ディラン・ハーパー

「シャワーを浴びて、この嫌な気分を洗い流すよ」

29点差からの逆転負けを喫したスパーズがパニックに陥るのは無理もない。試合開始早々に相手のファウルトラブルで圧倒的優位に立った前半から一転、後半はジリ貧となった試合の敗因はいくらでも挙げられるが、最も大きな批判を浴びているのはディアロン・フォックスだ。終盤に相手のターンオーバーから走り、そのまま得点を狙うもOG・アヌノビーのブロックショットに阻まれた。「ボールをキープして時間を使い、ファウルゲームを待つ冷静さがなかった」との指摘はもっともで、フォックスは「振り切ってレイアップを決められると思った」と言うが、振り切ればより多くの時間を進められるのだから、無理にシュートに行く必要はなかったのかもしれない。ただ、あの極限状態で正しいプレーを選択する難しさを忘れてはならない。

マディソン・スクエア・ガーデンの大声援に後押しされるニックスの逆襲に晒された試合終盤、スパーズの選手は精神的に圧倒されてアグレッシブなプレーができなくなっていた。その中でフォックスはベテランとして勝敗の責任を負ったという意味で『勇敢』だった。

一方、若手ではあれスパーズのエースを担うビクター・ウェンバニャマは終盤に積極性を出せなかった。残り2分を切って、彼がフリースロー2本を落とした直後にニックスは逆転に成功している。ただ、このフリースローよりも、勝負どころで積極性を失い、勝敗の責任を背負えなかったことのほうが痛い。

第4クォーターのウェンバニャマはフィールドゴール9本中成功2本の5得点、リバウンドも4つと低調だったが、このほとんどがまだ大量リードのあった第4クォーター序盤に集中している。クラッチシチュエーションになった試合終盤は得点もリバウンドもブロックもなし。ニックスが彼を外に引き出し、プレーに絡ませない戦術を上手く遂行していたのは間違いないが、それにしても肝心の場面でプレーに絡もうという積極性は見られなかった。

ただ、ウェンバニャマは44分プレーして、心身ともに疲弊の激しい終盤にガス欠になっており、彼自身も試合後に「疲れはあった」と認めている。カール・アンソニー・タウンズが26分しかプレーできず、試合の大部分で大量リードという展開で、ウェンバニャマのスタミナを考慮した選手起用ができなかった采配に問題があったのも間違いない。

スパーズを率いるミッチ・ジョンソンは「通常のゲームプラン通りにプレーさせた。勝利を決定付けるために、いつもより長く使ったぐらいだ。この後に2日間の休みがあることを考えれば、勝利を確定させるまで使いたかった」と、その起用法を説明している。しかし、タウンズのファウルトラブルに際して打てる手をすべて打ってダメージを最小限に食い止め(それでも29点差だったが)反撃態勢を整えたマイク・ブラウンとの差を考えざるを得ない。

勝てば2勝2敗でホームに戻れるはずの試合を落としたショックはあまりにも大きい。特にウェンバニャマはひどく落胆しており、「何が起きたのか説明できない」と沈んだ表情で語った。「問題は第4クォーターより崩れ始めた第3クォーターにあったと思う。遂行力の問題か、気持ちに緩みが出たのか。とにかく後半は僕たちよりも相手のほうが勝利に飢えていた。必死になって戦ったけど、せっかく築いたリードを吐き出してしまった。そうとしか説明できない」

指揮官ジョンソンも失意の中にあったが、自分たちの置かれた状況は理解していた。「今日は悔しさを噛み締め、明日にはすべての感情を捨てようと選手たちには伝えた」と言うが、その言葉は自分にも向けられていたようだ。

そんなショックと落胆だらけの会見で、唯一強気なままでいたのがルーキーのディラン・ハーパーだった。ベンチから21得点を記録した彼は、悔しさを露わにして「試合が終わってまだ20分しか経ってないので、感情の整理はできていない。でも、まだバスケットボールは続く。シャワーを浴びて、この嫌な気分を洗い流すよ」と語り、こう続けた。

「終わったことを悔やんでも意味はないよね? 30点近くリードしていた試合を落としたんだから、悔しいし腹も立つよ。でも、それは第5戦の燃料にする。今の僕たちにとって一番大事なのは第5戦だ。ここまでの僕らは追い詰められた時こそ真価を発揮してきた。今回もそうするんだ。文句を言ったり、誰かを責める時間はない。今こそ立ち上がるべき時だ。もちろん負けたくないし、こんな負け方は絶対に嫌だけど、これで僕の闘志にはさらに火がついた。絶対にやり返す。自分たちが何者であるか、次の試合で世界に示すんだ」