
Bリーグでは「47都道府県プロジェクト」と題し、まだクラブがない6県(山梨県、和歌山県、鳥取県、高知県、大分県、宮崎県)にBリーグのチームを立ち上げようとしている。その中で具体的な動きが始まりつつあるのが高知県だ。四国アイランドリーグに所属する高知ファイティングドッグス、Jリーグの高知ユナイテッドSCに続いて、プロバスケクラブを作ろうとする動きについて、設立準備委員会で事務局長を務める長谷至誠(ながたにしせい)に話を聞いた。
「世界の平和のために街づくりを」からの地元回帰
──まずは長谷さんについて教えてください。高知にプロバスケクラブを作る活動の動機となるのは、バスケが大好きだからか、スポーツビジネスをしたいのか、地元を盛り上げたいのか。そのモチベーションがどこから来るのかを教えてください。
私は高校生の頃より「世界の平和のために何かできないか」という気持ちから、国連の職員になりたいと思っていました。そのためには何らかの専門性が必要で、どの分野にしようかと考えていた時に、日本青年団の一員として中国に行く機会がありました。1999年の上海では、浦東新区という新しい街を作っていました。世界中のクレーンの3分の1が集まると言われるほどの建設ラッシュを目の当たりにして、ここに未来都市が出来上がるイメージが湧き上がって鳥肌が立ったのを覚えています。その経験から、国連で発展途上国の街づくりを通して世界平和に貢献したいと考えたのが高校2年の時です。
国連で働くならアメリカだと進学したのがテキサス州立大学で、3万人超の学生がいる中で日本人は60人ぐらい。クラスに日本人は私だけでも、授業のたびに教授から「日本ではどう?」という話が振られてきます。そこで自分が日本人であることを意識しますし、日本のことをもっと知らなきゃいけないと思うようになりました。卒業する頃には、「日本のために」を考えながら、世界の街づくりがしたいという気持ちになりました。海外で街づくりをする日本のデベロッパーは限られています。その中で、僕が鳥肌が立った上海で当時世界一の101階建てのビルを開発していたのが森ビルでした。
──その鳥肌モノの原体験が、人生の選択に繋がっていくんですね。
その通りです(笑)。そうして森ビルに入社し、下積みを経験した後に海外赴任して、すごくやりがいのある仕事をやらせてもらいました。一方で、地元が大好きな私は、どんなに忙しくても毎年夏と冬には帰省していて、帰るたびに高知がどんどん元気をなくしていると感じたんです。森ビルは日本では東京、特に港区に一極集中しています。東京はグローバルな都市間競争にさらされています。ニューヨークやパリ、シンガポール、上海や香港との競争を勝ち抜いていける東京を作るために、東京に集中的に投資をして街づくりをするというビジョンがあります。
でも、東京の競争力だけが上がっていっても地方が置いてけぼりになれば、日本全体が埋没するんじゃないか。そういう気持ちが私にはありました。まさしくその一番低いところにいるのが自分の地元です。そこで地元に戻り、高知を元気にすることにフォーカスしたいと考えました。東京は人もお金も集まりますが、地方で頑張る人材はそんなに多くありません。だから自分がやるべき使命だと思いました。それで19年勤めた森ビルを辞めて、高知に戻りました。

「高知を元気にする手段」としてBリーグと出会う
──高知に戻って、いきなりBリーグの話が出てきたわけではないですよね。
最初は地元の金融機関で地域貢献のプロジェクトにかかわっていました。そんな中、高知県スポーツコミッションという一般社団法人の事務局長を高校の後輩がやっていて、スポーツビジネスにかかわる人たちを招いての勉強会を定期的に開催していたんです。昨年12月、そこでBリーグ執行役員の勝井竜太さん、当時のB3の堀井幹也理事長が講演をされました。そこでの話を聞いて、Bリーグがここまで地方創生に力を入れているのかと驚き、このコンテンツこそ私が目指す高知の活性化だという感覚を持ったんです。
──それまでバスケとはどんなかかわりがありましたか?
仕事ではかかわっていませんが、中高バスケ部出身ですし、バスケは大好きです。大学時代はサンアントニオ・スパーズをよく見に行きました。安いチケットでアリーナの上のほうからしか見れませんでしたが、当時のスパーズはティム・ダンカンやトニー・パーカー、マヌ・ジノビリの時代です。
──それはうらやましいです(笑)。話を戻しますが、その講演をきっかけに物事が動き始めたんですね。
具体的な動きが出てきた今年の春に声を掛けていただき、この活動に中心的にかかわるようになって、8月に設立準備委員会を立ち上げました。
──「47都道府県プロジェクト」で最初に具体的に動き始めたのが高知なのは、他県とは違う何かがあったのでしょうか。
プロスポーツクラブを立ち上げるとなると、まずどこがオーナーシップを持つのか。私も最初は候補となる企業はどこになるかと考えました。でも、設立準備委員会の委員長を務めている武市智行さんから、あるアドバイスをいただきました。「良いゲームソフトはお金を集めてから作るんじゃなくて、『こういうものが作りたい』という思想があって、そこに魅力を感じて開発資金が集まる。みんなが応援してくれるものは、そういう流れで作るものじゃないか」と。武市さんは四国銀行からファイナルファンタジーで有名なスクウェアの社長になった方で、私の中高のバスケ部の大先輩でもあります。
それで考え方が変わりました。お金集めのことばかり考えていたけど、高知のためにどんなチームが必要なのか。そのチームがあることで高知がどう良くなるのか。そこをもっと明確にして、そこに魅力を感じて応援したいと思う人たちが集まるようにしようと思いました。
基本的な構想はすでにあって、そこに賛同する人たちや企業が設立準備委員会に集まっています。ただ、それをもっと深めていく。お金を集める会ではなく、どんなクラブを作るべきかを決める会。そこがはっきりしないと、何も進まないと思っています。
──現状で「どんなクラブを作るべきか」はどこまで明確になっていますか。
3つの柱が必要だと思っています。順で言うと、「勝てる」「愛される」「続けられる」です。一定の競争力がないとファンがつかないし、応援してもらえません。次は、集まった人たちと地域をどう繋げていくか。地域の戦略を作り、そこに企業が集まって経営が回っていく。だから、「勝てる、愛される、続けられる」というクラブを作っていこうとしています。

県民体育館の建て替えで『稼げるアリーナ』に
──ここからのタイムラインはどのような想定ですか。
最短でリーグに参入したいので、来年春に準加盟の申請をするのが目先の目標です。そこから順調に行けば、2年後の2028-29シーズンからB.NEXTに参戦できます。
──クラブを作る上では、アリーナも大きなポイントになります。高知県民体育館を建て替える新アリーナの計画は、Bリーグの基準に合ったものですか?
県としても最初からバスケやバレーボールのプロチームが使用するアリーナ機能を有する施設を想定しています。基本的には5000人の収容で、VIPルームなどBリーグで必要とされる要件は後付けできる設計にするのが今の計画です。ただ、まだ基本設計・実施設計の事業者選定を進めている段階です。高知県も高知市も、協力団体という形で設立準備委員会に参加しています。Bリーグの基準に対して何が足りていないのか、高知のプロバスケクラブのあるべき姿としてアリーナに何を求めていくか。それを伝えることで、新しいアリーナの設計に反映してもらいたいと思っています。
──9月5日に高知県民体育館で神戸ストークスと広島ドラゴンフライズのエキシビジョンゲームが行われました。あの試合に設立準備委員会はどうかかわっていたんですか?
あの試合は、県民体育館の建て替えを見据え、屋内スポーツの機運醸成と新体育館の利用促進につなげるための高知県の施策です。私たちは、試合前日になって2階自由席のチケットがまだ余っていると聞いて、子供向けのチケット200枚を無料配布することを決め、ミニバス関係者などに連絡を回して人を集めました。バスケ部の顧問が「明日の部活は休みにするからプロの試合を見てこい」と言ってくれたところもあったそうです。結局、観客数は2009人でした。2000人を超えるかどうかでインパクトが違いますから、動いて良かったです。
──先行するBリーグのクラブで、参考にしているところはありますか?
徳島ガンバロウズです。代表の藤田恭嗣さんはメディアドゥの社長で、Bリーグの理事でもあります。今年1月、Bリーグオールスターが行われた長崎でのビジネスカンファレンスで、島田慎二コミッショナーと藤田代表、愛媛オレンジバイキングスの青野慶久会長による「Bクラブが地域にもたらす価値」に関するセッションがありました。その映像がYoutubeにアップされているのですが、もう3回見ました(笑)。
藤田さんも青野さんも自分で会社を経営していて、そこが事業の責任を持つ形になっていますが、同じ四国のチームです。徳島は新規チームとしての立ち上げにもかかわらずもう黒字に転じているので、目指すべきモデルとして参考になります。ありがたいことに、藤田代表からはいろんなアドバイスをいただいています。
──まだまだ先は長いように思いますが、来年春の加盟申請、最短で2028年秋からのB.NEXT参戦はあっという間ですね。
すべてを急ピッチで進めなければいけないと思っています。高知出身で全国で活躍されている方はいっぱいいます。その方々に我々の動きを知ってもらって、地元クラブ設立を応援してもらいたいです。また全国のバスケファンの皆さんにも、高知の新しいプロバスケクラブを楽しみにしていただきたいです。そうやって高知のことを気に掛けて、応援してくれる人が増えたらうれしいです。
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