
「まずはディフェンス」の気持ちから試合を支配する
ビクター・ウェンバニャマは左足ふくらはぎの肉離れで1カ月間の戦線離脱を強いられ、NBAカップのセミファイナルで復帰してスパーズを勝利に導いた。しかし、試合前日の時点で復帰のゴーサインは出ておらず、スパーズを率いるミッチ・ジョンソンは「ふくらはぎの肉離れは軽視すべきではない。無理をさせるつもりはない」と語っていた。最近はふくらはぎの肉離れがさらに大きなケガに繋がる兆候が出ており、慎重になるのも当然だった。
結局、出場が許可されたもののプレータイムには20分間の制限があった。指揮官ジョンソンは第1クォーターをウェンバニャマ抜きで、第2クォーター以降の36分間でウェンバニャマを起用することを決めた。「それが理論的だったかどうかは分からないが、とにかくそうすることに決めたんだ」と指揮官は言う。
復帰に至るまでのやりとりをジョンソンはこう明かす。「彼はケガをした日からずっと『大丈夫、プレーできます』と言い続けてきた。正直に言えば無理なんだが、その気持ちはありがたい。ビクターに限らずすべての選手が、どんなコンディションであれコートに立ってプレーしたいという競争心を持ってほしい。そして、それを押し留めるのが我々スタッフの役目だ」
第2クォーターの頭にウェンバニャマが投入された時、スパーズは20-31とビハインドを背負っていた。第1クォーターのサンダーは7アシストに対してターンオーバーは2、8選手が得点するバランスアタックが機能して31得点を挙げていた。ウェンバニャマは「まずはディフェンス」という気持ちで試合に入った。
「何週間ぶりか分からない実戦だったから、ディフェンスに集中すると決めていなかったらプレーに迷ってしまったかもしれない」とウェンバニャマはこの時を振り返る。一方で、ノックアウトラウンドのカップ戦で復帰することに対しての不安はなかった。
「このタイミングで復帰できたのはラッキーだとしか思わなかった。自分らしいプレーに集中すれば大丈夫だと分かっていた」と彼は言い、こう続けた。「試合中にちょっと息が切れる場面はあったけど、普段から鍛えているおかげでコンディションは悪くない。これが復帰初戦、これから良くなる一方だと思う」
スパーズは今シーズン25試合目のこの日、初めてケガ人が全くいない状況でプレーができた。ウェンバニャマはまだ100%ではなかったが、それでも『王朝』を築こうとするライバルに対抗できるポテンシャルを示した。
「僕たちは開幕当初から良いチームだったけど、まだ経験を積んでいる段階だ。サンダーとの差はそこで、勝つために何が必要かは理解したけど、そのための経験がまだ足りていない。そこが僕らの次の課題になる」
「サンダーを見ると、ただリーグ首位なだけじゃなく、スタメンでもベンチの12番目の選手が出ていても同じプレーができる。最下位のチームが相手でも同じやり方で戦っている。勝つために必要な小さなことをやりきる力があるよね。その点で僕らは追い付かなければいけない」
ウェンバニャマは復帰初戦で試合を支配する力を見せた。ただ、彼だけの力で勝ったわけではない。ウェンバニャマの存在感は大きかったが、チームとしてサンダーを上回ったことをミッチ・ジョンソンは強調した。
「勝ちたい気持ちが強すぎて第1クォーターはぎこちなかったが、闘争心という意味では良いものだった。緊張がほぐれて落ち着けば良いゲームになると考えていた。ビクターはそのきっかけを作ってくれたが、チーム全体が良い戦いをしてくれたのは確かだ」
ウェンバニャマ不在の12試合でスパーズは9勝3敗と結果を出した。「我々はビクターを『チームの顔』と見なしているが、スパーズは彼だけのチームではない」とジョンソンは言う。「今日のビクターのパフォーマンスは素晴らしかったが、チーム全体としても素晴らしかった。相手はビッグマッチに慣れていて、我々はそうではなかった。しかし、試合が進むうちに非常に落ち着いて、冷静にプレーした。そうなった時、我々はベストなスパーズだったと思う」
ウェンバニャマも気持ちは同じだった。「欠場していた間にチームメートが必死に戦い、成長するのを見てきた。自分もその一部になりたいとずっと思ってきたんだ。僕が復帰してもみんなが同じように素晴らしいプレーをしてくれるのはうれしいよ。僕らはもっと強くなる。この試合は普段のレギュラーシーズンの試合とは全く違った。負ければ終わりの緊張感があった。僕らはこういう試合のためにあるチームだ」
復帰戦で最高のプレーを見せ、強敵サンダーを倒したことで、ウェンバニャマはいつになくご機嫌だった。会見ではこんなジョークも飛び出した。「僕はシックスマンの方が向いているかもしれない。今からベンチスタートになってもシックスマン・オブ・ザ・イヤーの資格はあるのかな? あるなら狙ってみてもいいかもしれないね(笑)」