シーホース三河にとっては試行錯誤のシーズンとなった。橋本竜馬が抜けたポイントガードには生原秀将が、その後は熊谷航が据えられた。比江島慎の後釜となる2番ポジションは、開幕戦では西川貴之。それが次の試合では森川正明となり、次節からは加藤寿一が先発に据えられた。加藤は11試合連続で先発し、その間には7連勝もあった。岡田侑大が先発で固定されたシーズン中盤戦以降も、加藤はローテーションの一角に組み込まれて試合に出続けた。アーリーエントリーだったNBLラストシーズンも入れれば4年目、プレータイムは大きく伸びて手応えはあったはず。しかしチームはチャンピオンシップ進出を逃している。このオフ、加藤は何を考えて次の挑戦へと向かっているのか。その胸中を聞いた。
「勝利へのプレッシャーを感じた」シーズン
──チームとしてはチャンピオンシップ進出を逃した悔しいシーズンとなりましたが、加藤選手個人としてはプレータイムを大きく伸ばしました。手応えは感じていますか?
スタメンで起用された試合が11あって、このチームでスタメンを張れることは自信になりましたが、定着できなかったのは反省点です。1年前、今まで通りのオフを過ごしていたらガタッと成績が落ちるという危機感がまずチームにありました。だから例年より早くそれぞれが練習を始めたし、僕にとっては日本代表のエースである比江島さんが抜けたのはチャンスだという思いもありました。自分に何が足りないのかを考えてオフシーズンの練習に取り組んだことが、プレータイムに繋がったと思っています。
──シーズン中盤戦からはスタメンから外れました。ここで気落ちした部分はありますか?
そうでもないですね。ただ単純にスタメンに定着できなかっただけであって、出場機会はもらえていました。それに僕の役割は点を取ることではなく、場面場面でハードなプレーをすることでチームに勢いを与えることだと考えていました。スタメンで起用されれば、それで立ち上がりから激しさを出してチームを盛り上げます。当然やり甲斐はあるし「スタメンって良いな」と思いましたけど、ベンチから出ても自分のやることは変わらないので。岡田は将来このチームの中心になる選手なので、先発から外れても自分の役割をしっかりやるだけでした。
先発かどうかよりも、勝利へのプレッシャーを感じることはありましたね。このチームは結果こそがすべてで、勝たなければいけない。プレータイムが伸びればチームに勝利をもたらさなければならない責任感も増えます。ヘッドコーチからは「まずはバスケットを楽しむこと」が先に来て、その次として「絶対に勝つ」という話を毎回してもらっていたんですけど、やっぱりずっと勝ってきたチームなので「勝たなきゃいけない」と一人ひとりが感じていました。僕はそれまであまり試合に出ていなくて、プレータイムが増えたことは素直にうれしかったのですが、思うように身体が動かないこともあり、そこはプレッシャーがあったと正直思います。
「どんな時も頑張ることを先輩たちに教えてもらった」
──「選手は試合に出ることで成長できる」と言われます。これまでも努力は怠らなかったと思いますが、プレータイムが伸びたこの1年間で今までにない成長ができたと感じますか?
学生時代はずっと自分が中心のチームで、試合に出られないなんて考えたこともありませんでした。それでこのチームに来て、柏木真介さんや橋本竜馬さんというすごい先輩たちにやられて試合に出られないことを初めて経験しました。そこで落ち込んだり、もうダメだと思うこともあったんですけど、その柏木さんや橋本さんが「試合に出るだけがお前の存在感を示すことじゃない」という話をしてくれたんです。高橋マイケル選手のような大ベテランもいてくれて、ベンチの在り方も教わりました。
ただベンチに座って試合を眺めるなら誰でもできますが、チームの一員として考えて行動することが大事です。試合に出ないからと不貞腐れるのではチームに悪影響を与えるし、自分自身も潰れてしまう。だからどんな時も頑張ることを先輩たちに教えてもらったのは大きいです。
それに比江島さん金丸さんという日本のトップレベルの選手たちとマッチアップできるので。試合に出て他の誰かとマッチアップするより、練習場で試合以上の経験を積むことができると感じていました。だから僕は毎日の練習で比江島さんを相手にしても「絶対に止めてやるぞ」というつもりで向き合っていました。練習で自信をなくすこともありましたが、1回止めるだけでも自信になります。そういう選手たちと毎日一緒にやれていたことが僕の中で生きています。
──来シーズンは新たにキャプテンを任されます。三河がどんなタイプの選手にキャプテンを任せるのかは明確ですよね。「次は自分だ」という思いはありましたか?
狩俣(昌也)さんがケガでベンチに入れない時にはゲームキャプテンを務めさせてもらっていたので、ちょっとですけど「僕かな」という思いはありました。僕がこのチームに入った時には竜馬さんがキャプテンで、狩俣さんも引っ張っていたので、熱くプレーして背中で見せる2人のイメージが強いです。でも、自分がそれをできるかと言えば、今はまだできないので、僕は僕らしく。僕は誰とでもコミュニケーションが取れるタイプですから、その部分を生かしたいです。
この1年の反省は、選手の入れ替わりが多くてケミストリーが足りなかったことです。新しい選手と前からいる選手、ベテランと若手を繋ぐ意味で、僕がキャプテンという立場でケミストリーを高めていきたいです。今まで積み重ねてきたことが認められてキャプテンに指名されたと思うので、新しく特別なことをやるのではなく、そこは変えずに継続していきます。そうやっていずれは竜馬さんや狩俣さんのようなキャプテンに近づきたいです。
「チームに頼られて、決める選手にならなきゃいけない」
──『縁の下の力持ち』は大事ですが、さらなる飛躍という意味では個人のスタッツも残したいとは思いませんか?
正直に言えばあります。だけど、今シーズンは勝てていないので、まずはチームの勝ちです。すごい選手たちが入って来てくれたので、また優勝を狙えるチームにしたい、優勝したい、というのが今の気持ちです。スタッツはどうしても気になりますけど、自分の数字や調子は関係なく、とにかく優勝したいです。
プレータイムを勝ち取るのはまた大変だと思いますが、今までやってきたことは残っています。ここから開幕に向けて準備をしていきますが、僕が20得点できるかと言えばそうはならない。今まで与えられた仕事を継続するのが第一です。どれだけ点を取っても守れなければ勝てないので、僕の役割が必要になる時は必ず来ます。そうやって必要とされる選手でありたいです。
そこからさらに自分で勝ち取るという意味では、もう一つの武器、アピールできるポイントも必要になります。川村(卓也)さんが加入しましたが、それで「川村さんお願いします」になるんじゃなくて、僕も一人の選手として結果を出していきたいです。
──シーズン終了から結構たって、あのシーンも冷静に振り返られると思いますが……。
分かります、川崎戦での最後のシュートですよね(笑)。
──そうです。シーズン最終節、川崎ブレイブサンダースとの第1戦の最後、決めれば逆転勝利で、チャンピオンシップにも進出できていたであろうシュートを決められませんでした。
リードを守り切れなかった展開もそうですけど、やっぱり僕にとってはあのシュートを決められなかったことが反省すべき点です。正直、ああいう場面でシュートを打っていませんでした。そういう経験は大事だし、外したこともこれからの糧になると思うんですけど、次に同じ場面が来た時には絶対に決めたいので、そのための技術とメンタルを身に着けたいです。
僕はあの試合での篠山(竜青)さんのプレーをすごく鮮明に覚えているんです。前半は調子が悪かったし、苦しかった体勢で打ったシュートもあったのに、大事な場面での1本1本を確実に決めてきました。「日本代表のポイントガードだから」で終わらせたら簡単な話ですけど、ああいう場面でチームに頼られて、ちゃんと決める選手にならなきゃいけないと強く感じました。自分がシュートを外した、大逆転されたことよりも、篠山さんのプレーが今でも忘れられないです。
──まだオフの真っ最中ですが、モチベーションには事欠かないですね。最後にあらためて、来シーズンに向けた抱負を聞かせてください。
来シーズンはチャンピオンシップ進出は当たり前として、やっぱり優勝ですよね。僕らはスローガンとして『共に頂点へ』を掲げていて、スポンサーの方々やファンの皆さんと一緒に戦っています。みんなで頂点を目指して、そして優勝したいです。それだけのメンバーが揃った、それだけの力があるチームだと僕は信じています。だから抱負としては『優勝』の二文字だけです。
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