橋田幸華

2024年の元旦に起きた能登半島地震は、石川県の輪島市と志賀町で震度7を記録した。輪島市にある日本航空石川でも大きな被害が出て、さらに能登空港に隣接するキャンパスが政府と自治体の災害応急対策と復興支援の拠点となったことで、バスケ部の活動だけでなく学校生活も送れなくなった。東京の青梅市への仮移転を経て、能登に戻れたのは今年5月のこと。それでも今も「すべてが元通り」ではない。そんな状況でも日本航空石川は「考えながらやるバスケ」でチーム力を高め、初めて石川県予選を制して3年連続3回目のウインターカップに挑む。

「不安になっても仕方ない、目の前のことに最善を」

──地震が起きた時は輪島にいらっしゃいましたか。

自宅で元旦を過ごしていました。震災で自宅は半壊し、立ってはいましたが傾いているので住めなくなりました。家族がどうやって生活していくか、それしか考えられなかったのが最初の2、3週間でした。家族とか親戚は無事でしたが、周囲には亡くなった方もいます。

生徒たちの学習を止めてはいけないと、学校側が山梨の日本航空で生徒を受け入れる手配をしてくださいました。山梨に行って、その後に東京の青梅に移るのですが、能登キャンパスがどうなるか分からない、いつ戻れるかも分からない。先の見えない不安は大きかったですが、「不安になっても仕方ない、目の前のことに最善を尽くそう」と思い、山梨に行って生徒を受け入れる準備を始めました。

バスケ部の練習も再開したのですが、私自身が家族を地元に残しているし、両親もミニバスの活動ができない中で、自分だけバスケをやっていて良いんだろうか、という気持ちも正直ありました。

──大変な中でも、良かったことは挙げられますか。

青梅市をはじめ多くの方々が受け入れてくださったことです。バスケ部の活動という意味では関東のチームの皆さんが「交流しましょう」と声を掛けてくださって、たくさんの人たちに支えていただきました。拓殖大さんや八王子学園さんから「いつでも来てください」と言っていただいて、何度も練習や試合をさせてもらいました。

──今年5月に能登に戻ったそうですが、まだすべて元通りではないんですよね。

グラウンドの修繕が今月に終わります。高校の校舎の修繕はまだこれからで、今は併設校の大学の校舎で、大学生と一緒の教室を使っています。一番大きな寮も住居としては使えない状態で、まだ先は長いです。

日本航空石川

「勝ったら初優勝になる。歴史を変えるよ」

──話をバスケに戻します。石川県のウインターカップ出場権は2枠あって、決勝進出の段階で出場が決まっていました。それでもライバルの鵬学園に勝って、石川県の1位になるという意気込みは大きかったように思います。

同じ相手に同じ場所で2回負けているので、今回は選手たちも「絶対勝つ」と気持ちが入っていました。ウインターカップに出場できれば2位でもうれしいですが、やっぱり1位になりたいし、私たちはウインターカップの石川県予選で優勝したことがありませんでした。私からは「勝ったら初優勝になる。歴史を変えるよ」と伝えてモチベーションを高めました。

今の3年生は「ちょっと力がない」と言われてきた代です。インターハイ予選は全然ダメだったし、北信越大会でも不甲斐ない試合をしました。だからこそ絶対に一番になるぞと伝えました。その代で、先輩たちが叶えられなかった優勝を成し遂げられて良かったです。

──日本航空石川と鵬学園は好対照で、鵬学園はガッツを前面に押し出すスタイルのチームです。もし負けて2位でウインターカップに行くことになっていたら、自分たちのスタイルへの自信が揺らいだままウインターカップに臨むことになったのではありませんか。

そこは勝ち負けで左右されるところではないと思っています。その時の最善がこのバスケで、それで負けたらどこがダメだったかを考えてウインターカップまで練習するだけです。ギャンブルでスティールに成功して速攻を出せても「なんでギャンブルした?」と選手には言いますね。

橋田幸華

「ただ走るだけじゃなくて考えて走りながら」

──県予選で優勝してからウインターカップまで1カ月半。この期間にどんな部分をレベルアップさせてウインターカップに臨みたいですか。

もっと質を高めないといけないのはディフェンスリバウンドです。他のほとんどのチームはウチより大きいので、まずはそこを徹底すること。あとはボールを止めずに流れるようなオフェンスができるよう、「相手がこう来たら、こう」というバリエーションをもう少し5人で作りたいです。

今はブレイクの練習も増やしていて、ただ走るだけじゃなくて、誰がどこにいてどこにパスを出すか、それに対して誰がどのタイミングでどこに走るか。ただ走るだけでなく、走りながら判断する。全員が自分と仲間の位置を把握し、最適なプレーを選べるように。この選手がここにいるからこのプレーを選択する、というチームプレーの質を上げていきたいです。

──チームの目標はベスト8とうかがいました。自分たちのバスケをやる前提で、目標達成のポイントはどこになりますか。

キャプテンの藤波あかりですね。マリエが20得点、ガードとフォワードで20得点を取る。藤浪はリバウンド、ルーズボール、フォロー、身体を張ってガツガツと頑張ってチームを支えてくれますが、彼女も20得点を取ってもらえるとチームとしては本当に助かります。

──「頭を使うバスケ」が、初めて見るバスケファンにも伝わるような「見るべきポイント」はありますか?

ディフェンスリバウンドを取った瞬間に、みんなそれぞれ決まったポジションに走ります。その中でどこにパスが出るのか、パスが出たらその次はどんなプレーの選択をするのかを想像しながら見てもらうと楽しめると思います。あとはマリエを起点にして生まれるオフェンスですね。

──「留学生に預けて終わり」の逆で、マリエ選手から生まれるプレーが多彩ですよね。

マリエはただローポストにいるだけじゃなく、いろんなポジションを取ります。「そこから何かやるぞ」と思って見ていただければと思います。