菊地祥平

強靭なフィジカルと汚れ仕事を厭わぬマインド、的確な読みと迷いのないリーダーシップ……。2016年のBリーグ初年度開幕戦を戦ったアルバルク東京の菊地祥平が、41歳でユニフォームを脱いだ。多くの後輩たちから「兄貴」と慕われる菊地は、引退に際した率直な思いを語りつつ、あたたかくも厳しい言葉で弟分たちにメッセージを送った。(6月1日取材)

嫌われることを厭う選手は長くプロを続けられない

──クラブのSNSを拝見しましたが、昨日も取材対応があったようですね。連日ご苦労さまです。

昨日は午前中だけですね。「2件あります」って言われていたけど実は1件で、帰ろうとしたらいきなり車に連れて行かれたんですよ。何かと思ったら日本人選手全員でサプライズの慰安旅行を企画してくれていたんですね。(テーブス)海は急遽来られなくなっちゃったんですけど、ヴィラを一棟貸し切って、バーベキューしたり、プールに入ったり、サウナと温泉に入ったり……最高でした。

 

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──聞いているだけで最高です(笑)。次のシーズンのことを考えないで過ごすオフは初めてですよね。どのような感じで過ごされていますか?

気持ちだけで言うと…なんでしょう、もう本当に何もない、無の状態ですね。今までだったら「これぐらいは休んで、これぐらいから週何回ぐらいでこういうメニューをしていこう」っていうのを考えて、そこに目がけて『頑張って休む』みたいな感じだったので。身体のことを考えたら動きすぎないようにしないといけないけど、何もしないとメンタル面がリフレッシュしないし……みたいな感じで、メンタル面と身体のバランスを考えながらいつも過ごしてきたんですけど、そういうことを何も考えなくて良いというか、何も準備をしなくて良いオフの過ごし方がまだ分からない状態ですね。

──EASLファイナルズの前に、菊地選手と同い年の竹内公輔選手を取材させていただく機会があったんですが、竹内選手も「ベテランになると身体だけでなく気持ちを持っていくのが大変だ」とおっしゃっていました。

若い時は練習場に行ってアップをするだけのことだったんですけど、ここ数年は『準備をするためのスイッチ』を入れないといけないというか。「よし、動くか」みたいな状態を作るというか、バスケを始めるに至るまでの過程が長くなるというか。身体を動かすのにも準備が必要なように、身体を動かすためのメンタルにも準備が必要になります。まわりの選手の話を聞いていても、身体は動くけれどメンタルが「バスケをやりたい」という方向に動かなくなったから引退せざるを得なくなった、という選手はいますね。

──ベテランになればなるほどやることがルーティン化していくのでしょうし、同じことを繰り返すのが精神的につらくなるというのはなんとなく想像できます。

その上で調子の浮き沈みもありますし、チームの勝った・負けたもありますし。ここまでバスケットが発展してきた中で、少なからずブースターさんの声も聞こえてくる状況で、メンタルを一定に保つのはやっぱり簡単なことではないと思います。負けたくて負けている選手は誰もいないのに心ない言葉を見かけることもありますし、連敗が続いて観客が少なくなればこたえるものがありますし。そういう面でも、僕は選手を長く続けるためには身体が動く・動かないだけでなくメンタルの持って行き方もすごく大事なことじゃないかなと思っています。

──現役の選手にお話をうかがうと「まわりの声は気にしません」と言う方が多いですが、実際は違うわけですね。

やっぱり一つはSNSですよね。SNSでの発信はリーグやクラブからも推奨されていますし、もちろん大事だと思うんですけど、一選手がそこを過度に重要視してしまうと大変だとは思います。だから僕はあまり意見が目につかないタイプのSNSしかやっていないですね。

──特に、菊地選手は『汚れ仕事』を厭わないタイプでしたから、ネガティブな意見も受けやすかったでしょうか。

僕は基本性格が悪いので、相手ブースターさんがそこに対して何か言ってきたら逆に自分を評価してくれているんだなと思っていましたね。ブーイングも意見も、あくまで相手チームのブースターさんからのものなので、逆にそういう言葉を受けることで自分が自分のチームに貢献できていると思えたと言いますか。「絶対に見たくないようなことを言われているんだろうな」と思いながらも、「そう言ってもらえるだけのプレーをちゃんとできているんだ」っていうメンタルで僕はやれるので、本当に性格が悪いなと思います(笑)。逆に、それを真面目に受け止めて「嫌われちゃってるかも」とプレーが消極的になってしまうような選手は、長くプロは続けられないんじゃないかなと思いますね。

アルバルク東京

安藤周人にはあえて引退を伝えなかった

── A東京で言えば、小酒部泰暉選手は菊地選手と同様に強気で泥仕事をするタイプの選手ですよね。相手チームからは嫌がられるけど、味方としては頼もしい存在です。

はっきり言うと、今のチームで僕がやっていたようなことをできるのは小酒部しかいないですよね。あれを小酒部がやっていなかったら今シーズンはCS(チャンピオンシップ)にすら出られていなかったと思っているし、小酒部しかできてないっていう現状がアルバルクが優勝争いから遠のいてる要因の一つなのかなとはけっこう強く思ってます。小酒部以外にもう一人…それこそもう二人、そういうプレーができる選手が出てきたら、もっとチームとしての厚みが出ると思いますし、安定すると思いますし、結果だけで言うと、CSの長崎ヴェルカ戦の2戦目にあんな大敗は絶対にしないと思います。

──長崎戦の試合後コメントでも、菊地選手はかなり厳しいことをおっしゃっていました。

そういうことを言うことが、僕のこのチームでの存在意義だと思っているので、優しい目だけでは見守れないですよね。長崎さんはCSを通して泥臭く戦うということを厭わないというか、むしろ楽しんでやっているように見えました。ドブさらい役みたいなことを、勝つためにすすんでできる集団こそが優勝できるんだなと思いましたし、長崎さんは勝つべくして勝ったなという印象が本当に強かったです。

──これからのアルバルクには、「勝ちに対する貪欲さ」みたいなところをさらに身につけてほしいと。

はい。簡単に言うと泥臭さだったりとか、戦う姿勢だったりとか。綺麗なバスケ、華麗なバスケのほうがファンのみなさんには喜んでもらえるのかもしれませんが、それだけでは絶対に勝てないと僕は思います。どんな世界でも、それこそあれだけ派手に見えるNBAでも、やっぱり大事な試合の強度はレギュラーシーズンと格段に違うように見えますし、そういう姿勢や戦い方はもっともっと見習わなければいけないと思います。

──アルバルクでは誰にそういう役割を期待したいですか?

やっぱり声をかけることが多かった選手がやってくれたら嬉しいですね。安藤(周人)やザック(バランスキー)にはキャプテンシーをもっとはっきり発揮してほしいですし、出場する時間が長い海がやってくれたら本当にガラッと変わると思うので、そこらへんは期待している部分ではありますね。

──昨シーズン、安藤選手が取材の中で、スランプになった時に菊地選手にすごく励まされたと話されていて、お二人の親密さを感じました。

去年はどっちかというと優しく寄り添っていましたね。でも僕的にはもう一皮剥けてほしかったので、今シーズンはちょっと厳しめというか、昨シーズンとは違う接し方をしていました。それが影響したかは分からないけど今シーズンは本当に成長したし、パフォーマンスも安定したと思うんですけど、やっぱり僕はそれ以上にあいつには……もちろんシューターですし、オフェンスのメインの一人ではあるんですけど、それ以外にももっとチームに貢献できる部分があると思っていて。期待だけで言うと、今はまだ持ってるモノの3分の1ぐらいしか出せていないと思っています。

──そうなんですね……。

ディフェンス面だったりリーダーシップだったり、自分のメンタルによってチームに影響をおよぼす核の部分の役割はまだ全然できていないと思っています。もちろんやれないだろうなっていう選手には言わないですよ。一番って言って良いくらい仲が良い彼だからこそ期待しているし、甘やかさず、嘘偽りなく言うようにはしてます。

──引退の特設サイトで、選手たちそれぞれが菊地選手にメッセージボードを掲げていた写真がありましたが、安藤選手は誰よりも寂しそうな顔をしているように見えました。

実は、安藤に引退を伝えたのは、他の選手より遅いタイミングだったんです。他の選手にはEASLファイナルズの琉球ゴールデンキングス戦後に言ったんですけど、安藤は今じゃないなと。「祥平さんがいなくなるから頑張ろう」っていうメンタルにならないようにしたかったというか、そういうこと抜きに自分自身の力で変われそうな時期だと思ったので、その邪魔はしたくないなと。彼に話したのは、リリースが出る前日の練習前です。とはいえ、前からずっと「たぶんそんなに長くは一緒にやれないよ」とは言っていたので、ものすごくショックを受けた感じはなかったですけどね。<後編へ続く>