辻直人

川崎ブレイブサンダースの辻直人は、昨シーズンのレギュラーシーズン最終節に肩を脱臼。チャンピオンシップは強行出場したものの、もともと以前から痛めていた箇所の再発であり、日本代表活動へ未練を残しながらも手術を決断した。オフはすべてリハビリに費やし、今シーズン開幕には間に合ったが、それでも序盤戦は感覚を確かめながらの『試運転』のようなもの。それでも開幕から2カ月間、コンスタントに出場を重ねたことで、ようやく本来のプレーを取り戻しつつあるし、表情にも明るさが戻ってきた。新体制となったチームは序盤から好調に勝ち星を伸ばしつつあるが、ノッた時に辻が次々と決める3ポイントシュートの爆発力は不可欠だ。

「3ポイントシュートを打つのが自分のスタイル」

──シーズン開幕戦で復帰して、完全復活とは言えないまでもコンスタントにプレーできていますし、何よりチームは新体制にもかかわらず好調です。辻選手の感覚はどんなものですか?

よくここまで来れたな、というのはあります。「どうなっていくんだろう?」という気持ちも正直あったのですが、この中断期間に入る前の試合で良い内容で終われたのが良かったです。

新しいチームになって、自分の役割がどうあるべきか分からないところもありました。それはプレーにも出ていたし、シュートの確率にも出ていたと思います。今シーズンはディフェンスでより激しく行くことを求められていて、今までとは違う形でシーズンに入りました。ただ、やっていく中で思ったのは、自分の役割そのものは大きくは変わっていないし、ディフェンスを求められることは自分にとって新たなプラスにもなるということです。オフェンス面では変わらない、そこにディフェンスをプラスするところですね。

──川崎はこれまで以上に攻守にハードにプレーするようになりました。今まではコンディションに問題がなければ1試合30分出るのが当たり前でしたが、今の負荷だと消耗度が違いますか?

違いますね。今までからは考えられないプレータイムですけど、疲労感は今までの30分にも劣らない、それよりもキツいこともあります。今は16分、17分でもキツいですから。

──新しいバスケットに自分をどう合わせるか。どう考えて取り組んでいますか?

開幕した時はとりあえずチームのシステムに慣れて、ディフェンスの部分で穴にならないことを意識していましたが、今は自分の武器である3ポイントシュートを打っていくのが自分のスタイルだと気づいたので、求められていることをこなしつつオフェンスで貢献していかないといけない。それが自分らしいスタイルだと思います。

辻直人

「決めるべきところでは自分が決めないといけない」

──今シーズン、辻選手が3ポイントシュートを決めた数に応じて、病院や児童養護施設へ寄付する活動をスタートさせました。3ポイントシュートへのこだわりはここからも感じます。

やっぱりプレーしていて自分が一番高ぶるシーンは3ポイントシュートを決めた時だし、それは見て喜んでくれる人も同じだと思います。『スリーピース バスケットボールを通じて、社会貢献を!』という活動を立ち上げた時には、僕は手術してどれぐらいのレベルで復帰できるか分からなかったんですけど、僕自身も悩んだ時に後押ししてもらうきっかけというか、この活動が頑張る理由の一つになればと思いました。

──そういう意識はBリーグになって、環境の変化に伴って変わったものですか?

そう思います。プロになって会社に守られる立場ではなくなりバスケットで生きていくとなった時に、見える景色が変わった、考える領域が変わったというか。自分がバスケットに対して何ができるのかを考える中で、実際に対象となる子どもに出会ったことがきっかけになりました。

僕は子どもたちの後押しをしたいし、そういうきっかけを与えてあげたくてこの活動を始めたのですが、この活動によって僕が刺激を受ける部分もすごく大きいと感じています。この活動がなければ、シュートが決まらなくても「コンディションが良くなれば入るだろう」ぐらいに思うし、3本とか4本決めても「やっと入った」という感じだけだったと思います。それが今は1本しか決まらない試合ではちょっと申し訳ないし、逆に3本か4本決めればすごくうれしくなります。1本のシュートに安心よりも喜びの気持ちが出てくるのは、この活動のおかげです。

──今シーズンはニック・ファジーカス選手を含めビッグマンもどんどん3ポイントシュートを打ちます。シューターの辻選手としては刺激になるか、ちょっと焦るのか、どちらですか?

両方じゃないですか(笑)。ビッグマンがずっと打っているので、それはチームとしてもすごい武器だと思いますけど、自分からしたら「このままじゃ立場がないな」とも思いますし(笑)。3ポイントシュートについては胸を張って、プライドを持ってやらないといけないので、決めるべきところでは自分が決めないといけない、と思っています。

──年末まで過密スケジュールで試合が続き、年が明けたら天皇杯です。

僕にとってこの10月、11月はすごく大きな経験で、バスケット人生を左右するんじゃないかと思うぐらいのものでした。今はそれを乗り越えられた実感があって、また違った自分を見せられる自信があります。その自信を持ってプレーすることで、またさらに成長する12月にしたいです。まずは天皇杯のファイナルに向けてピークを持っていきたいと思います。