トム・ホーバス

「短期間で良いチームになって勝てた」

バスケットボール女子日本代表は、マレーシアで開催された『東京オリンピック プレクオリファイングトーナメント』を3戦全勝で終えて帰国した。今回は髙田真希、町田瑠唯、長岡萌映子と複数の主力が不参加。その中でも前回アジアカップをWNBAのシーズン中で欠場していた世界屈指のセンター、エリベゼス・キャンベージが参加したオーストラリア代表に82-69で勝利と大きなインパクトを世界に与えた。

指揮官トム・ホーバスは、オーストラリア戦について「とても良かった。特に第1クォーターの8本の3ポイントシュートは、すごく速いペースから決めることができた。NBAでもあのペースで入ることはない」と選手たちを称える。

試合の行方に影響を与えたテクニカルファウルによるキャンベージの退場についても、タフな守備を遂行した結果だと振り返る。「密着してディフェンスすることで、彼女をイライラさせる。それはやりかったことです。渡嘉敷(来夢)がファウルトラブルでベンチに下がった時、(オコエ)桃仁花がよくローポストでのディフェンスを頑張ってくれました」

「今回、キャンベージが入ったオーストラリアはAチーム。ウチはAチームではなく、AとBの中間のチーム。相手はアジアカップの雪辱を果たそうと勝利にハングリーだったし、この負けはかなり悔しいと思う」

トム・ホーバス

吉田の復活とともに収穫となった、宮下希保の活躍

すでに東京オリンピックへの出場を決めている日本にとって、この一連の予選は一般的に勝利へのモチベーションを保つのが難しい。しかし、そういった心配は今の日本にとって無用だ。「みんな常に勝利にハングリー。そうでないと試合に出られないからね」と指揮官は言う。

今大会で得た収穫をこう続ける。「短い準備期間で良いチームになって勝てたのはポジティブなこと。新しいメンバーの吉田(亜沙美)と宮下(希保)が良い仕事をしてくれたのも重要です」

指揮官が言及するように、吉田の復活とともに目立ったのは、フル代表では初の国際大会で躍動した宮下希保だ。オーストラリア戦で先発出場すると、35分出場で3ポイントシュート4本中3本成功を含む15得点5リバウンド3アシストの活躍だった。

ホーバスは、宮下について「去年から注目していたけど、ケガもあって長い間トライアウトできなかった。大事なところでも物怖じせずに3ポイントシュートを打って決める。コンタクトに強くてリバウンドを思ったより取れるし、細かいこともしっかりやってくれる。すごく面白い選手」と評する。

もともと彼女の実力は買っており、今回の大暴れはサプライズではなかった。ただ、実戦でより力を発揮する勝負強さはうれしい誤算だった。「彼女のサプライズは、練習より試合の方がシュートが入ること。練習でもまあまあ入るけど、試合になるともっと入ります。英語で言うと『Gamer』、それがすごく大きいです」

トム・ホーバス

「早くメンバーを決めて、良いチームを作りたい」

オリンピック出場国が確定する来年2月の最終予選には日本も参加する。世界各地の16カ国が4つのグループに別れ、すでに出場を決めている日本とアメリカの入ったグループの上位2チーム、残りの2つのグループは上位3チームが東京への切符を手にする。

日本とアメリカ以外の14カ国にとっては、まさに天国と地獄を分ける大一番となるが、「他の国は、ウチと同じグループに入りたくない。それは間違いないです(笑)」と自信を見せる。

以前から公言している金メダルへの思いにブレは全くない。おりしも今月に入ってアメリカ代表が、学生ランキング1位とはいえ格下のオレゴン大と学生相手に敗れた。女王も完全無欠ではなく、「速くて3ポイントシュートも打てるウチのバスケは、他の国がやっていないもの。勝てるチャンスはあります」と指揮官は断言する。

ただ、まだまだレベルアップが必要なのも事実だ。特に2番、3番で宮下という新星が登場しただけに、渡嘉敷、髙田、長岡に続くインサイドプレーヤーの台頭が待たれる。「今、ベンチから出場する4番、5番のポジションが空いているけど、『私がそのポジションを取ります!』と若手の激しい競争になっていないのがちょっと残念。ハングリーな誰かがステップアップしてほしい」

マレーシアでは、日本がさらにレベルアップしたことを世界のライバルに証明できたと思うか? その問いにホーバスは「そうですね。これからがもっと楽しみになりました」と満面の笑みを見せた。そして2月の最終予選にはこう意気込んでいる。

「とりあえず早くメンバーを決めて、良いチームを作りたい。大きな変更をすることはない。細かいところを修正していきながら少しずつレベルアップしていきたい」

日本のスピードと3ポイントシュート攻勢は、一度スイッチが入れば分かっていても止められない。そして日本の真似をしたくとも、日本ほどのトランジションの速さを出すことはできない。まさに世界に誇るオンリーワンの日本スタイルを着実に作り上げてきている指揮官が、2月の最終予選でどんなチームを見せてくれるのか、早くも待ち遠しい。