鶴我隆博

先週末に開幕した茨城国体(国民体育大会)。4日に開幕する少年男子の部は、今年から高校生ではなくU16へとカテゴリーが変更されたが、昨年の優勝チームである福岡は今回も優勝候補と見なされている。昨年は福岡第一の井手口孝コーチが福岡大学附属大濠との合同チームを率いたが、今年は西福岡中学校の鶴我隆博が指揮を執る。育成を取り巻く環境の変化を、世代のトップチームを担当する指導者はどう受け止めているのか。鶴我隆博監督に話を聞いた。

U16への変更「1年生の時期がエアポケットにならない」

──今回から国体は高校生の大会ではなくU16、つまり高校2年生の早生まれ、高校1年生、そして中学生の都道府県選抜が出場する大会となりました。この変更をどう受け止めていますか。

中学校で鍛えられた選手であっても、高校1年生は体力差があったりして試合にどんどん出て活躍できる選手はそう多くありません。練習できないわけではないのですが、モチベーションも含めて1年生の時期がエアポケットにならないよう、下級生にも目標を持たせられます。

成長期ということもあり、1年違うとフィジカル面の違いは大きく、早生まれの選手が多いチームと試合をすると違いを感じます。そういう意味では中学生には厳しいですね。福岡にも強化指定選手には入っていますが、12人の登録メンバーには入ってきません。それでも県によっては次に繋げる意味で何人か中学生を入れているチームもあります。

──そんな中、今回のU16福岡はどこを目標に置き、どんなチーム作りをしていますか。

インターハイとウインターカップで圧倒的な強さを見せた福岡第一、それに肉薄する大濠のメンバーが中心ですから、絶対に優勝という意識を持っています。

選手権を戦う以上、勝つことが選手のモチベーションになるし、経験にもなります。だから試合では勝ちに行きます。ですが、練習ではいろんなことを求めます。

ただ、9月はかなり集中して練習していますが、U16日本代表の合宿に選手が行ったりと、毎日一緒に練習して約束事を浸透させられるわけではないので、チームとして複雑な約束事を多くはしたくありません。強いディフェンス、そして走る。これは大濠も第一も同じようなスタイルですので、ここを踏襲して、あとはチームのために身体を張れるフィジカルを意識しています。

早生まれの選手が4人いるので、フィジカルと経験の面は非常に大きな強みです。その一人が留学生のキエキエトピー・アリです。福岡第一ではクベマジョセフ・スティーブがいてプレータイムは限られてきますから、ここでアリは試合に出られる喜びを爆発させています。本当に献身的に身体を張って、喜んでプレーしてくれています。

鶴我隆博

世界で戦うために「身長の高い選手をどう育てるか」

──ワールドカップでの日本代表の戦いぶりを見て、U16年代の選手を指導する上で参考にすること、今後の日本代表を強くするために「こうあるべきだ」という考えはありますか?

周りが批判するのは簡単ですが、国を代表して一生懸命やってくれた選手を悪く言いたくはありません。ただ、ガードのターンオーバーが非常に多かった。大きさやフィジカルはかなり改善されたのですがターンオーバーで自滅したのは残念です。本来、日本は小さくても素早くてクレバーなガードという部分に強みがあったはずですから。

今後、国際試合で勝てるようになるには、身長の高い選手をどう育てるかを考えなければいけません。背の高い選手がペイント内で頑張ってシュートを決めることがチームの勝ちに一番繋がりますが、彼らをどうやって外でプレーさせて、育てていくか。例えば明成ではインサイドに190cm台の選手が2人か3人いるから、190cm台後半の山﨑一渉選手が外でプレーして3ポイントシュートをバンバン打てます。ただ、そんな環境はなかなかありません。アウトサイドでプレーできる素質がある選手でも、チームで一番背が高ければインサイドを任されることになります。

今回のワールドカップでも、トルコ戦では日本のガードが全く届かない位置から軽々と3ポイントシュートを決めてきました。特にヨーロッパはダーク・ノビツキーがどのチームにもいるような強みがあります。ミスマッチを怖がらずにスイッチして、身長の高い選手も外に出てディフェンスする。中でシュートブロックだけを狙っているようではとても守れないですね。

──今のU16の選手はいずれ日本代表になり、ワールドカップでこの現実に直面するかもしれません。その時に備えて今こういう指導をしてここを伸ばすべきだ、という考えはありますか?

いろんな要素があります。外に出るというのは3ポイントシュートを打つだけではありません。特に背の高い選手には、シュート力もフィジカルも、外に出てプレーすることも求めたい。これまではリバウンドを取ったらボールを預けて、ガードにお膳立てしてもらってプレーしていました。これを、自分でドリブルして切りひらいていく、リバウンドを取ってそのままプッシュできる、極論すればそのままフィニッシュまで行けるように育てる必要があります。

トップスピードでドリブルをつきながら顔を上げて周囲を見る、そういうプレーは彼らがインサイドに入った時にもプラスになります。顔が上がっていればヘルプが来たのを確認してパスをさばけるし、1対1を確認してブチ抜くこともできます。そういうスキルを今やっているポジションにかかわらず身に着けることですね。

以前はコンバートと言われましたが、中学でセンターだった選手が高校になってフォワードになって、ガードになって、ではもう間に合わない、上手く行かないと思います。ポジションに関係なく、総合的な力を早い段階からやっていくことです。

鶴我隆博

「苦しいことに背を向けず、両立していく」

──中学生から高校になって1年生の時期がエアポケットになってしまう、という話がありました。ここからもう一歩踏み込んで、この問題を解決するには何をすべきだと思いますか?

部活動には引退があるので、簡単ではありません。中体連の大会が終わったらもちろん受験がありますし、メインは新チームになります。半年以上の空白があって、高校1年で入ってきた時にはまた身体作りからやらなきゃいけない。そのあたりの問題はいろいろあります。

ただ、こういう話になるとバスケットのことばかりに目が向きますが、文武両道は絶対だと思います。バスケットで進学するからと勉強を全くやらない、必要最低限の学力も身に着いていないのでは、結局は苦労することになります。自分の選手には「部活動を進学の手段として考えるのはおかしい」と厳しく言うんですが、やはり日本はそこに甘いところがあります。バスケットでも勉強でもトップになれ。それでできる子もいますが、全員には求められません。それでも苦しいことに背を向けず、両立していくのは大事です。

──先ほど国体では「絶対に優勝」という言葉がありましたが、今年のU16福岡県選抜でどんなバスケットを見せたいかを教えてください。

このチームは高さ、パワー、スピードやシュート力、ディフェンスでの粘り、チームへの忠誠心と、いろんな面でバランスの取れていて、私が相手の監督なら悩んでしまうチームです。彼らの能力をいかにコートで、チームとして発揮させられるか。その環境作りは我々スタッフが作ってあげて、選手たちがコートに忘れ物がないようにやっていきたいです。

──最後に、鶴我先生がどんな気持ちで国体に挑むのかを教えてください。

第一の井手口先生、大濠の片峯(聡太)先生を始め、福岡には高校の素晴らしい指導者がたくさんいます。その中で中学の教員にこんなすごいチームを任せてくださるのは、年を取った功労者というか(笑)、そのことには感謝しています。私自身も指導者として向上するための大きなチャンスだととらえています。選手たちとともに精一杯チャレンジしていきます。

U16福岡

2019年度 国体 福岡少年男子チーム12名

1 ハーパージャン・ローレンスJr 福岡第一 2年 179cm
2 キエキエトピー・アリ 福岡第一 2年 200cm
3 早田流星 福岡第一 1年 182cm
4 鷹野祐磨 福岡第一 1年 187cm
5 星賀舞也 福岡第一 1年 187cm
6 佐藤涼成 福岡第一 1年 172cm
7 間山柊 福岡大学附属大濠 2年 194cm
8 岩下准平 福岡大学附属大濠 1年 178cm
9 針間大知 福岡大学附属大濠 1年 183cm
10 島崎輝 福岡大学附属大濠 1年 194cm
11 大澤祥貴 福岡大学附属大濠 1年 179cm
12 浅井英矢 福岡県立北筑 2年 193cm