八村塁

未曽有のトラブルを選手価値の向上へと繋げられるか

サラリーキャップ回避でクリッパーズが科された厳罰は、1巡目指名権5つの剥奪だけではない。オーナーのスティーブ・バルマーとビジネス部門、バスケ部門のトップがそれぞれ資格停止処分となり、実務判断を担うフロントの幹部が不在のままシーズンに突入する。

『カワイ・レナード以後』時代の陣容は司令塔は昨シーズン途中に加入したダリアス・ガーランドで、ゴール下は昨夏加入のブルック・ロペスと昨シーズン途中加入のアイザイア・ジャクソンが担当。ウイングはブランドン・イングラムと八村塁、マックス・ストゥルース、ブラッドリー・ビール、ルーキーのキートン・ワグラーと新戦力が居並ぶ。ただでさえ新加入選手が多い上に今回の混乱が加わって苦戦が予想されるが、理不尽な逆境の中で各選手が開き直り、チームに特別な結束力が生まれる可能性もある。

それでも現実的に考えれば、有望な若手がワグラーぐらいしか見当たらない今のチームでは上位進出は望み薄と言わざるを得ない。現状のロスターで勝ちを目指すのか、あるいは先に挙げた中堅の選手をトレードして他チームから1巡目指名権を一つでも多くかき集めて、再建の態勢を少しでもマシなものにすべきか──。実際にどちらに足を踏み出すか、それを決めるべきフロントが不在という異常事態で、クリッパーズの今後を予想するのは難しいが、遅かれ早かれ指名権を集める動きに向かうものと見られる。

その意味でクリッパーズにとって、八村塁は最も価値のある商品と言える。チームにはオールスター選出歴のあるイングラムやガーランドがいるものの、ガーランドはこの数年はケガが多い上に2年8900万ドル(約130億円)の契約を残しており、イングラムも2年8200万ドル(約120億円)の契約を抱えて、プレーオフで勝っていないことがネックになる。

これに対して八村はまだ28歳で、2年2800万ドル(約42億円)の契約を結んだばかり。レイカーズでレブロン・ジェームズやルカ・ドンチッチを輝かせるロールプレーヤーとしての価値は証明済み。クリッパーズが八村をさらに輝かせるために多くのボールを預けて仕掛けさせ、彼がその起用に応えれば、選手としての価値は跳ね上がる。八村は優勝を狙うチームへとトレードされ、クリッパーズは指名権を取り戻すことができる。

オンボールプレーヤーのドンチッチを擁した昨シーズン、レギュラーシーズンでの八村はボールを持つ機会が減り、フィールドゴールアテンプトは前年の9.8から8.8へと下がり、得点も13.1から11.5へと落ちた。しかし、ドンチッチがケガでプレーできなかったプレーオフでの八村は、12.2本のシュートを試みて17.5得点を挙げた。クリッパーズの今回の事件が八村に追い風をもたらすとすれば、まさにこの部分となる。その先のトレードがどうなるかはコントロールできないが、選手としての自分の価値を高めるチャンスが来るのであれば、それをモノにしてもらいたい。

もう一人の日本人プレーヤーである河村勇輝は、保証のないエグジビット10契約。クリッパーズの2ウェイ契約枠はすでに3つとも埋まっており、トレーニングキャンプは非常に厳しい生存競争となる。ただ、メンバーの大幅な入れ替えに加えて今回のゴタゴタがあり、チームの完成度が上がらないであろう状況だからこそ、序列が下の選手に逆転の芽は出てくる。

Bリーグを経験してNBA3年目、25歳の河村はこの立場としては決して若手ではない。つまり『今後の伸びしろ』ではなく『今の実力』で彼は評価される。すでに力強いボールプッシュから速い展開を作り、そこからのアシスト能力、サイズはなくても1対1で簡単に抜かれないディフェンス力は証明済み。それよりも、トリッキーなパスは出してもイージーなターンオーバーをしない、キャッチ&シュートのチャンスを決めきる、この攻守の安定感をトレーニングキャンプでアピールすることで、開幕ロスター入り、さらにはプレータイムを勝ち取りたいところだ。

八村にとっては短期間で自分の価値を高め、次の良い契約を勝ち取るとともに優勝争いのできるチームへとトレードされること。河村にとってはクリッパーズで標準契約を勝ち取り、混乱するチームを引っ張る存在となって、今後長くNBAで活躍する足場を固めたいところだ。