文=丸山素行 写真=野口岳彦

勝負の第3戦で劣勢に立たされるも「3点差なら大丈夫」

川崎ブレイブサンダースとアルバルク東京によるセミファイナルは、川崎が第3戦までもつれた死闘を制した。これまでの戦いでもしばしば見られたように、どちらに転ぶか分からない接戦を川崎が制する上でポイントとなったのがセカンドユニットの力、すなわち層の厚さだ。

川崎が誇るベンチメンバーの中でも一際その存在感が光るのがポイントガードの藤井祐眞だ。ベンチから登場し、攻守ともに高いパフォーマンスで川崎を支えている。

A東京との第2戦では第4クォーターで2本の3ポイントシュートを沈め、劣勢からクロスゲームに持ち込む原動力となった。結局、その第2戦は1点差で落とし、未知なる第3戦を迎えたのだが、この時も藤井は冷静だった。

「しっかり切り替えは早くできたんじゃないかなと思います。やっぱり第2戦、ああいう負け方をして悔しかったんですけど、負けは負けでどうにもならないので、ラスト10分を戦うしかないという気持ちにすぐ切り替えて、それが結果につながったと思います」

第3戦では追いかける展開が続き、前半を終えた時点で3点のビハインドを背負っていたが、川崎の選手たちに焦りはなかった。藤井はこの時の心境をこう振り返る。「1ポゼッション差なので全然分からないですし、逆に東京が(田中)大貴の3ポイントと2ポイントで良い入りをしたにもかかわらず、3点差で終われたということはプラスだと思っていました。ニックもバスカンでフリースローを落としてしまったし、もっと離されてもおかしくなかった展開だったので、3点差なら大丈夫だと思っていました」

大接戦に終止符を打ったスティールからの速攻

「3点差なら大丈夫」の言葉どおり、川崎は落ち着いたプレーを続け、中盤で逆転。そして残り33秒、ファジーカスのティップによって22-16とリードを広げた直後、藤井が勝利を決定付けるプレーを見せる。田中のウイングへのパスをカットすると、そのまま持ち込んで後ろから走り込むライアン・スパングラーの速攻をアシスト。24-16と決定的なリードを奪ったのだ。

「相手に3ポイントシュートを打たれちゃいけないと思って、ポジションやローテーションをすぐできる位置で常に準備をしていました。結果的に大貴がシュートかパスかを迷ったところをひっかけた形だったので、そこの部分でいい駆け引きができたと思います」とスティールを生んだ見えない駆け引きを説明した。

第3戦の後半、川崎は藤井と篠山竜青のツーガードで戦った。北卓也ヘッドコーチは狙いをこう話している。「まずはディフェンスですね。彼ら2人が出ると足が動くので、プレッシャーをかけられるというところが一つ。あとは2人とも1番2番ができるので、そこから崩せる。外からのシュートも入るというところが、彼らツーガードの良い点です」

第3戦までもつれる消耗戦、『足』を残している選手が残っていない中、藤井はいつもと変わらぬ強度でプレーを続けた。「正直、第2戦が終わって疲労はあったと思うんですけど、この5分で勝負が決まってしまう、シーズンが終わるか次に進めるかというところだったので、自分の持ち味であるアグレッシブさがいつも以上に出せたと思います」と藤井は誇らしげに語る。

「お膳立てをして、僕は泥臭いところを頑張りたい」

身長178cmと決して大きくはない藤井だが、スピードと得点力だけでなく、跳躍力を生かしたリバウンドも武器。ビッグマンがひしめくペイントにも果敢に飛び込むことでリバウンドを押さえる。「一つのポゼッションが大事になってくるので、シュートが落ちるかなと思った時にはリバウンドにも飛び込みます」と、意識の高さがリバウンドにも生きている。スピードと跳躍力を生かした、レブロン・ジェームズばりのチェイスダウンブロックもこれまでに何度か披露しており、ファイナルでも勝負どころでこの武器が飛び出すかもしれない。

ファイナルの相手は栃木ブレックス。A東京に勝った土曜の取材だったため、まだ相手は決まっていなかったが、優勝への自信を問われた藤井は「はい、もちろん」と力強く答えている。

「今は竜青さんがノッてますし、ニックという大黒柱もいて、クラッチシューターというか大舞台にめちゃめちゃ強い辻(直人)さんがいるので」とチームへの信頼と自信を語る。「そこのお膳立てをして、僕は泥臭いところを頑張りたい」と付け加えるところが何とも藤井らしい。

謙虚さは保ちながら卑屈になることなく、自らの役割を全うできる。そんな選手が揃っていることが、『川崎のセカンドユニット』の強さの秘訣だ。ファイナルの舞台は代々木第一体育館、そのコートをアドレナリン全開で縦横無尽に駆け巡る藤井の姿が目に浮かぶ。