ジャズ

突出した個人技ではなく、継続路線でのチーム力アップ

2017-18シーズンの後半、強力なディフェンスとチームワークを軸としたバスケットで高い勝率を残したメンバーが残り、優勝をも視野にいれていたジャズでしたが、2018-19シーズンは50勝こそ達成したもののプレーオフではファーストラウンドで敗れ、終わってみれば『停滞のシーズン』となってしまいました。今オフは大物スター選手の獲得競争にこそ加わらないものの、マイク・コンリーをトレードで、さらにペイサーズでエース的な働きをしたボーヤン・ボグダノビッチをフリーエージェントで獲得し、充実した補強を実現しました。

ドノバン・ミッチェルはシーズン序盤こそ不調でしたが、2年目ながらエースとしての役割を果たしました。ルディ・ゴベアを中心にしたディフェンスも継続して機能しています。50勝という結果が示すように『チームが崩壊した』のではなく、ジャズらしいチームとしての強さで戦えたものの、どんなチームでも試合の中で出てくる『小さな綻び』をカバーできなかった印象です。明確な弱点があるのではなく、各ポジションで『個人の力』が少しずつ足りませんでした。

この『個人の力』はスーパースターによる強引なまでの個人技ではなく、ジャズが伝統的に持つチームオフェンスの中で選手一人ひとりに求められる細かな力のことです。オフの補強で求めたのも突出した個人技を持つ選手ではなく、チームバランスを維持しながらも個人としても活躍できる選手でした。

ポイントガードとしてアシスト役をこなしながら自らも得点を積み重ねるコンリーと、シューターとして40%を超える3ポイントシュート成功率を誇るボグダノビッチは、ともにオールスターに選ばれたことはありませんが、アンセルフィッシュなプレーで平均18点から20点を期待できます。強引に突破する選手を増やすのではなく、これまで通りのチームオフェンスを継続しながらも、各ポジションで少しずつ得点力アップが可能な選手を狙ったわけです。

また2人とも得点力に対してターンオーバーが少ないことも特徴です。特にコンリーは20点6アシスト以上を記録しながらターンオーバーは1.9と極めてミスが少なく、堅実な判断力が光る選手です。ボグダノビッチはボールを持っていない時の判断に優れ、味方がボールを奪った瞬間の走り出しが非常に早く、スピードはなくても速攻の先頭を走ります。

ジャズはあくまでもジャズらしく、チームオフェンスの中で的確な判断をできる好選手を集めていきました。他にもエド・デイビスやジェフ・グリーンといった実力者を獲得し、特定の選手に頼ることなく全員が攻守に機能するバランスを維持し、そこに個人の力が上乗せされる形でチームのベースアップに成功しています。

しかし、これらの代償として、チーム生え抜きで地味な仕事を確実にこなしたデリック・フェイバーズを放出しファンを悲しませ、さらにグレイソン・アレンをトレードに使ったことで若手有望株も手放しました。『充実した補強』はその裏で犠牲を払うものでもあり、『勝負のシーズン』でもあるのです。

コンリー、ゴベア、そしてジョー・イングルスの契約は残り2年。これがジャズの勝負の2年間。それはルーキー契約のミッチェルが安いサラリーで済む期間でもあります。2年後にはチームの再構築が待っています。

スモールマーケットのチームとしては思い切った補強をしましたが、それは今こそ優勝を狙う時期だと見極めて、若手よりもベテランの実力者を選んで勝負をかけたわけです。スーパースター争奪戦が目立つ中でも、チームカラーに合う実力者を的確に補強したジャズの進化が期待される新シーズンです。