ジェイレン・ブランソン

「チャンスが目の前にあるなら、やるべきことをやる」

NBAファイナル第5戦は、これまでと同様にスパーズがリードを奪い、ニックスが追い掛ける展開となり、最後にニックスが逆転した。4勝1敗でファイナルを制したニックスが、実に1973年以来となるNBA優勝を成し遂げた。

立ち上がりから両チームともディフェンスが相手のオフェンスを上回るロースコアの展開となったが、ニックスはビクター・ウェンバニャマを外に引き出すことに意識が行きすぎ、ボールが外を回るだけでペイントタッチが全くできない。一方でスパーズはインサイドアウトが機能しており、早々に2桁のリードを築いて優位に立った。

第2クォーター序盤に最大16点差を付けたスパーズだが、それでも3ポイントシュートの確率が上がらず、大差を付けるには至らない。ただ、29点差をひっくり返された第4戦とは違い、後半に入ってもディフェンスの強度を落とさず、優位を保ち続けた。

しかし、その展開をジェイレン・ブランソンが変えた。前半は3ポイントシュート3本を決めたものの決定的な仕事はできていなかったニックスのエースが、後半に入って次第にギアを上げていく。第3クォーターは彼のペイントタッチからチームの攻撃が活性化。彼自身も14得点を挙げた。そして第4クォーターに入ると、彼の勢いはさらに増した。

スパーズはブランソンのキックアウトからの3ポイントシュートを嫌い、ブランソンにダブルチームを送らなかった。主にステフォン・キャッスルがブランソンのマークを担っていたが、試合終盤にそのキャッスルの運動量が落ちると、ブランソンを止められなくなる。ゴール下の密集地帯に一瞬できるスペースを見逃さずに身体を滑り込ませ、フィニッシュの瞬間には抜け出してイージーシュートにしてしまう異次元の能力を発揮。また、慌てて止めに来る相手の動きを見てファウルを引き出す駆け引きでも上回り、第4クォーターにフィールドゴール6本中4本成功、フリースロー7本成功の15得点を叩き出し、このクォーターを29-18としての逆転勝利を生み出した。

最終スコアは94-90。NBAファイナルの5試合はすべて接戦で、その中でも最もロースコアの展開となったが、チーム一丸で攻守のプレー強度を高く保ち、ブランソンが得点を奪うことでニックスが勝利した。

ファイナルMVPはもちろんブランソン。レギュラーシーズンで26.0だった彼の得点は、ディフェンスが強調されて多くの選手がスタッツを落とすプレーオフになって27.4へと伸び、ファイナル5試合での平均得点は32.6と急伸した。1本のシュートでさえ決めるのが難しい状況で真価を発揮する、ブランソンらしい勝負強さが何度も見られたファイナルだった。

しかし、本当の意味で『ブランソンらしい』のは、個人の成果を強調せずチームを前面に押し出す姿勢だ。「今日の僕たちは『チャンピオンになって家に帰る』という強い意志を持って戦っていた。ただ戦うだけじゃなく、シリーズを終わらせるのが目的だった。このメンバーと戦うことは僕にとって大きな意味がある」と、ブランソンは語る。

試合途中にはジャンプシュートを打った後にウェンバニャマの足の上に着地して足首を痛めている。「正直に言うと今はめちゃくちゃ痛い」とブランソンは言う。「でも、チャンスが目の前にあるなら、やるべきことをやるだけだ」

スパーズはNBAファイナルを通してプレッシャーに苦しんだ。それは若手はもちろん、ディアロン・フォックスのような経験ある選手も同じだった。一方でブランソンはプレッシャーの影響が感じられなかった。「プレッシャーなんてものは存在しない」とブランソンは言い、アシスタントコーチとして一緒に戦った父、リック・ブランソンの影響であることを明かした。

「父さんは現役時代、非保証の契約を8回も9回も結んでプレーしていた。家族を東海岸に残し、自分はどこか遠くの街で、いつ解雇されるか分からない。そんな状況こそが本当のプレッシャーだよ。今の僕の立場はすごく恵まれている。だから今日のようにチャンスが巡ってきた時は、ただ自分が積み重ねてきた努力を信じるだけ。失敗を恐れたことは一度もない」

相手の厳しいマークにも「精神的な負荷は全く感じなかった」と語る。「試合展開もあって身体的には少しキツかったけど、精神的にはずっと気分良く戦えていた。それこそが僕の一番の武器かもしれないね」

2018年のNBAドラフトでは2巡目33位指名。マーベリックス時代はルカ・ドンチッチの控えが長く続いた。ニックスでエースとなった後も、「そのサイズでは勝てない」と言われ続けた。過小評価と向き合い続けたキャリア8年目での優勝とファイナルMVP、その2つのトロフィーを前に、「君のことを過小評価し続けた人々に対して言いたいことは?」と質問されたブランソンは、わずかに首を振ってこう答えた。

「当時もそんな連中には反応しなかったし、今さら反応するつもりもないよ」