってまだ祐眞の欠場が分からない段階でも、青木には帰りのバスに乗る前に「今日は使うタイミングがなかったけど、絶対にこれからどこかであるから準備しておけ」と言いました。3人とも全く使わないという頭でいたわけではなく、試合の流れの中でタイミングがありませんでした。タイムシェアをするために試合をするわけではなく、そのレベルに到達してなければ起用できない。リーグ戦は我慢して使って経験させたりすることも必要だと思います。そこのバランスは難しいですが、天皇杯は特に勝ちにこだわっていたので、ああいう起用法になりました。
決勝が終わった翌々日、全体ミーティングが終わったあと増田と林を呼んで、「悔しかったと思うけど、これが現実だから」と話をしました。2人ともオフェンスは問題ないですが、ディフェンスで連携やコミュニケーションミスが出ます。試合に出ていた8人のような即座に連携ができる判断スピードがまだない。ちょっとしたズレから、相手に試合の流れを変える大きな3ポイントシュートを打たれる可能性があります。それがあるうちは、天皇杯のような大一番ではなかなか出せない。後半戦、それを身に着けるために何が必要かを考えてほしい。絶対にチャンスはあるからと話をして、2人ともより目の色を変えて頑張ってくれています。
──8人ローテーションでも佐藤コーチの求める強度のプレーはできたと思いますか。
ベースとなる強度は、特にビッグマンのところでたくさん我慢しました。前から行けていなかったり、戻りきれていない。シーズン前に作ったロードマップで言えば想定外でした。本来イメージしていたのは天皇杯までに全員がベースを引き上げる。誰が出ても試合の流れ、強度が変わらない状態を作りたかったですが、そこには至りませんでした。ケガ人が出たことで、若い選手をよりローテーションに入れづらくなってしまい、それを天皇杯までひきずったのは自分の反省点です。
──天皇杯直前の試合となった富山グラウジーズ戦、大敗している第4クォーターで若手選手を起用しました。あそこは天皇杯に向けたテストになった側面はありましたか。
あそこでいろいろな連携ミス、コミュニケーションミスが出てしまったことがA東京戦で使う、使わないの判断に左右した部分はもちろんあります。あのメンバーで点差を一気に詰める。そういう時間を作れていたら天皇杯の起用法は変わっていたかもしれません。
「チャンピオンシップで勝ち抜く力を身に着ける」
──天皇杯で得られた収穫の最たるものを教えてください。
全員が一つの目標に向かって同じ方向を向いてやることで、苦しい時に耐えられるし、勢いをつかんだ時に爆発させる力がどれだけのものになるのかを知ることができました。それが見ている人たちの心を動かす原動力にもなります。それがあらためて分かったのが収穫でした。
──ここからシーズンも後半戦に突入します。どんなテーマを持って戦っていくことになりますか。
天皇杯までは、11月のバイウィークも休まずハードに練習するなど、シーズン中も強度を落とさないでトレーニングをしてきました。相手のスタイルに対してどうこうするのではなく、自分たちのベースを上げることに集中していました。後半戦は、第1クォーターの入り方、前半の終わり方など小さなことにもこだわります。ベースがありつつ、相手にあわせた戦い方もしてチャンピオンシップで勝ち抜く力を身に着ける。そこはこれまでの前半戦と違う設定にしています。
ただ、今のようにニック(ファジーカス)とJが40分近く出る状態が続いて、チャンピオンシップに良い状態で臨めるのか。そこは、もう1回底上げして全員バスケを取り戻さないといけない。それを後半戦の目標にしていきたいです。選手の起用については、ミスをしたら下を向いたり、シュートが1本入らなかったら次のチャンスで打たない、そういうチームプレーを差し置いて自分を守ってしまうような選手を、コートに立たせないことが一番大事です。そして、今はこれからの対戦相手というより、今週から2週続けて水、金、土の試合が続くタフな日程をどう乗り越えていくのかを考えていかないといけない。目の前の試合を乗り切ることにいっぱいで余裕はないです。
──この過密日程を乗り切るため、それこそNBAのチームがやるような主力を温存させるロードマネージメントも考えたりすることはありますか。
やりたいと思うこともありますが、いろいろな人に理解してもらわないといけませんし、自分一人の力で決断できるものでもないと思います。そういう時のためにも北(卓也)GMがいるので相談します(笑)。
──辻直人選手のポイントガード起用は大きな発見となりました。篠山竜青選手がいずれ戻って来た時にどうするか、考えていることはありますか。
辻のポイントガードはうまく生かしたいです。篠山、藤井、青木とはそれぞれ違う。辻らしいポイントガードが天皇杯、この前の三遠戦でも見られたので、それをどう生かすかは僕の力にかかってくる。ここで得たものをケガ人が戻ってきた時になくそうとは思わないです。得たものをうまく使ってやろうくらいの気持ちです。
──それでは最後に、ファンの方へのメッセージをお願いします。
天皇杯でも、声援の大きさに「ここはとどろきアリーナか」と感じました。お客さんが増えているのは本当にありがたいです。だからこそ試合で満足感を与えないといけない。バスケットの楽しさを感じてもらわないといけない。それは常に感じています。
ホームで不甲斐ない試合をすることもありますが、ファンの皆さんがどんな時も支えてくれていることが、チームの力になっていることは間違いありません。自分たちはその声援に応える。見る人の心を動かせる試合を目指して戦う。そして、みんなが成長していって最後にリーグ優勝することが理想です。
天皇杯を終えて自信は深まりました。優勝候補として名前を挙げてもらえる土台には、この大会で到達できたと思います。あとは、最後の大一番で勝つための経験をどれだけ積み重ねられるか。チャンピオンシップの切符を獲得し、そこを勝ち切るための答えを見つけていきたいです。引き続き応援よろしくお願いします。