文=丸山素行 写真=野口岳彦、B.LEAGUE

ファイナルで9得点4アシスト、不完全燃焼の結果に

5月27日に行われたBリーグファイナル、川崎ブレイブサンダースは栃木ブレックスとの接戦に競り負け、初代王者の座を逸した。

辻直人は自他ともに認める『お祭り男』だが、自分のパフォーマンスが低調に終わり肩を落とした。スタッツは9得点4アシスト。ニック・ファジーカスとともにエースを担う辻としては、不完全燃焼の結果と言わざるを得ない。

第1クォーターでは3ポイントシュートを含む7得点を挙げ、チームに勢いを与えた。辻も「第1クォーターの出だし、試合はいい入り方ができたと思います。悪くないというか、あそこから僕は乗っていくと思っていました」と『辻劇場』の開演を自身も感じる立ち上がりだった。

だが、リーグ最強の堅守を誇る栃木はすぐさまアジャスト。スイッチを併用し、しつこいディナイによってボールをもらうことさえも困難な状況を作り上げた。「もちろん栃木のディフェンスはキツいですし、タイトなディフェンスをしてきました。思い切ったプレーがあまり出せなかった」と辻は試合を振り返る。

『自分がやらなければ』の状況を脱し、推進力を失う

Bリーグ初年度は辻にとって故障に苦しんだシーズンとなった。それは『チームメートのレベルアップ』という副次的効果をもたらしたが、辻のプレースタイルに変化を生んでもいた。「今シーズン、僕が休んでいる時にチームとしては底上げし、スキルアップしました。そういった部分で昨シーズンまであった『自分が、自分が』より、チームのみんなに任せていました。良い意味でも悪い意味でもそうなって、自分がそれを見てしまっていた」

チーム力が上がり、『自分がやらなければ』という状況から脱したことが、辻の意識から推進力を奪うことになった。ガンガン攻めるスタイルから「見てしまっていた」の変化は大きい。「あそこから乗っていく」はずが、そうならなかった。

昨シーズンは優勝の喜びを味わっただけでなく、ファイナルMVPの栄誉にも輝いた。リーグをまたいでの連覇、そしてファイナルの大舞台で再び主役を演じることに強い意欲を抱いていた辻にとって、プレースタイルを見失った40分間も、その後に優勝を喜ぶ栃木の選手たちを眺めるのも、大いに悔しい経験となった。

辻は言う。「僕が1年目の時を思い出しました。来年、絶対リベンジしたい」

川崎はレギュラーシーズンを最高勝率で終え、その強さを印象づけたが、頂点には立てなかった。「初代王者は逃してしまったんですけど、Bリーグはこの1年で終わるわけではないです」と辻の意識は早くも来シーズンのリベンジに向いていた。失った「自分が、自分が」の意識は、この経験で取り戻せるはずだ。

ファイナルは総力戦「いろいろと活動していかなければ」

ファイナルが行われた代々木第一体育館、栃木ファンの黄色が川崎の赤を上回り、スタンドでは黄色が目立った。ファンの熱量の差が勝敗を分けた。辻がそれを口にすれば言い訳になるが、勝った栃木の選手たちはチャンピオンシップでの劇的な勝利の数々、そしてファイナルで見せた粘りを「ファンのおかげ」と口を揃えた。決して小さくない影響があったのは間違いない。

ファイナルは総力戦──。辻はそんな思いでこう語る。「アウェーに近い感じでした。川崎としては来シーズンまた同じ舞台に立った時、栃木さんのようにファンが来てくださるように、来シーズンに向けていろいろと活動していかなければいけない」

ただ、ファイナルに1万人を越す観客が訪れたことは、バスケットボール界にとっては快挙であり、今後のリーグ発展に期待が持てる結果だ。

「本当に変わった感じはします。観客の方もそうですし、演出なんかもNBLとは比べものにならないくらい豪華です」と、辻も観客の熱気を肌で感じている。だからこそ、「これからもっと成功させるには僕たちが頑張って、日本代表もそうですし、Bリーガーとしてやっていかないといけない」と決意を新たにした。

Bリーグ初年度、これまでとは比べものにならない注目が集まった。だが、今後もっと盛り上げていくためには選手たちの尽力が必要不可欠だ。リーグを代表するシューターにしてエンターテイナーである辻にはさらなる期待が寄せられる。