文=鈴木健一郎 写真=B.LEAGUE

プレータイムをシェアし、序盤のつまづきから挽回

ともに3勝1敗と順調なスタートを切ったシーホース三河と富山グラウジーズが対戦した。

昨シーズンの同カードは三河が2戦2勝、ウイングアリーナ刈谷でのゲームとあって三河の優勢が予想されたが、立ち上がりから走ったのは富山だった。ボールプッシュ、得点、アシスト、リバウンドとフル回転する宇都直輝に牽引されて9-1のスタートダッシュ。ただ、三河はシュートタッチが悪い中で、桜木ジェイアールが巧みにファウルを誘いフリースローで立て直す。

それでも第2クォーターに入ると、オン・ザ・コート「2」の富山が再び優位に。サム・ウィラードとの同時起用でフリーになるドリュー・ヴァイニーがこの10分間で15得点を荒稼ぎ。三河は移籍後初出場の松井啓十郎が2本の3ポイントシュートを含む9得点、同じく新加入の西川貴之と村上直も良い働きを見せるが、33-34と1点のビハインドを背負って前半を折り返す。

それでも、新加入組でセカンドユニットを強化できたことで比江島慎や金丸晃輔のプレータイムをコントロールできたことが後半に生きる。攻守ともにアグレッシブさを増して立ち上がりに逆転。富山も食い下がるが、比江島のシュートが外れたところをダニエル・オルトンがダンクで押し込み、会場を盛り上げる。第3クォーター終盤にはオフェンスリバウンドからの得点、ファストブレイクが連発で出て富山を突き放し、58-51で最終クォーターへ。

代表候補に入った宇都、強気のアタックを連発

だが、富山はここから粘りを見せた。ディフェンスでは桜木のポストプレーを思い切りの良いダブルチームで封じ、第2クォーター同様にウィラードとヴァイニーが連携しつつインサイドでの得点を重ねていく。三河がタイムアウトを取るも流れは切れず、ヴァイニーの3ポイントシュート、さらには強引に切り込んだ宇都から上江田勇樹へつないで得点し、67-63と突き放した。

それでも、このタイミングで訪れたオフィシャルタイムアウトを使って三河が立て直す。橋本竜馬のケガにより狩俣昌也と村上直で回していたポイントガードを比江島に託し、比江島、松井、金丸、桜木、アイザック・バッツの5人がコートへ。バックコートがすべて得点力のある選手になったことで、富山は桜木を2人がかりでマークすることができなくなった。この采配が当たりオフェンスが活性化。桜木のバスケット・カウント、松井の3ポイントシュートで追い上げる。

富山はディフェンスで苦しむことになったが、得点ペースは落とさない。特にヴァイニーはリスタートからの攻めで三河の選手4人が待ち構えるペイントエリアに強引に仕掛け、ジャンプシュートを沈めるなど絶好調。こうしてリードチェンジを繰り返す終盤、両チームとも重要なフリースローを決められず突き放せない。比江島が、ヴァイニーがフリースローを2本とも落とす。1点差で迎えた残り8秒には、昨シーズンのフリースロー成功率でリーグトップの90.8%を誇る金丸も1本を落とし、富山に可能性を残してしまう。

相変わらず『桜木のチーム』だがバージョンアップ

残り7秒で2点差。富山はラストプレーを宇都に託した。トップスピードで正面から切り込んだ宇都はスピンムーブで三河のディフェンスをかいくぐりシュートを放つ。決まれば同点のシュートだったが、この動きに付いていった比江島のブロックショットが炸裂。リバウンドもバッツがきっちりと押さえ、これで三河が大接戦を制した。

惜しくも敗れた富山だが、強豪の三河をここまで苦しめられたのは収穫だ。ヘッドコーチのミオドラグ・ライコビッチは「リーグでトップのチームとの差も縮められている。勝てるチャンスがあったのに逃したことは残念だが、チームが成長することが一番大事。この調子でもっと上を目指していきたい」と語る。

その富山以上に三河にとっては収穫の大きい試合だった。開幕から良い仕事をしている村上、西川に続き、松井も素晴らしいデビューを飾った。比江島のポイントガード起用も貴重なオプションとなりそうだ。桜木は26得点10リバウンド6アシストとトリプル・ダブル級の活躍。40歳の桜木のプレータイムが34分と一番長いのは課題だが、オルトンがチームに馴染めば多少なりとも改善されるだろうし、桜木自身がそれだけ動けているのは決して悪いことではない。

三河はこれで4連勝。トランジションの意識を高める新たなスタイル、新加入選手の活躍が目立つが、同時にこれまで持っていたセットオフェンスの強さ、勝負どころで抜群の強さを見せる比江島や金丸の個人技など、もともとの強みが薄れていない。桜木のポストプレーがすべての起点となる『桜木のチーム』は相変わらずだが、それでいてバージョンアップしている三河の充実ぶりが目立つ一戦となった。