文=鈴木健一郎 写真=吉田武

タフショットを決めた初戦、強引さが消えた第3戦

先週末に大田区総合体育館で行われたNBLファイナルの3連戦。東芝神奈川のエース、辻直人は3試合とも30分以上コートに立ち、チームを引っ張った。結果は2連敗からの1勝。追い詰められながらも、何とかこの週末に決着を持ち越した形だが、辻のパフォーマンスはすごみさえ感じさせるものだった。

5月28日に行われた初戦、ファイナルの幕を開ける最初の得点を3ポイントシュートで奪った辻は、要所で3ポイントシュートを決めていく。結果として逆転負けを喫したが、猛反撃する相手の勢いをタフショットをねじ込み何度も止めた辻の働きがなければ、アイシン三河がここまで苦しむこともなかっただろう。

続く第2戦は完敗で、辻も7得点と振るわず。辻はアイシン三河の印象として「リードすると、その点差を守るのがうまい」と語っていた。「そこはインサイドの強さなんだと思いますが、いつの間にかジリジリと引き離されてしまう」。そんなアイシン三河の展開にそのまま持ち込まれての敗戦だった。

そして運命の第3戦。もう後がない状況で、チームは良い意味で開き直ることができた。個人として「悔いが残らないよう、全力を出そうという気持ちで臨みました」と振り返る辻だが、彼が強調したいのはチームとしての戦い方だ。「一人ひとりが戦う気持ちを出して、追い込まれた立場から自分たちのバスケットを取り戻すことができました」

圧巻は2点のリードから始まった第3ピリオドだ。13得点を奪った前半からさらにギアを上げ、この第3ピリオドだけで10得点。まるでサンダーを沈めたクレイ・トンプソンのように、無駄のないフォームから美しい弧を描いて放たれる3ポイントシュートが決まる。

最高のタッチで次々と得点を挙げる辻。しかし、そこに強引なプレーは皆無だったと言っていい。第1戦でもシュートタッチはかなり良かったが、強引に打つシーンはしばしば見られた。アイシン三河の猛反撃を浴びる展開で、彼自身も無理なプレー判断をしてしまっていたのだ。すべてがうまく回らなかった第2戦はさらに悪かった。彼自身も「決めたい一心で打ち急いでしまった」と振り返る。

だがこの第3戦では、相手のディフェンスをしっかり見極め、無理だと思えば相手を引き付けてパスを出した。3ポイントシュートにこだわることもなく、それが適切だと思えば2ポイントのジャンプショットも盛んに狙った。辻を中心にボールがよく回ることで、チーム全体のリズムが良くなり、そして辻も最高のタッチでシュートを打つことができる。そんな好循環が出来上がっていた。

象徴的だったのが第4ピリオド終盤、3分37秒のシーンだ。アイシン三河の大黒柱であるアイザック・バッツとギャビン・エドワーズにようやく当たりが出始め、73-66と7点差まで詰め寄られてのオフェンス機会。「辻に絶対に3ポイントシュートを打たせない」というディフェンスを巧みな間合いで寄せ付けず、ニック・ファジーカスの3ポイントシュートをアシスト。自ら決めることにこだわらず、3ポイントシュートで相手の士気をくじくという結果だけはしっかりと出した。

アイシン三河のマークはより厳しくなるだろう。それでも東芝神奈川が勝利するには、辻の働きが必要だ。

決めなきゃいけない、決めてやろうという気持ち

第3戦の試合終了後、辻はこう語っている。「プレーの面で特に変えたことはないです。でも、ファイナルはひるんだら負けですから。崖っぷちの状況でもひるまず、勝ち気を最初から前面に出せたのが勝因だと思います。一昨日も昨日も、もちろん勝ちたい気持ちはありましたが、今日はチーム全体に覚悟が感じられました」

ゲームハイの30得点、11本中7本の3ポイントシュートを決めてヒーローになった辻だが、試合でのパフォーマンス同様に、試合後のコメントも「チームプレー」だった。「味方が積極的にスクリーンに来てくれて、それが心強かったし、決めなきゃいけない、決めてやろうという気持ちになれました」

アイシン三河の鈴木貴美一ヘッドコーチは敗因を「辻くんにやられた」と語った。「東芝神奈川は3ポイントが当たると怖いチームです。7/11、これだけで21点ですから。それに気を取られると今度は中で合わせてきたりとか。東芝神奈川に気持ち良くオフェンスさせてしまった」

もっとも、後がない状況に変わりはない。次の土日で連勝しない限り、東芝神奈川がNBL王者になることはないのだ。辻は言う。「この一週間、まだ時間があるので、自分なりに最高の準備をするつもりです。僕一人だけじゃなくチームを巻き込んで。チーム一体になって強い相手に立ち向かう姿勢が求められるので、そこを自分が引っ張っていきます」

事もなげに辻は言った。「自信はあります」

当事者たちは大変だろうが、NBL最後のシーズンの王者を決めるファイナルがたった3試合で終わったのではつまらない。土曜の第4戦、前年王者のアイシン三河が寄り切るのか、それとも東芝神奈川が勢いに乗り連勝で逆王手を掛けるのか。注目の一戦は6月4日(土)15時から、代々木競技場第二体育館で行われる。