テンプル大戦で勝利の立役者に
アメリカの古都フィラデルフィアで11月15日に行われたテンプル大戦は、ボストンカレッジでプレーするテーブス流河にとって1つの指標にできるゲームとなった。
右手首、右肩の故障で開幕から2戦は欠場し、この日が自身今季2戦目だったテーブス。敵地での接戦の中で、後半残り13分45秒のところでコートインすると、以降は一度もコートを離れることはなかった。自軍ベンチに交代させる選択肢を与えなかったと言い換えても良い。バランスの良いゲームメークでチームを落ち着かせる役割を果たし、76-71で挙げた大きな勝利の功労者になった。
「チームオフェンスの組み立てがあまりよくなかった。そこの部分でしっかりとゲームを組み立て、自分のシュートチャンスがあったら積極的に狙っていったのでよかったです」。試合後、テーブス本人のそういった言葉からも手応えが感じられた。
この日は控えポイントガードとして約17分をプレーし、6得点(フィールドゴール3/5本、3ポイントシュート0/2本)2アシスト2リバウンド。実際の貢献度は数字が示す以上であり、伝統校相手の勝利はその落ち着いた司令塔ぶりがなければ有り得なかっただろう。
テーブスは続く18日のハンプトン大戦でも約20分をプレーし、8得点(フィールドゴール3/5本、3ポイントシュート0/2本、フリースロー2/3本)4アシスト3リバウンドを記録。プレータイムは右肩上がりであり、復帰以降は3戦連続でクロージングラインナップに含まれているのも心強い。
「少しずつ信頼されて、どんどんプレータイムを伸ばして、先発の座を勝ち取るというのが目標です。今日はそれに一歩近づいたかなという印象です」
日本代表のテーブス海を兄、指導者のBT・テーブスを父に持つ弱冠20歳の若者は、カレッジ2年目の飛躍に向けて大きな一歩を踏み出しているのだろう。
今シーズン最初の5戦を終えて3勝2敗と勝ち越してはいるものの、ボストンカレッジの行く手には厳しい道が待ち受けている。所属しているのはデューク大、ノースカロライナ大、ルイビル大、バージニア大など全米レベルの強豪が揃ったアトランティック・コースト・カンファレンス(ACC)。群雄割拠のカンファレンスで戦い抜くのは並大抵のことではない。昨シーズンACCでは4勝16敗、シーズン全体でも12勝19敗と惨敗したボストンカレッジは、開幕前の各メディア媒体のパワーランキングでも軒並み最下位かワースト2に据えられていた。
多くのメンバーが入れ替わった今シーズン、まずは開幕直後のノンカンファレンスゲームで勝ち星を稼いでおきたいところだった。それが初戦のフロリダ・アトランティック大戦をオーバータイムで落とし、さらに11月11日にはセントラル・コネチカット大にも1点差で敗北。このままでは、昨シーズン比でも大きな勝ち星アップは難しそうな雰囲気が漂っている。
「素材はあるので、あとは遂行力。練習中はプレーをしっかり遂行できているんですけど、試合になってテンポが速くなって、フィジカルも強くなったときに遂行できないスパンが多いんです。毎試合、毎ポゼッション、しっかりとディフェンスのカバレージなどを遂行するのが自分たちの課題だと思います」。テーブスはそう述べ、冷静に未来を見つめていた。
カンファレンスゲームが始まる年明けまでに、13戦におよぶノンカンファレンスゲームでどれだけプレーの精度、遂行力を挙げられるかがカギ。就任5年目を迎えたアール・グラントヘッドコーチ以下、やらなければならないことはたくさんあるというのが現実に違いない。

信頼度をさらに高め、目標とする「スタメン入り」へ
もっとも、そのような混沌とした状況はまだカレッジでの実績を確立していない選手たちにとってはチャンスという考え方もできる。ボストンカレッジでの1年目は平均8.5分のプレーで1.6得点、1.2アシストだったテーブスもまた、そんなカテゴリーに含まれる。
「今学んでいるのは、『結果ではなくプロセスに向き合う必要がある』ということ。1日ずつ、1試合ずつ学び、そのプロセスを信じるべき。この勝利からも学べるし、今のチームからは僕も本当に多くを学んでいます」
15日のテンプル大戦に勝った後、グラントヘッドコーチはこのように『過程』にいることを強調していた。実際に指揮官は最善のラインナップを模索している印象があり、上記通り、テーブスのプレータイムが増え続けているのは好材料だ。ベンチ登場ながら終盤の重要な時間帯を任されているのだから、信頼度が増しているのは容易に想像できる。
「役割はたぶんゲームによって変わってくると思います。シューティングが足りない時に出されたり、ゲームメークが足りない時に出されたりするので、それに対応して自分のプレーを変えていくというのを意識するようにしています」
『バランスの取れたポイントガードになりたい』というテーブスのミスの少ない安定したプレースタイルは、発展途上のボストンカレッジでは効果を発揮するに違いない。まだ3ポイントシュートが決まっていないが、それが入り始めればオフェンスの組み立てもより容易になる。それぞれのプレーを研ぎ澄ませていけば、さらにプレータイムを増加させることも可能ではないか。
夏には日本代表デビューも飾ったテーブスにとって、これからしばらくはアメリカでのカレッジキャリアを考える上で重要な時間になる。このままヘッドコーチ、チームメートの信頼を確立させ、強豪カンファレンス内でのプレーに向けて勢いをつけられるか。その多才さとバスケットボールIQの高さを考慮すれば、今後のプレー次第で目標に掲げる『2年目でのスタメン入り』も十分に視界に入ってくるはずだ。
