熊谷航

指揮官に異論を唱えることも辞さず「自分に合っている」

ポジションレスバスケを志向する長崎ヴェルカにおいて『トップの位置までボールを運び、オフェンスを指示する』という仕事はポイントガードだけのものではない。スモールフォワードのスタンリー・ジョンソンやパワーフォワードのジャレル・ブラントリーがそれを担うとき、熊谷航はコーナーのスペースを埋めるために走ったり、スクリーナーになったりする。

「長崎に来るまでは自分がボールを運んで、セットをコールして…というプレーが多かったので、『こういうバスケもあるんだ』と新しい発見でした」。こう話す熊谷に、直前に行われた記者会見で、モーディ・マオールヘッドコーチがバスケットボールIQの高さを評価していたと伝えると、次のように答えた。

「チームの約束事をしっかり頭に入れられてはいると思います。あとは、右サイドに3人いたら自分は逆サイドに行くとか、『お前は逆サイドに行け』とまわりに指示を出すとか、そういうところもなるべく意識するようにしていますね。モーディからは『お前がポイントガードとして出ている時は、何をやっているか分からないようなポゼッションをできるだけなくせ』と言われているので、他の選手にもなるべくそれを伝えるようにしています」

期待値の高さゆえなのだろう。熊谷いわく、マオールヘッドコーチは彼に対して人一倍厳しく、「1回ミスをしただけでめちゃくちゃ言われる」という。

マオールヘッドコーチは激情家で、非常に声が大きい。練習中も試合中も烈火のごとく…ハピネスアリーナ4階最上部の記者席まで響き渡るほどの大声でミスを咎められるのが日常だ。ただ、熊谷が無条件にすべてを受け入れているわけではないところに、長崎ヴェルカというチームと彼の良さがある。

「モーディの言っていることが違うと思ったら僕は言い返しますし、そこで『何だこいつは』とならないのがモーディ。ディスカッションを大事にしてくれるのですごくやりやすいし、自分に合っていると思います」

大東文化大時代、熊谷はピック&ロールのパートナーだったモッチ ラミン(熊本ヴォルターズ)と、半ばケンカに近い言い合いをしながら関係値を構築し、学生界屈指のコンビネーションを作り上げた。自分の意見を主張することと相互理解を大切にしてきた熊谷のキャラクターは、クラブ創設当初から『日々成長・日々競争』を1つのミッションとしてきた長崎のカルチャーにしっくりはまっている。

そして、熊谷はそれを体現しているのは自分だけではないと言った。「みんなが言いたいことを言えています。一つのゴールに向かう中で、時には言い合いをすることもあるんですが、それも含めてコミュニケーションを大切にしているクラブなので」

熊谷航

暫定首位にも浮かれず「点差や結果以上に苦労している」

新天地での生活は充実している。何よりチームは多くの勝ち星を挙げ、自身がそれに大きな貢献を果たしているという自覚もある。しかし、首位を独走する現状に対する心境を尋ねると、熊谷は「うーん」と言いよどんだ。

「数字だけ見ればすごく勝ててはいるんですけど、毎試合、点差や結果以上に苦労していますし、1試合1試合、本当に目の前の試合だけを見て戦っているので、なんかあっという間に過ぎているなっていう感覚です。すごいレコードなのは間違いないんですけど、『めっちゃ勝っているな』みたいに浮かれてはいません。最後の最後で一番上を目指すために、まだチーム作りの途中という感じですかね」

熊谷自身が理想とするプレーもまだ先にある。「ディフェンスは引き続き頑張りつつ、オフェンスでもっとインパクトを与えたい」とその一端を明かし、『ある人々』にできるだけ多くの勝利を届けたいのだと力を込めた。

「ヴェルカのスタッフっていうのは本当に働き者というか、真面目にチームのためにやってくれているんです。サポートしてくれている人たちに『頑張りが報われた』と思ってもらうためにも、もっと勝ち星を届けたい。今はそんな気持ちになっていますね」

バイウィーク明けの初戦は三遠ネオフェニックス。以降も2月中旬のリーグ休止期間までにかけて、シーホース三河、広島ドラゴンフライズ、宇都宮ブレックス、群馬クレインサンダーズと手強いチームとの対戦が待っている。前半戦で積み上げてきたチームのスタイルと自信を胸に、熊谷は高みを目指し続ける。