文=鈴木健一郎 写真=野口岳彦

Bリーグ開幕を1週間後に控え、各チームとも準備に余念がない。千葉ジェッツは昨シーズン、天皇杯を制してリーグでも台風の目となり、NBLラストシーズンの8位から大きな飛躍を遂げた。大野篤史ヘッドコーチが掲げ、富樫勇樹を中心に実践する『堅守から走るバスケット』を新シーズンも継続。スタイルは変えないまま、何人かの選手を入れ替えてレベルアップを図る。そのための編成がどのような考えの下で行われたのか、島田慎二代表に話を聞いた。

「Bリーグになり『観たくて観に来る人』が増えている」

──今夏の編成がテーマですが、その前に前期の決算報告が発表されているので、経営の数字面について聞かせてください。売上高が9億1600万、経常利益が3800万、当期利益も3800万。この数字に対する満足感はどれぐらいありますか?

もちろん満足はしていませんが、去年のウチの実力から言えば「その程度なのだろう」と受け止めています。前年にNBLで初めて売上6億円を達成しており、Bリーグのファーストイヤーの売上として約7億5000万円の予算を設定しました。それを大きく上振ることができたのは会社としては良かったですが。Bリーグ開幕効果をもう少しネガティブにみていたので、予想以上の追い風がありました。当然、今期はもっと上を狙っていきます。

千葉ジェッツ公式サイト「IR情報」より抜粋

──観客数が伸びたことに加え、チケット単価が前年の1843円から2081円に上がりました。

前年比で圧倒的に伸びたのはチケットの売上です。去年は10万人を達成した観客数を、今回は13万5000人まで伸ばせました。観客数はもちろん、有料率も上がってチケット売上が増えています。『観たくて観に来る人』が増えているということです。それまでは地元の団体やバスケット協会の子供たちに値引き販売することもありましたが、ネット上などでチケットを定価で購入いただく人が増えたということです。

そうなるとMD(マーチャンダイジング)も伸びます。去年の2600万円から6100万円へと大きく伸びました。やっぱりチームが好調だったり会場の演出にこだわったりしたこともあってファンが増えた。お金を使ってくれるコアなファンが増えたことがチケット売上とMDが伸びた大きな要因です。スポンサー収入も伸びていますが、スポンサーは最初からこれぐらいが目標だったので、当初の想定より大きく上振ることができたのはチケットとMDですね。

──前年比の伸び率ではチケットが152%なのに対し、MDは237%と、チケットより大幅に伸びています。NBLラストシーズンの時点でもアリーナでは様々なグッズが販売されていたわけで、これだけの伸びはどうやって実現できたのでしょう。

一番は新商品を投入したことです。bjリーグに参入した時点で大量に仕入れていたグッズが在庫になっていて、新しいものを投入しづらかった。NBLラストシーズンにようやく一掃できて、このタイミングで新しいものを大量投入し始めました。だから目新しさがあったのと、富樫(勇樹)の存在だったり、チームの好調だったり、昔のファンも新しいファンも関係なくグッズを手に取ってくれました。担当者も魅力的な売り場を作ろうとかなり努力してくれました。

「価格を上げても『来たい』と思ってもらう状況を作る」

──そして締めは『その他売上』の約1億1000万円。天皇杯の賞金やチャンピオンシップ出場ボーナス、分配金など、チームが結果を出したことでの上積みがありました。リーグで優勝できていれば、もっと大きい金額が入って来ていましたね。

リーグ優勝した栃木はウチより売上が1億円強でしたが、先日の朝礼で栃木ブレックスと千葉の決算書を書き出して、「どこが勝って、どこが負けて」と分析してスタッフに説明しました。チャンピオンシップをホームで開催することのビジネス的なインパクトは大きいです。4試合開催されればチケット、追加スポンサー、グッズの販売などを加えると最低でも7000万円は稼ぎ出せると思います。優勝するようなことがあれば、さらに賞金や記念グッズなども含めると更に1億近くに達するだろうと試算しています。

栃木は初代チャンピオンという栄光だけでなくビジネス的にも東地区1位、チャンピオンシップのホームゲーム4試合開催、優勝というすべてを手にした、ビジネス上でも最高の状況でした。そういう意味ではレギュラーシーズンでの経営数値としては互角なんだと思います。しかし、それだけチーム成績を上げることがビジネス上でも影響が大きいと言える以上、強化というのは非常に大切であると強く認識しています。

──コート上のバスケットボールだけでなく、経営面でもライバルだというのは面白いですね。栃木と比べた場合の強みと弱みはどこでしょう。

スポンサーはもともと千葉の強みなので、かなり上回っています。チケットの集客も総売上も勝っています。負けているのはチケット単価ですよね。それは千葉が5000人から7000人の会場を満席にする戦略で、キャパシティによる価格設定の問題です。千葉よりも試合会場のサイズが小さい分、しっかりした価格設定でも販売できるかどうか。そんなテーマの中、会場を埋めつくせる栃木さんはさすがだと思います。その差がチケット単価に影響しています。

我々も今後は会場が大きくても単価を上げる必要があって、そのためにはチームの魅力もエンタテインメントもホスピタリティも、その質を総じて上げていくことで、価格を上げても「来たい」と思ってもらう状況を作るのが一番大事な戦略です。

あとはスクールですね。ビジネスモデルが違うので仕方ない部分はありますが、バスケ王国の船橋がホームタウンであることを考えると、アカデミー事業には成長の余地がまだあるはずです。

攻めの経営を続けるも「優勝する前提での予算組みはしない」

──売上は7億5000万円の予定が9億1000万円になりましたが、結果的に利益としては3800万が残っただけ。これは『攻めの投資』に回した結果ですか?

そうですね、未来への投資をしています。利益がなさすぎると「経営は大丈夫か?」と言われるし、利益が多すぎると「応援しなくても大丈夫かな」と思われてしまう。ただ単に利益を出そうと思ったら、ある程度は出せると思いますが、それよりはチームやフロントスタッフの人件費だったり演出だったり、攻めの投資をすべきだと思い、そこはガンガン行っています。

──7月から始まっている今期の売上目標はどう設定していますか?

10億3000万円です。それはチームがチャンピオンシップに出場しない、賞金は0円と、チームにポジティブ要素が何もなくても達成しなければいけない目標です。当然、優勝するだとか上位に進出する前提での予算組みはしないので。それでも11億ぐらいは普通に行くんじゃないかと見ています。ここにチーム成績が良かったらポジティブ要因が上積みされていきます。優勝するとなれば13億円は売り上げるつもりです。

──売上の44%を占めるスポンサー収入(約4億円)と、30%を占めるチケット収入(約2億8000万円)。この2つを今後どう伸ばしていく想定ですか?

船橋アリーナと千葉ポートアリーナでやっている以上、毎回満員に持っていったとして平均入場者数は約5000人です。チケットの平均単価が3000円になって、それでも買いたいという人がたくさんいる状態を作れたとしたら、1試合1500万×30試合で4億5000万円。スポンサー収入も多分7億円ぐらいまでは伸ばせると思うんです。そうするとどちらも1.5倍ぐらい。今のキャパシティだと、企業努力として頑張って15億円という規模でしょうね。

ただ、15億円規模というのは今のバスケ界の延長線上の「2、3年後」の青写真です。あとはバスケ界の変化がどうなるか。サッカーのように莫大な放映権が入ってきて、リーグからクラブへの配分金が大幅増になるとかBリーグ全体の価値向上による新たな収入源が入ってくれば話は変わります。その時は18億~20億に達するクラブが出てくるのではないでしょうか。

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