
ポポビッチとラジャコビッチの下で才能を開花させる
今オフの注目株の一人であるウォーカー・ケスラーの獲得を決めたレイカーズは、同時にクエンティン・グライムズとコリン・セクストン、サンドロ・マムケラシュビリとの契約を結んだ。その一人、マムケラシュビリはNBAキャリア5年目を終えた27歳のフォワードだ。2021年の2巡目54位指名選手は、長年の苦労が報われて4年5200万ドル(約78億円)の大型契約を手にした。
『マム』は1999年にニューヨークで生まれたが、両親ともにジョージアの出身で、幼い頃に移住したトビリシでバスケを始めた。16歳でアメリカに戻り、シートン・ホール大で4年生までプレーしてNBAドラフトに臨んだ。この時点で大型フォワードでありながらハンドリングもシュートもある多彩さが評価されていたものの、突出した武器を持たないことで評価が上がらず、22歳でのドラフトエントリーで伸びしろも少ないと見られていた。ペイサーズから54位で指名された翌日には交渉権がバックスにトレードされ、2ウェイ契約でのスタートとなった。
バックスでは1年半を過ごして65試合に出場するも、勝敗が決まった後のわずかな時間しかコートに立てない試合が大半だった。Gリーグで23.3得点、13.0リバウンド、4.8アシストと圧倒的なスタッツを残しても、バックスでの起用には繋がらなかった。2年目のシーズン途中に、優勝に向けたロスター再編のためにバックスから解雇を告げられる。この時点でマムはストレッチしてヤニス・アデトクンボがアタックするスペースを作ることも、トランジションで走ることも、ディフェンスとリバウンドでのハードワークもできたのだが、バックスはそのポテンシャルを信じなかった。彼がもたらす要素すべてが、それからすぐにヤニスがフロントに要求したものと一致するのだが、貴重な若手を解雇したのをバックスが悔いるのは、もう少し先のことだ。
その時点でマムの才能を見抜いていた人物もいる。スパーズを率いる名将、グレッグ・ポポビッチだ。ウェーバー期間が空けるとすぐにマムとの2ウェイ契約を結んだ。NBAでほとんど実績がなく、解雇されたばかりの若手をポポビッチは「ヨーロッパ出身の選手は信じられないレベルで鍛えられていて、バスケの理解度もここにいる大半の選手より高い。素晴らしい選手を獲得できた」と紹介て、すぐに出場機会を与えた。その数カ月後のドラフトで、スパーズはビクター・ウェンバニャマを指名。マムはその『相棒』としてフロントコートでコンビを組み、スパーズの再建を終わらせた。
MAMU BLOCK ❌
— San Antonio Spurs (@spurs) November 19, 2023
MAMU SLAM 😤 pic.twitter.com/W1kgLefv0l
昨年オフにラプターズに移籍したのは、より多くの出場機会を得られ、ダーコ・ラジャコビッチの全員でパスを回し、全員で得点を狙うシステムに自分がフィットすると思ったからだ。スパーズの居心地は良く、基本的には残留を考えていたというマムだが、ラジャコビッチから電話で新シーズンの構想を聞かされて、ラプターズ行きを即決したという。
その選択は正しかった。シックスマンとして攻守に持ち味を発揮し、80試合に出場して21.9分プレーし、11.2得点、4.9リバウンドを記録。ヤコブ・パートルのケガが多かったことで本職ではないセンターを任されることも多く、それがスモールラインナップのセンターとしての新たな才能を開花させることにもなった。
今オフも彼はラプターズ残留を基本線に考えていた。シーズン終了の時点で、彼はこう語っている。「ローテーションプレーヤーとして過ごした初めてのシーズンだった。自分の価値を証明できたし、もっと上を目指せると思っている。プレーオフを経験できたのも良かった。今後は毎年プレーオフに出るのが目標だ。願わくば、それがこのチームであってほしい。僕はトロントの街もダーコも大好きだ」
しかし、レイカーズのオファーは彼の考えるベストをさらに上回る内容だった。昨年まで彼は1年契約しか得たことがなく、スパーズで結果を残してラプターズに移籍した時も、その契約は2年520万ドル(約8億円)でしかなかった。その彼に4年5200万ドルが提示されたのだから、断る理由はない。
レイカーズでは、まさにラプターズで彼がやっていた『ストレッチ4』の役割が期待される。ケスラーがジャンプシュートを打てないセンターである分まで、彼がコートを広げてルカ・ドンチッチとオースティン・リーブスのためにスペースを作り出す必要がある。彼らの『引力』はマムにワイドオープンのチャンスを与えてくれるはずで、今シーズンの3ポイントシュート成功率38.9%はさらに上がる可能性がある。オフ・ザ・ボールの動きが主体であっても適切なタイミングでパスを引き出してオフェンス全体を動かし、鋭い走り出しでトランジションを牽引する。求められる役割は多岐に渡るが、それをこなす万能性が彼の持ち味だ。
パワーフォワードが本職だが、ラプターズではスモールセンターもこなしたし、スモールフォワードとしてプレーすることもあった。「このレベルでプレーすることが僕の夢であり、ポジションがどこでもベストを尽くすだけだった。どれだけプレーに関与するかにかかわらず、常にエネルギーとガッツを出せる選手としてリバウンドやルーズボールを追い掛ける。みんなが嫌がる『汗かき仕事』も喜んでやるよ。それをもっと高いレベルでやれるよう、この夏もたくさん練習するつもりだ」
シーズンを終えてこう語っていた時点では、大型契約を得てレイカーズでプレーするとは思ってもいなかっただろう。だが今、マムはレイカーズの一員となった。大学時代からNBAキャリア序盤で回り道を強いられながらも、NBAプレーヤーとしての地位を確立した。