文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

メンタルの弱さを指摘されてきたチームが川崎を撃破

9月29日、名古屋ダイヤモンドドルフィンズはシーズン開幕戦を白星で飾った。この夏にシーホース三河から加入した柏木真介は「勝てたので素直に良かった」とホッとした表情を浮かべた。

昨シーズンにリーグトップの得点力を誇った川崎ブレイブサンダースを76得点に抑え、残り3秒でジャスティン・バーレルが決勝シュートを沈めての77-76での逆転勝利。もちろん、開幕戦での勝利ということも大きい。だがそれ以上に、勝負どころで脆さを見せるメンタルの弱さを指摘されてきたチームが、接戦での強さに定評のある川崎に競り勝ったことに意味がある。

「内容どうこうより、結果として良かった」と言う柏木だが「内容の部分ではまだまだ修正しないといけない」と指摘も忘れない。前半に最高のパフォーマンスを見せながら後半に逆転を許したこと。本来、もっと巧みな試合運びができたはずだ。第3クォーター途中にジャスティン・バーレルが審判のジャッジに怒ってテクニカルファウルを宣告され、その直後にベンチテクニカルも取られた。名古屋Dの側から『付け入る隙』を与えたのは間違いない。

「あそこは一つのポイントでした」と柏木は言う。「あれが去年までの悪いところなんだと感じました。オフェンスでダメだったらディフェンスで耐えないといけない。3ポイントでやられてはいけない時間帯でやられている。そういう細かい部分を修正しないといけないです」

「流れが向こうに行ったので、これは我慢だなと」

バーレルがテクニカルファウルを取られた時にコート上にいた柏木は、相手に試合の流れが傾くのを肌で感じていた。「案の定、流れが向こうに行ったので、これは我慢だなと。オフェンスがうまくいかなくても、ディフェンスでやられても、とにかく我慢するしかない。それはディフェンスリバウンドをしっかり取ること、オフェンスでは早打ちをしないこと。『流れが来るまで自分たちのやるべきことをしっかりやらないといけない』とずっと言っていました」

結果的に、川崎に流れが行くのは止められず、第4クォーター途中で一度は逆転を許している。それでも、柏木の呼びかけは効いていた。「逆転されてから粘ることができた。そこで流れを一回立ち切れたのが良かったです」

試合終盤は混戦になり、最後はコートに戻って来たバーレルが得点を重ねて競り勝った。「結果として最後ああやって我慢をして、バーレルの逆転シュートにつながった。それは若いチームにとってはプラス材料です」と勝ち切ったことを評価する柏木だが、手放しで喜びはしない。

「試合後に若い選手はスタッツをいろいろ気にしていましたが、僕はそれより『なぜ今日ああいうゲームになったのか』が気になっていました。バーレルは最後に良いシュートを決めましたけど、その前に流れを悪くしたのはあいつですから、そこは説教しようと思います。ただ最後に決めたのはあいつで、あいつが決めないといけないので。そこはしっかりとフォローしないといけないなと思います」

「たくさん失敗することが経験につながってきます」

若さのメリットとデメリットが共存するのが名古屋Dというチームだが、柏木は自分が来たからにはそれを変えていくつもりでいる。「昨シーズンの結果から見ても、勢いのあるチームだけど勢いがなくなった時に崩れる。そこは弱点で、変えなければいけないです。個人のバスケットをしているので、チームという意識でやらなきゃいけない。そういう部分も教えていきたいと名古屋に来て感じています」

ただ、年齢や経験の差はあるにしても、あくまでお互いプロ選手。柏木は自らのスタンスをこう説明する。「1から10まで言うつもりもないです。そこはバランスを見ながら。言うところは言うし、言わないところはしっかり自分たちで考えて直させるように仕向けてあげることも大事だと思います」

「まずは教えてやらせる。それで失敗を繰り返すことで覚えていく。たくさん失敗することが経験につながってきます。僕もやっぱりたくさん失敗をしています。そこはアドバイスしながら、まずはやらせる。なぜ負けたのかを自分たちで考えて、そこから次にステップアップしていく。そこが大事だと思います」

「今はバスケットをすごく楽しんでいます」

もっとも、指導者としてのキャリアを意識し始めたというわけではない。あくまで現役選手であり、目的は勝つこと。そのためのアプローチの一つとして若手を育てる手助けをしようとしている。かつてケガをした箇所も調子が良く、ここ最近ではコンディションが一番良いという。

「選手である以上、優勝したいのは当たり前のこと。僕も最終目標としては優勝したいと思っています。ただ、そんなに甘くないのも分かっていて、一つひとつ目標をクリアしていかないと簡単にはいきません。まずは今日のようなゲームをしっかり勝ち切る力をつけること。あとはチームとしてどれだけ成長していくかが大事です。今日勝って、明日から連敗をしたら意味がないですし。今日は勝ちましたけど内容はまだまだ直さないといけない部分があるので、そこは反省を明日の試合で生かして、それでまた勝って違う反省が出てきたら一番良いですよね。それを繰り返していきたいです」

三河から名古屋Dへと移籍したことを「一言で言ったら大変です」と柏木は言う。「ただ、違う意味で名古屋に来て楽しさがすごくあります。これから強くなっていくチームだと感じていて、そこで何をすれば勝てるのかはまだ分かっていないので、それを教えながら強くなっていく過程に自分がいることにやりがいを感じます。いろんなことを含めて、今はバスケットをすごく楽しんでいます」

柏木真介、35歳。年齢的には大ベテランの域にあるが、若いチームにすぐさま馴染み、その気持ちは10歳ほど若返ったようだ。ただ、百戦錬磨の経験はそのまま。名古屋Dが秘めたポテンシャルを引き出すカギとなるべく、まずは正しい一歩を踏み出した。