岸本隆一

過去2年間、琉球ゴールデンキングスはオフの補強戦線で次々と実績十分の選手たちを獲得し大きな注目を集めた。彼らの活躍もあって2シーズン連続の地区優勝、チャンピオンシップのセミファイナル進出と、強豪の仲間入りを果たすことができた。しかしこのオフには、古川孝敏、アイラ・ブラウン、橋本竜馬、須田侑太郎など、躍進を支えてきた主力の半数が一気にチームを去った。新シーズンのチームがどうなるのか未知数な部分が多い状況を、残る選手たちはどう考えているのか。チーム創設年から12年間在籍した沖縄出身の金城茂之が退団したことで、『琉球の顔』としてより大きな責任感を担う岸本隆一に心境を聞いた。

主力の多くが退団で「より覚悟を持たないといけない」

──このオフ、琉球はチームの刷新に動いています。岸本選手にとって、プロの世界なのでこれも当たり前なのか。それとも割り切れない部分があるのか、どう受け止めていますか?

プロの世界は甘くないですし、ずっと同じメンバーでいることで、ちょっと間違えば馴れ合いに繋がってしまうこともあります。それでも一緒に戦ったメンバーがいなくなることには、やっぱり寂しさや見送る辛さがあるのも本音です。

ただ、自分はこのチームにいないといけない、その思いは常に持っています。チームに在籍し続けられる保証があるわけではないので、より覚悟を持たないといけない。それはここ1、2年で意識するようになりました。

──ローテーションに入っていた選手がこれだけ抜けると、チームは根本的に作り直すことになります。その中で、岸本選手がどう個性を出していくのか意識する部分はありますか?

またチームを作り上げていくのにすごい時間や労力が必要だとはなんとなくイメージできます。ただ、言い方が悪くなってしまいますが、まずはその中で自分の特徴をいかに出していけるか、そこに優先して取り組んでいかないとチームのためにもならない。大変ですけど、やるべきことはシンプルという気持ちです。

──bjリーグ時代の琉球は、オフにメンバーが入れ替わるといっても少ない人数でした。それがBリーグになって4人、5人と変わるのが当たり前です。その変化には慣れましたか?

僕の中ではBリーグ初年度が終わった後のオフ、本当にそれまで4シーズン、5シーズン一緒に戦った仲間が一気にいなくなったあの時が一番の衝撃で、甘くないことをすごく感じました。それを考えると慣れた面はあります。変な話、自分が移籍しているわけではないですし。

岸本隆一

危機感よりも責任感「自分が先頭に立っていく」

──金城選手の退団で、琉球で在籍が一番長い選手になりました。意識の変化はありますか?

シゲさん(金城)に加えて並里(成)が入ってきたことで、地元出身のプレッシャーは感じないようにしていましたし、余り重く受け止めていない面もありました。それが今年はシゲさんもいなくなります。大きなことを言うようですけど、自分がやらないとこのチームは成り立たない。そのくらいの責任感というか覚悟に近いもので、新シーズンは「俺がキングスの心臓なんだ」という思いで、よりプライドを持ってやりたいです。

──他のチームの補強は意識するものですか?

今年はあまり気にしてないですね、自分たちのチームから選手がいなくなることには、すごく感傷的な気持ちになります。でも、もう誰がどこに移籍するらしいよと聞いても、あまり驚かなくなりました。特に今シーズンに懸ける自分自身の思いがすごく強いので、他の選手の動向を気にしていられないのが正直なところです。

──昨シーズン、試合に出ていた選手が一気に抜けることは一人の選手として再びプレータイムを取り戻せるチャンスだ、という感覚はありますか?

チャンスとは思っていません。また、危機感は前のシーズンの方が正直ありました。並里が来て、竜馬さんが来てという中で取り組んでいたので。今は危機感よりも、自分がやらないといけないという責任感が強いです。その上でプレーが上手くいくことも、いかないこともあると思いますが、それでもブレずに自分が一番先頭に立っていく態度を見せていく。これまであまり感情を出さないでいましたけど、今年はそういうものをどんどん出していって、チームを優勝に導きたいと強く思っています。そこは意識して出していきたいです。

──オフシーズンはどのような過ごし方をしていますか?

とにかく今はトレーニングをして、純粋にスキルアップしたい、そして試合に出たい。そういう気持ちで過ごしています。シーズン中と変わらない熱量を持って過ごしている感じですね。

──沖縄市民体育館をホームアリーナとするのは新シーズンが最後です。再来年はいよいよ1万人アリーナで本拠地となります。そのことは意識しますか?

それはあります。もちろん、今よりも多くの人に見られて、球団としての価値がどんどん上がっていくことで、自分としても常に競争に残らないといけないという思いがあり、新アリーナのことはすごく意識しますね。

岸本隆一

「自分たちはまだ何も成し遂げていない」という思い

──2年続けてのセミファイナル進出を受けての新シーズン、大きくメンバーも変わる中で、どんな思いを持って挑まないといけないのか。どういう一年になっていくと思いますか?

ファイナルに行かないと成長していない、結果が出ていない。そういう捉え方をされると思います。昨シーズンに学んだのは、何が起きてもブレない、何が起きても自分として、チームとしても、やろうと決めたことをとことん貫く重要さです。主力選手のケガとか、マイナスな出来事があっても貫き続けるのが大事であり、そのためには日頃から相当な覚悟を持って取り組んでいかないといけないです。

──その中で岸本選手の役割はどう変化していくのか。もしくは、変化させていきたいと考えていますか?また、改めて新シーズンに向けて、今の段階で抱く思いを教えてください。

昨シーズンは、それぞれ選手の特徴や役割がハッキリしていたので、自分がとにかくやらないといけない、とならなくても良かった。実際にそれがチームとしてベストだったと思います。ただ、今年は周りがどう感じるのかは分からないですけど、自分がやらなきゃ優勝できないと思っています。

これまでの成績や期待も込みで、周りには自分たちのことを強豪と表現してくれる方たちも多いです。でも純粋に僕の中には「自分たちはまだ何も成し遂げていない」という思いがずっとあるんです。その危機感は絶対に持っていないといけない。

今までのバスケット人生を振り返ってみても、自分より強い相手、デカい相手を、小さい自分がどう倒していくのか。常にチャレンジしていくことが僕のルーツです。あらためてその姿勢は大事だと、シーズンを振り返って感じるところはたくさんありました。この挑戦する気持ちは、本当に大事にして戦うべきだと思っています。