文=丸山素行 写真=B.LEAGUE

高い期待に反して『低空飛行』を続ける栃木

栃木ブレックスはアルバルク東京に2連敗を喫し、千葉ジェッツ戦から4連敗中と苦戦が続いている。チームの顔ぶれが変わり昨シーズンと比較する意味はなくても、初代王者である以上は期待値が高くなるのは当然。そして今の栃木は期待に対して『低空飛行』を続けている。

千葉との第2戦では今シーズン最少得点となる54点に封じ込まれての惨敗。栃木の信条とする粘り強さを見せることはできなかった。だがA東京戦では先行されながらも気持ちが切れることなく耐える精神的なタフさが見えた。

田臥勇太は連敗の中でも収穫を語る。「最後まで粘った試合ではありましたが、東京がしっかり決めきるところや抑えるところを40分やり続けた差かなというのはあります。そういうのがしっかりできてくれば、絶対に勝つチャンスは生まれてくると思っていますので、下を向かずに、そういう細かい部分を1試合でも1日でも早くチームとして作っていけるかがポイントだと思っています」

A東京や千葉は昨シーズンと同様に優勝候補の一角として名前が挙がる。そんな強豪と戦い肌で感じたことはチームの完成度の違いだという。「自分たちがやるべくオフェンスとかバスケをみんなが分かっていて、この段階から徹底してできているというのを戦って思いました」

「自分たちはそれをまず作っていくという過程の段階なので、いかに一人ひとり意識できるかどうか」と発展途上のチームの中で共通理解が大事と強調した。

チームの可能性を信じ「楽しさを今は感じています」

栃木は現在2勝6敗で激戦の東地区で最下位に沈んでいる。それでも黒星が先行し苦しい状況のチームとは裏腹に、田臥にはどこか充実した様子が感じられた。それはチームの伸びしろへの期待であり、新たな自身の役割を見いだしていることで生まれたものだ。

「昨シーズンもみんなで成長していきましたし、今年もそれは一緒です。ただそのスピードが変わるのは仕方ないし、それを自分が受け入れた中でどうやっていけるか、そこに楽しさを今は感じています。可能性をすごく感じていますので」

「当然プロだし、勝負だし、勝たないといけない」と前置きしつつも、今のチームが持つ可能性が田臥に活力を与えている。「伸びしろのほうが感じられるんです。それをどれだけ伸ばしていけるかというのも、自分のプレーヤーとしての質という部分がまた勉強できるというか。今はどうアプローチしないといけないのかというのを、また勉強していますね」

決して楽観視しているわけではない。誰よりも成長意欲を持ち、プロフェッショナルの気概を持っているからこそ新たな挑戦に胸を躍らせているのだ。「今年は今年で去年とは違う進め方をしないといけないと思っています。今日の(安藤)誓哉もそうですけど、若いのがみんな頑張っていますので、自分もそういうのを相手にしながら、自分はどうプレーするべきかを考えてやっていますので、それはそれで楽しいです」

「アメリカだったら帰ってしまう」とファンに感謝

田臥は苦しい状況に陥った時こそファンへの感謝を忘れない。記者陣が栃木の熱狂的なファンについてのコメントを求めることは多くあるが、田臥が自らファンのことを語ることは多くない。だがこの日の彼は思い出したように自ら口を開いた。

「こうやって負けが続いていてもファンの方が一緒に最後まで戦ってくれているというのは本当にありがたいこと。ホームゲームの時は特にファンへの感謝の気持ちがいっぱいで、こういう状況だからこそ戦い続けないといけないと思います」

「アメリカだったら帰ってしまう人がいてもおかしくないと思うので、選手にとってはありがたい気持ちでいっぱいですね」と、NBAを経験し辛辣なファンの対応を知っている田臥だからこその言葉が聞けた。

苦境に立たされていることは間違いない。だがそんな状況でも田臥は新たな学びの場として、現状を楽しんでいる。そんな田臥の心が折れない限り、栃木も、それを応援するファンも不屈の精神で歩みを止めない。