「優勝するチャンスをもう一度つかみたい」

昨年2月のルカ・ドンチッチ放出から混乱に陥ったマーベリックスは、そこから抜け出せないシーズンを送った。オフに『超大物ルーキー』のクーパー・フラッグを指名できたものの、主力にケガ人が相次いでプレーオフ進出という目標は早々に撤回せざるを得なかった。ドンチッチとのトレードで獲得したアンソニー・デイビスもシーズン途中に放出。目標を失ったことで、低調だった成績はさらに落ち込み、26勝56敗に終わった。

シーズン最後の会見に現れたジェイソン・キッドは疲れ果てていた。「精神的にも肉体的にもタフなシーズンだった。バスケ以外の雑音も多かった。これから落ち着いて1年を振り返り、どうすれば選手をより成功させられるかを見つめ直したい」

そう語った指揮官は、今シーズンで最も記憶に残っていることを質問されて「ドラフトロッタリーだね」と答えた。全体1位指名権を引き当ててフラッグを指名できる幸運に恵まれたが、その後はずっと下り坂だった。

「でも、そんな中で多くの若手にチャンスを与えることができ、彼らは逆境に屈することなく毎日必死に努力した。チームとして多くを学べた1年だった。今後は戦術面の改善も必要だが、まずは健康が大前提だ。来シーズンは健康な状態で評価されたい」

もっとも、来シーズンに向けて始動する前にマブスは仕切り直しが必要だ。ドンチッチ放出を主導したニコ・ハリソンGMを解雇した後、編成の責任者は事実上不在となっている。その人選次第で来シーズン以降のチーム作りの方針が決まる。キッドもしばらくはフロント人事の決着を待たなければいけない。

それは選手も同様だ。フラッグはルーキー・オブ・ザ・イヤーの行方を気にしながら来シーズンに向けた準備を進めればいいが、ベテランは微妙な状況に置かれる。クレイ・トンプソンもその一人で、率直に言って彼も悩んでいる。

彼は3年5000万ドル(約75億円)の契約最終年を残しているが、「来シーズンも残るか」と問われて「難しい質問だね」と答えた。「まだ契約があるので、僕としてはそのつもりでいるけど、マブスに来てから『状況は一瞬で変わる』ことを身をもって学んだ。だから今はここでベストを尽くすことだけを考えている」

「と言うより、僕にできるのはそれだけだ。そして、それがNBA選手であることの最も辛い部分だ。かつてステフ(ステフィン・カリー)が言っていたけど、僕らはスタッツを残して試合に勝ち、優勝することで対価を得ているわけじゃない。実際にはトレードの可能性を受け入れ、常に家族と離れて遠征に出て、ケガに耐える。そんな普段はファンの目に触れない困難に対して報酬が支払われているんだ」

クレイは2011年のデビュー以来、13シーズンをウォリアーズで過ごし、カリーとの『スプラッシュ・ブラザーズ』ですべての栄誉を勝ち取った。大きなケガを乗り越え、ベテランと呼ばれる年齢になった2024年に新たな挑戦としてマブスを選んだのは、ドンチッチ中心のバスケでピュアシューターとしての自分の能力がまだまだ生きると考えたからだ。

しかし、ドンチッチとプレーできたのはほんのわずかな期間で、『状況は一瞬で変わる』ことを思い知らされた。それは、常に同じコアメンバーを維持して勝ち続けたウォリアーズとは全く違う現実だった。

「主要なスポーツにおいて、コアメンバーがあれほど長く一緒にプレーすることは滅多にない。僕が移籍を決める前のシーズンにマブスはNBAファイナルに進出していたから、あの時に想定していたのと今ではチーム状況が全く違うのは事実だ」とクレイは言う。

「でも、あそこまでたどり着くことがどれだけ大変かを僕は知っている。だから僕はあるがままを受け入れることにした。チーム状況が変わったからと落ち込むのではなく、プロフェッショナルであり続けようとした。結局、今シーズンは多くのことが上手くいかず、NBAファイナルに戻ることはできなかったけど、僕は良いプレーをしたい、試合に勝ちたいという意欲に溢れている。優勝するチャンスをもう一度つかみたい。それだけが僕の望みだ」

今シーズンのクレイは若いマックス・クリスティにポジションを譲り、先発出場は8試合のみ。平均プレータイムは前年の27.3分から21.7分に落ち込んだものの、69試合出場とシーズンを通してコンスタントにプレーし続けた。膝前十字靭帯断裂、アキレス腱断裂という2度の大ケガを乗り越えた後、直近の4シーズンで平均72試合に出場。36歳になった今もトップフォームを保っている。

NBA2年目から健康であればずっと記録しているシーズン200本の3ポイントシュート成功は11回目の達成となった。「決して簡単なことじゃないけど、プロ2年目で初めて達成した時と同じぐらいプレーを楽しめているおかげだ」とクレイはうれしそうに笑う。「今もバスケが楽しいんだ。健康を維持したままシーズンを無事に終えられたことを幸運に思うよ」