文=鈴木健一郎 写真=©JBA、FIBA.com

「本大会に向けてベストコンディションに」

藤岡麻菜美は林咲希とともに2015年のユニバーシアード前回大会に参加し、この時は準決勝でアメリカに敗れるも4位という好成績を収めている。『学生のためのオリンピック』であるユニバ、2年前は筑波大在籍中だったが、今回はWリーグの『女王』JX-ENEOSサンフラワーズの一員であり、A代表でも頭角を現している。当然、藤岡にかかる期待は大きい。

インドでのアジアカップで優勝に貢献し、帰国すると休む間もなくU-24代表に合流。ハードスケジュールなのは間違いない。「キツいでしょう?」と記者に問われると藤岡は「正直キツいですけど、本大会に向けてベストコンディションに。明日がオフなのでリフレッシュします」と笑顔を見せた。

強化合宿を繰り返し、事前に入念な準備のできたアジアカップとは違い、今回はチームに合流してすぐ本大会を迎えることになる。その難しさを痛感しつつも、『バスケットボール女子 U24 4カ国対抗』で3試合の実戦経験を積むことができたのは大きく、チームメートとの連携にも手応えを感じている。「全くやったことがないわけではなく、大学でちょっとやっていて、自分のプレーをみんな少しは理解してくれていたので、ドライブに合わせてくれたり、そういうプレーは3試合目でだいぶ合わせてくれるようになりました」

2年前のユニバ準決勝以来のアメリカとの対戦。前回と比べて感じたアメリカの変化を藤岡は語る。「前に比べて一対一ばかりじゃなく、パス、パス、シュートとやってきた感じがありました。トムさん(ホーバス/A代表ヘッドコーチ)も『アメリカ人は日本のバスケを尊敬している』と言っていたので、それを目指してきているのかなと。これから勝つのが大変だなって思いました」

「やり合えた感じはありました。しかしアジアカップの時に比べて自分にキレがないと感じているので。もう一回ベストコンディションに持っていけたら、もっともっとドライブに行けたと思います」

トム・ホーバスに「とにかく怒られ続けて」飛躍

この2年間を振り返り、「とにかくトムさんに育ててもらったのが一番」と藤岡は言う。「ほとんど褒められることはなく、とにかく怒られ続けたんですけど、それがあったから大会で自分らしいプレーができました。3カ月半の合宿の中では3番手という立場でゲームではプレータイムをもらえなかったのですが、それでもいつもリュウさん(吉田亜沙美)やルイさん(町田瑠唯)とマッチアップできたのが良かったです」

代表合宿での厳しい練習と生存競争、そして『世代闘争』が藤岡のレベルアップにつながった。「(赤穂)さくらとか(馬瓜)エブリンとかタク(河村美幸)とたくさんの合わせができて、お互いコミュニケーションを取りながら先輩たちを倒すという気持ちで練習に取り組めたことが、最後ベンチから出た選手がどんどん活躍できた理由だと思います」と藤岡は言う。

若手の活躍が目立ったアジアカップにおいて、中でも藤岡のブレイクは日本の優勝に大きく寄与するだけのインパクトがあった。「初戦のフィリピンでプレータイムがもらえると思っていたので、『アジア選手権のために3カ月半キツい練習をやったのに、そこで何もできなかったら一生後悔する』って」と藤岡は振り返る。「リオで選ばれなかった悔しさがあって、絶対入りたいという思いがあったので、後はトムさんに言われている役割をとりあえず一生懸命やりました」

「下っ端」からキャプテンへ、ユニバでの活躍にも期待

「とりあえず一生懸命」の結果が、ケガをした吉田亜沙美の穴を埋める大活躍である。3番手のポイントガードとして開幕を迎えた藤岡が日本の速いバスケットを演出するキーマンとなり、最後は大会のベスト5にも選ばれた。

アジアカップのベスト5に選ばれた瞬間を「全然予想していなかったです。『自分でいいの?』って思いました」と振り返る藤岡だが、優勝を決めた直後にトム・ホーバスヘッドコーチと抱擁をかわした際、指揮官は藤岡に「君がこの大会のMVPだ」と予言していたそうだ。

結局、MVPは準優勝に終わったオーストラリアのケルゼイ・グリフィンが受賞したのだが、藤岡はベスト5に選ばれるとともに、1試合平均8.2でアシスト女王に輝いた。

2年前と今では藤岡自身が様々な経験を積み、大きく成長した。「A代表では下っ端のほうだったのに、ユニバではキャプテンとして引っ張っていかなきゃいけないという」と笑いながらも、チームを引っ張る役割に意欲的だ。A代表での『成功体験』を持つ藤岡が加わることは、U-24のチーム全体に良い刺激となっている。カテゴリーを問わず女子全体のレベルアップと底上げを促す意味で、藤岡が挑むユニバーシアードは大きな意味を持つはずだ。