文・写真=鈴木栄一

『育成の重要性』を常々語る北ヘッドコーチの名采配

今オフ、川崎ブレイブサンダースの北卓也ヘッドコーチは、「より育成をしっかりやっていきたい」との発言を様々な場面でしていた。その育成とは、選手だけでなくコーチ陣、スタッフを含めたチーム全体を指している。この方針を具現化させた一つが、今回のアーリーカップで佐藤賢次アシスタントコーチが実質的なヘッドコーチとして采配を振るったことだ。

「NBAのサマーリーグで、各チームのアシスタントコーチが指揮を執るのを見て、これはいいなと思いました」という北ヘッドコーチの考えから、7月の時点で佐藤はアーリーカップで指揮を任されることを伝えられていた。分析能力に定評があり、日本代表のアシスタンコーチも務める佐藤が、ヘッドコーチとしてどんな手腕を見せるのかに興味があった。

初戦のアルバルク東京戦は終了間際に勝ち越しを許す1点差の惜敗。2試合目の栃木ブレックス戦に勝利しての1勝1敗。大会直前に辻直人、小澤智将が負傷して欠場。そしてアーリーカップ初戦のアルバルク東京戦で、鎌田裕也が出場して1分もたたない内に鼻骨骨折での負傷退場というアクシデントがあった中で、無難にヘッドコーチ業をこなしたと言える。

「初めてであり、とにかく選手にコート上でエネルギーを出してもらいたいと思っていました。やっている内容自体は北さんのときと全く変わらないです。自分自身への試合についての準備は全く違いました。ゲームプランも自分で作らせてもらうなど、全部やらせてもらいました」

こうして佐藤はチームの指揮を執った。大会を終えて、2試合をこう振り返る。

「A東京戦の試合中は結構、集中できていたと思います。ただ、終盤は相手に追い上げられてしまい、自分の経験のなさがルカ(パヴィチェヴィッチ)コーチの経験にやられたと正直に思いました。A東京戦の方が初戦ということもあり、最初からエナジーが出せて自分のプラン通りにいきました。栃木戦は試合の感覚がナイトゲームからデーゲームとなったこと。(鎌田の負傷で)選手が9人になったこともあり、疲労との兼ね合いも考えなければいけなかったところで難しい部分はありました」

「気付くことのできるレベルがこの2試合で上がりました」

様々なプランを用意していた中で、鎌田のケガなどのアクシデントに即時対応しなければならなかったことに「これが試合か、という感じでした。早めにファウルを2つする選手もいましたし、そういう事態にもベンチで臨機応変に考えていかないといけないと思いました」と続けている。

それでも選手たちのパフォーマンスについては「オフの成果はみんなコートでしっかり表現してくれ、よくやってくれました」と評価している。

プレシーズンゲームとはいえ、初めてのヘッドコーチ経験について「本当に楽しかったです」と佐藤は言う。そして「全部が良い経験でした。選手たちは本当についてきてくれましたし、ハードに一生懸命プレーしてくれました。最後のミーティングでも言いましたが感謝しています」と充実の2日間を振り返った。

また、この経験をチームに還元していくことが自らの責務と強調する。「試合前から北さんから、今後のアシスタントとしての仕事にも必ず生きるからと。自分が気付くことのできるレベルがこの2試合で上がりました」

最後に佐藤は、シーズン開幕に向け「これからの練習試合で、戦術の導入に精度を高めていきます。ただ、開幕がゴールではなく、シーズンを通して成長していけようでなければ優勝は難しい。一歩ずつステップしていきたいです」と意気込みを語ってくれた。選手と違って成果は見えづらいが、北ヘッドコーチの名参謀として佐藤がどれだけサポートしていけるのかも、川崎の王座奪取への重要な要素となる。